採血
(採血法 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/06/22 21:59 UTC 版)
採血(さいけつ、blood collection[注 1])とは、生体の血液を採取する医療行為であり、主に臨床検査の検体を得る目的で行われる。 主要な採血の種類には、静脈採血、動脈採血、毛細管採血があり、日常診療で最も広く行われるのは静脈採血である。 採血の目的は血液検査であることが多いが、輸血のための供血や細胞採取、治療としての瀉血なども採血の重要な目的に含まれる[1][2]。
採血の種類
静脈採血・動脈採血・毛細管採血
血液の主要な採取法としては、大別して、静脈血を採取する静脈採血(venous blood sampling、venipuncture、phlebotomy[注 2])、動脈血を採取する動脈採血(arterial blood sampling)、皮膚を穿刺して毛細管血を採取する毛細管採血(capillary blood sampling)の3つがある[2]。
留置カテーテルからの採血
静脈や動脈に留置カテーテルが設置されている場合は留置カテーテル経由で採血が行われる場合もある。 ただし、留置カテーテルからの採血は輸液や抗凝固剤による汚染のリスクがある。また、中心静脈カテーテルからの採血は血流感染のリスクを伴うため、施設のマニュアルに従い、適切な適応と手技で実施する必要がある[3]。
特殊な血液採取法
上記以外の特殊な血液採取法としては、以下の例がある。
- 選択的血管造影下採血
- 例えば、原発性アルドステロン症などの副腎皮質ホルモン過剰症では、副腎腺腫の存在側などを同定するため、副腎静脈サンプリング(採取部位によるホルモン濃度の差を検索)が行われる[5]。
採血の目的
検査
日常臨床でもっとも頻繁に行われるのは血液検査のための採血である。 通常は静脈採血が行われるが、血液ガス分析には、動脈血が用いられることが多い。 新生児や小児、および、臨床現場即時検査(point of care testing, POCT)では、しばしば、毛細管採血が行われる。 血糖自己測定などの自己採血も毛細管採血である[2]。
供血・細胞採取
献血[注 3]や自己血貯血のように、他者または自己への供給を目的として 血液を採取することがある。また、血小板製剤の場合などには、アフェレーシス(成分採血)により、必要な血液成分のみを採取して残余を供血者に返血することがある[11]。
治療
採血は治療として血液を除去する目的で実施されることもある(瀉血)。 例として、鉄過剰症[注 5]や真性多血症[注 6]がある。
また、特定の血液成分(たとえば白血球[12])を除去して残余を回収する治療的アフェレーシスもよく用いられるが、通常、これは瀉血とは区別される[13]。
静脈採血
適応
末梢静脈採血は、比較的安全で疼痛が少なく、十分量の血液を採取しやすい。血液ガス分析で酸素分圧を測定する等の特別な理由がない限り、血液検査には一般に静脈採血が用いられる。 また、目的や方法は異なるが、供血・瀉血にも静脈が使用される[14]。
以下、成人の血液検査の場合の採血法を述べる。
方法
- ホルダー採血法
真空採血管と採血用ホルダーを用いる方法である。 針刺し事故のリスクが少ないことから、標準採血法ガイドラインでは、 特に理由がないかぎり、ホルダー採血法を用いることが推奨されている[15]。
- 注射器採血法
注射器で血液を吸引する方法である。 手技的にはホルダー採血法より細い血管等での採血が容易とされ、採血困難例などで使用されることがある。 採血後の分注操作は、針刺し事故のリスクを減らすため専用の分注用安全器具が使用される[15][2][16]。
なお、採血項目や容器によっては、真空採血が禁止されている場合がある[注 7]。 血液培養容器は、容器によってはホルダー採血には対応していないことがあり、施設の手順に従う[17]。
準備物品
施設・状況により若干異なるが、一般的なものをあげる[15][2][14]。
