大亜湾原子炉ニュートリノ実験とは? わかりやすく解説

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大亜湾原子炉ニュートリノ実験

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/02 11:43 UTC 版)

大亜湾検出器の1つ。

大亜湾原子炉ニュートリノ実験(だやわんげんしろニュートリノじっけん、中国語大亚湾核反应堆中微子实验)は、ニュートリノを研究する中国に拠点を置く多国籍の素粒子物理学プロジェクトである。多国籍共同研究には、中国、チリ、米国、台湾、ロシア、チェコ共和国の研究者が参加している。このプロジェクトは米国では、アメリカ合衆国エネルギー省の高エネルギー物理学局から資金提供を受けている。

概要

香港から北へ約52 km深圳市から東へ約45 kmの大亜湾に位置する。提携プロジェクトとして香港のアバディーントンネル地下研究所英語版がある。アバディーン研究所は、当実験に影響を与える可能性のある宇宙線ミュー粒子からできる中性子を測定している。

6基の原子炉から1.9 km以内の3ヵ所に集めた、8個の反ニュートリノ検出器で実験を行う。それぞれの検出器は20 tの液体シンチレータガドリニウムを添加した直鎖アルキルベンゼン)を、光電子増倍管と遮蔽体で取り囲んで構成したものである[1]

後継機はこれらよりも規模がかなり大きく、開平市江門地下ニュートリノ観測所英語版(JUNO=Jiangmen Underground Neutrino Observatory)として開発してきた[2][3]。この観測所では原子炉の反ニュートリノを検出するため、アクリル球に20 ktの液体を満たしたシンチレータを用いる予定である。起工(2015年1月10日時点)[4][5][6]から2021年末の地下ホール引き渡しを経て、中心検出機の最も内側にアクリル球を据え付ける工程(2024年10月11日時点完了[7])、2024年に液体の注入が始まり[8]、2025年[注釈 1]に稼働が見込まれる[9]

ニュートリノ振動

この実験は大亜湾原子力発電所嶺澳原子力発電所の原子炉で生成される反ニュートリノを用いてニュートリノ振動を研究し、混合角θ13を測定することを目的としている。科学者は、ニュートリノでCP対称性の破れがあるかどうかにも興味を持っている。

2012年3月8日、大亜湾共同研究グループは5.2σの有意性で以下のようにθ13≠0であることを発見したと発表した[10][11][12]

これは驚くほど大きな混合角であり、新しい種類のニュートリノ振動を表す有意な結果である[13]。これはT2KMINOS英語版およびダブルショーで以前に測定された、より有意性の低い結果と矛盾しない。θ13 がこれほど大きいならば、NOνAはニュートリノ質量階層性を検出できる可能性が50%程度の確率であるといえる。これらの実験でニュートリノのCP対称性の破れも探査できる可能性がある。

共同研究グループは2014年に解析結果を更新した[14]。エネルギースペクトルを使用することで混合角の範囲が改善された。

水素に捕捉された中性子からの事象による、独立した測定の結果も公表された[15]

.

当実験のデータを使用して、軽いステライルニュートリノの信号が探索され、以前には未探査だった質量領域が除外された[16]

Moriond 2015物理学カンファレンスで、混合角と質量差の新たな最適値が発表された[17]

2023年4月21日の大亜湾の発表では、以下の測定精度を報告した:

順階層の質量に対して、 もしくは逆階層の質量に対して、 [18]。大亜湾共同研究グループは「報告された は近い将来最も正確なの測定であり続ける可能性が高く、ニュートリノ振動における質量階層とCP対称性の破れの調査に極めて重要である。」と示唆した。

反ニュートリノスペクトル

大亜湾共同研究グループは反ニュートリノエネルギースペクトルを測定し、約5MeVのエネルギーの反ニュートリノが理論的予測より多いことを見出した。観測と予測の間のこの予期しない不一致は、素粒子物理学の標準模型に改善が必要であると示唆している[19]