- 目的とする検査項目に適合した採血容器(真空採血管)
- 真空採血管のキャップは添加物により色分けされており[注 8]、ラベンダーはEDTA管、緑はヘパリン管、水色・黒はクエン酸ナトリウム管、灰色は血糖検査用のフッ化ナトリウム管、赤は抗凝固剤なしの血清用管という区別が一般的であるが、メーカーによっては、独自の色分けをしていることがあり、各施設で確認する必要がある[18]。
採血部位
しばしば選択されるのは肘窩の正中皮静脈である。肘窩に適切な血管がない場合は手背や前腕の静脈を使用することもある。血管を見つけにくいときは静脈可視化装置が用いられることがある[14][20]。
肘窩の尺側(正中神経)や手首の橈側(橈骨神経浅枝)、手首の掌側(正中神経や腱)は神経等を損傷するリスクがあるため避ける。 その他、輸液中・カテーテル留置中の腕、透析シャントのある腕、重い皮膚炎・感染・熱傷部位、麻痺のある腕などは避ける。また、施設の運用にもよるが、乳房切除側の腕や麻痺側の腕も避けることが多い[15][14]。
手順
ここでは成人のホルダー法採血の手順の概要を述べる。施設・状況により若干異なることがある[15][2]。
- 座位または臥位で採血する。血管迷走神経反射の既往がある例やレニンなど体位の影響を受ける検査項目では臥位で採血されることが多い。
- 患者確認を行う。たとえば、氏名と誕生日を名乗ってもらう、リストバンドでバーコード認証を行うなどの患者誤認防止策がとられる。希望採血部位・採血禁忌部位・採血合併症既往・消毒用アルコール禁忌なども確認する。また、採血管のラベルと患者が一致すること等を確認する[注 11]
- 手指消毒の後、手袋を装着する(患者ごとに交換)。
- 採血用ホルダーと針を接続する。
- 穿刺する静脈を選択し、駆血帯を採血部位よりも7〜10 cm程度中枢側で装着する(長時間の駆血は検査値に影響を与えることがあるが、1分以内であれば影響は少ない)[注 12]。
- 穿刺部位を消毒する(穿刺は消毒薬が乾いてから)。
- 利き手でホルダーを持ち、対側の手の母指で穿刺部位の末梢側皮膚を引いて血管を固定する。
- 15〜30度の角度(深部の血管以外は通常20度以下で可能)で穿刺し、血管内腔に針の先端を進める(翼状針では血液の逆流が確認しやすい)。
- ホルダーに真空採血管を押し込むと血液が流入する。流入し終わったら外して転倒混和し次の採血管と交換する。
- 最後の採血管を外したら駆血帯を解除した後に採血針を抜去する。
- 5分以上圧迫止血を行う。圧迫用のバンドを使用することもある。(揉むと皮下出血や血腫のリスクがある[21]。)
- 使用した採血針はリキャップせずに、注射器やホルダーとともに専用容器に廃棄する。
合併症
- 神経損傷
- 穿刺1万〜10万回に1回程度とされる。損傷した神経領域の痛み、しびれ、運動障害などがみられる[15]。
- 血管迷走神経反射
- 採血時の迷走神経の興奮に伴う血圧低下・徐脈によるものであり、頻度は0.01〜1 %程度とされる。気分不良、冷汗、失神などがみられる。血管迷走神経反射の既往がある場合は臥位で採血が行われる場合がある[15]。
- 皮下出血
- 血腫を形成することがある。高度の場合はコンパートメント症候群もおこりうる。抗血栓剤使用中はリスクが高い[15]。
-
ホルダー法での静脈採血。
-
注射器法で直針を用いて肘皮静脈から採血をするところ。黄色は駆血帯、針の根本の青い部品は使用後に針を覆い針刺し事故を防止するための安全装置。
-
翼状針を用いたホルダー法での静脈採血。
動脈採血
適応
血液ガス分析が主な適応である。その他、まれに、緊急に血液検査が必要で静脈採血が困難な場合に実施されることがある。 ただし、動脈血は静脈血と比べ、血球や高分子蛋白など一部の検査項目の値に若干差が見られることがある[注 14]。また、抗凝固剤(ヘパリン)により凝固検査等には適さないことなどに留意する必要がある。
採血部位
器具
近年は、動脈採血専用の、抗凝固剤(ヘパリンリチウムなど)入のディスポーザブル(使い捨て)注射器が使用されることが多い。
手技
橈骨動脈を穿刺する場合の手技の概要を以下に述べる[2]。
合併症
血液ガス採取後7日以内の主要な合併症の発生率は0.14 %であり、塞栓または血栓が最も多く次いで動脈瘤が多かったとの報告がある[23]。
-
静脈血(左の2本)は黒赤色、動脈血(右3本)は鮮紅色
-
橈骨動脈の頻繁な穿刺後に発生した仮性動脈瘤
毛細管採血
毛細管採血とは、毛細血管が豊富な部位の皮膚を浅く穿刺し、にじみ出る血液を採取する手技である[注 16]。穿刺には、近年は使い捨ての専用穿刺器具が用いられることが多い[2][24][25]。
毛細管採血の適応
毛細管採血の部位
新生児では、通常、踵が用いられる。成人では指頭が利用されることが多いが、耳朶(みみたぶ)が用いられることもある[24][30][26]。
-
指先の穿刺で毛細管血を得る
-
毛細管採血による血糖測定
-
新生児の踵からの採血
採血を行う職種と関連法令
医師・歯科医師・医学生
採血は医行為に該当するとされており、医師が行う医業に含まれる[31] [32] 歯科医師は歯科医業の範囲内で採血を行うことができるとされている[33]。 また、医学生には、臨床実習において指導医の指導・監視のもとに、成人の毛細管採血および末梢静脈採血が認められている[34]。 ただし、以下に述べるように、看護師・准看護師・臨床検査技師などの職種にも医師の指示の下で一定の範囲の採血の実施が認められている[35][36][37]。
看護師・准看護師
看護師・准看護師は医師または歯科医師の指示の下で診療の補助として採血を行うことができる(保健師助産師看護師法第五条[38]・ 保健師助産師看護師法第三十一条・第三十二条[39])。
臨床検査技師
臨床検査技師は医師または歯科医師の具体的指示により採血を行うことができる(臨床検査技師等に関する法律第二十条の二[40])。
救命救急士
救急救命士には、医師の具体的指示のもとで行う救急救命処置が認められている[41]。 2025年時点では、血糖測定のための毛細管採血は認められているが、 検査目的の静脈採血は救急救命処置としては認められていない(ただし輸液のための静脈路確保は認められている)[42][43]。
臨床工学技士
臨床工学技士は、診療の補助として医師の具体的な指示の下に生命維持管理装置の操作を行うにあたり「身体からの血液の抜き取り」が可能であるが、これは生命維持管理装置の操作に関連するものであり、一般的な採血とは異なる[44]。
その他の医療系職種
自己採血・検体測定室
自己採血による血糖自己測定は保険診療上も認められており、糖尿病患者等で広く実施されている[45][46]。 薬局等に設置されている検体測定室では、検査希望者本人が自ら毛細管血の採取を行う[29][47]。
海外のフレボトミスト
欧米では採血の専門職種phlebotomist(フレボトミスト、静脈採血士[48])が検査および供血のための静脈採血を行うことがある。日本にはフレボトミストに対応する採血専門職制度は設けられていない[49][50][51]。
脚注
注釈
- ↑ 検査を目的とする場合は blood sampling、採血目的を特に指定しない場合は blood collection。
- ↑ 検査のための静脈採血全般は venous blood sampling、穿刺を伴うものは venipuncture。phlebotomy は、原義は瀉血のための静脈切開であったが、近年は検査目的と瀉血の両方を含む、静脈採血全般を指す。Ialongo, C., Bernardini, S. (15 February 2016). “Phlebotomy, a bridge between laboratory and patient”. Biochemia Medica 26 (1): 17–33. doi:10.11613/BM.2016.002. ISSN 1330-0962 2026年5月2日閲覧。. “PHLEBOTOMY Definition & Meaning - Merriam-Webster”. Merriam-Webster Dictionary. 2026年5月1日閲覧。