共同研究者

脚注

注釈

  1. ^ 一説によると[7]、正式な稼働は2025年8月で、データを取り始める予定。

出典

  1. ^ Daya Bay collaboration (22 May 2012). “A side-by-side comparison of Daya Bay antineutrino detectors” (英語). Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 685 (1): 78-97. arXiv:1202.6181. Bibcode2012NIMPA.685...78A. doi:10.1016/j.nima.2012.05.030. https://www.researchgate.net/publication/237172571. 
  2. ^ Li, Xiaonan (August 2013). Daya Bay II: Jiangmen Underground Neutrino Observatory (JUNO) (PDF). Windows On the Universe (英語).
  3. ^ Open the Gate to New Physics World—Strategic Priority Research Programme of Jiangmen Underground Neutrino Observatory and Its Progress--《Bulletin of Chinese Academy of Sciences》2015年05期” (英語). 中国知網. 《Bulletin of Chinese Academy of Sciences》. Tsinghua Tongfang Knowledge Network Technology Co., Ltd. (Beijing) (TTKN) (2015年5月). 2019年8月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年7月1日閲覧。
  4. ^ Grassi, Marco; SISSA Medialab (24 January 2017). The Jiangmen Underground Neutrino Observatory. New Experiments/Facilities (英語). Vol. 274. XIII International Conference on Heavy Quarks and Leptons. p. 073. 2025年7月1日閲覧. 22-27 May, 2016; Blacksburg, Virginia, USA.
  5. ^ JUNO Conceptual Design Report. Physics > Instrumentation and Detectors. (2015-09-28). arXiv:1508.07166. https://arxiv.org/pdf/1508.07166 
  6. ^ “Groundbreaking at JUNO” (英語). Interactions NewsWire. (2015年1月10日). http://www.interactions.org/cms/?pid=1034412 2015年1月12日閲覧。 
  7. ^ a b 地下700mのニュートリノ実験単体アクリルボール広東江門で完成”. japanese.cri.cn (2024年10月11日). 2025年7月1日閲覧。 “中国科学院が11日に明らかにしたところによると、地下700メートルに位置する江門ニュートリノ実験(JUNO)の中心検出器に設置される、世界最大の単体アクリルボールの据え付けが完了し、建設は最終段階に入りました。”
  8. ^ 巨大最先端装置の「江門ニュートリノ実験」の液体注入が始まる”. japanese.cri.cn (2024年12月18日). 2025年7月1日閲覧。
  9. ^ Noriega, Alberto (2025年1月29日). “中国の巨大な地下球体は2025年に宇宙の秘密を解明する可能性がある”. Driving ECO. 2025年7月1日閲覧。
  10. ^ Daya Bay Collaboration (2012). “Observation of electron-antineutrino disappearance at Daya Bay” (英語). Physical Review Letters 108 (17): 171803. arXiv:1203.1669. Bibcode2012PhRvL.108q1803A. doi:10.1103/PhysRevLett.108.171803. PMID 22680853. http://resolver.caltech.edu/CaltechAUTHORS:20120521-073412262. 
  11. ^ Adrian Cho (2012年3月8日). “Physicists in China Nail a Key Neutrino Measurement” (英語). ScienceNow. 2012年3月9日閲覧。
  12. ^ Eugenie Samuel Reich (8 March 2012). “Neutrino oscillations measured with record precision” (英語). Nature. doi:10.1038/nature.2012.10202. http://www.nature.com/news/neutrino-oscillations-measured-with-record-precision-1.10202. 
  13. ^ “Announcing the First Results from Daya Bay: Discovery of a New Kind of Neutrino Transformation” (Press release) (英語). University of California, Berkeley. 8 March 2012.
  14. ^ Daya Bay Collaboration (10 February 2014). “Spectral measurement of electron antineutrino oscillation amplitude and frequency at Daya Bay” (英語). Physical Review Letters 112 (6): 061801. arXiv:1310.6732. Bibcode2014PhRvL.112f1801A. doi:10.1103/PhysRevLett.112.061801. PMID 24580686. http://resolver.caltech.edu/CaltechAUTHORS:20140327-145449958. 
  15. ^ Daya Bay Collaboration (3 October 2014). “Independent measurement of the neutrino mixing angle θ13 via neutron capture on hydrogen at Daya Bay” (英語). Phys. Rev. D 90 (7): 071101. arXiv:1406.6468. Bibcode2014PhRvD..90g1101A. doi:10.1103/PhysRevD.90.071101. http://resolver.caltech.edu/CaltechAUTHORS:20141204-112407246. 
  16. ^ Daya Bay Collaboration (1 October 2014). “Search for a Light Sterile Neutrino at Daya Bay” (英語). Phys. Rev. Lett. 113 (14): 141802. arXiv:1407.7259. Bibcode2014PhRvL.113n1802A. doi:10.1103/PhysRevLett.113.141802. PMID 25325631. http://resolver.caltech.edu/CaltechAUTHORS:20141205-151429088. 
  17. ^ Bei-Zhen Hu; et al. (14 May 2015). “Recent Results from Daya Bay Reactor Neutrino Experiment” (英語). arXiv:1505.03641 [hep-ex].
  18. ^ F. P. An et al. (Daya Bay Collaboration) (2023). “Precision Measurement of Reactor Antineutrino Oscillation at Kilometer-Scale Baselines by Daya Bay” (英語). Physical Review Letters 130 (16): 161802. arXiv:2211.14988. doi:10.1103/PhysRevLett.130.161802. 
  19. ^ An, F.P. (2016-02-12). “Measurement of the reactor antineutrino flux and spectrum at Daya Bay”. Physical Review Letters 116 (6): 061801. arXiv:1607.05378. Bibcode2016PhRvL.116f1801A. doi:10.1103/PhysRevLett.116.061801. PMID 26918980. 

関連項目

外部リンク


大亜湾原子炉ニュートリノ実験

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大亜湾原子力発電所嶺澳原子力発電所原子炉生成される反ニュートリノ検出する実験混合角

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