- ↑ 過去には有償の売血も行われていたことがある。
- ↑ 末梢血以外に、骨髄血(骨髄移植) や、幹細胞を比較的多く含む臍帯血(臍帯血移植)が移植に用いられる場合がある。骨髄血や臍帯血の採取は、通常の静脈採血とは異なる特殊な手技である。
- ↑ 赤血球に含まれるヘモグロビンの鉄という形で過剰な鉄を体外に排除する。
- ↑ 真性多血症では過剰な赤血球のために血液粘度が上昇して血栓のリスクが上昇するため、瀉血で過剰な赤血球の除去を行うことがある。
- ↑ 例をあげれば、アンモニアは、容器によっては、除蛋白液の逆流リスクがあるため真空採血禁止となっている。“Q113 血中アンモニア検査の採血管には「真空採血厳禁」と注意書きがありますが、真空採血をしてはいけない理由を教えてください。”. 広島市医師会臨床検査センター. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ キャップの色は国際的に標準化されているわけではないが、主要メーカーでは概ね共通に用いられるカラーコードがあり、JISで推奨されている。
- ↑ 翼状針はデッドスペースが大きくなるため、採血量の正確性を要する凝固検査などでは注意する必要がある(1本めに採取するのは避け、必要ならダミー採血管を先に使用してデッドスペースを満たす)。
- ↑ 針が穿通しない硬い材質で黄色のバイオハザードマークが表示されている。
- ↑ 大規模な施設では、採血管作成装置からラベルを貼った採血管と認証用のバーコードラベルが患者ごとのトレイで供給される。
- ↑ 駆血後に手を握ったり開いたりさせる動作(パンピング)は、カリウム値を上昇させることがあるため、カリウムを含む検査の際は避ける。
- ↑ 過去には滅菌不十分な真空採血管からの逆流による血流感染が問題になったことがある。“真空採血管を用いた採血業務に関する安全管理指針について”. 日本感染症学会. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ 動脈血の水分が組織液に移行し最終的にはリンパ液として大循環に戻るため、静脈血の方が若干濃縮されている形になる。
- ↑ アレンテスト(Allen's test)では、患者の手の橈骨動脈と尺骨動脈を強く圧迫し、手が乏血状態になったことを確認して、尺骨動脈の圧迫のみを解除する。これで手掌の色調が正常に戻れば、アレンテストは陰性、すなわち、万一橈骨動脈が閉塞しても手の血流は維持されることを意味する。永井一成, 榎本尚美 (1989). “救急処置の基本的手技”. 医療 43 (4): 496–500. doi:10.11261/iryo1946.43.496.
- ↑ なお、毛細管血は採取時の組織液の混入や凝固により結果値が影響されることがある
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関連項目
外部リンク
- “標準採血法ガイドラインに基づく正しい採血法”. 日本臨床検査医学会. 2026年5月2日閲覧。
採血法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 09:38 UTC 版)
大腿動脈(鼠径部)、上腕動脈(肘)もしくは橈骨動脈(手首)などから採血する。通常の採血(静脈)と違い動脈を穿刺するので、看護師ではなく医師が行う。採血管(シリンジ)には抗凝固薬が添加されており、採った血液の凝固を防ぐ。
※この「採血法」の解説は、「血液ガス分析」の解説の一部です。
「採血法」を含む「血液ガス分析」の記事については、「血液ガス分析」の概要を参照ください。
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