切ったメロン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/16 06:37 UTC 版)
| フランス語: Le Melon entamé 英語: The Cut Melon |
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| 作者 | ジャン・シメオン・シャルダン |
|---|---|
| 製作年 | 1760年 |
| 素材 | キャンバス上に油彩 |
| 寸法 | 57 cm × 52 cm (22 in × 20 in) |
| 所蔵 | キンベル美術館、フォートワース (テキサス州) |
『切ったメロン』(きったメロン、仏: Le Melon entamé、英: The Cut Melon)は、18世紀フランス・ロココ期の巨匠ジャン・シメオン・シャルダンが1760年にキャンバス上に油彩で制作した静物画である。楕円形型の作品で、テーブル上の2本の瓶、水差しが切ったメロン、いくつかのモモ、プルーン、2つのナシの両側に配置されている。
作品は1761年のサロン・ド・パリに出品された当時、対作の『アンズの瓶』同様に、金細工師ジャック・ロエティエールに所有されていた。2024年6月12日にフランスの個人蔵の作品としてクリスティーズの競売に掛けられ、シャルダンの作品の価格としては新記録となった2,673万ユーロ (手数料込) でヨーロッパの収集家に売却されたが、その後すぐにテキサス州フォートワースのキンベル美術館のコレクションに加わった[1]。なお、本作にもとづく1763年のレプリカ『メロン、ナシ、モモ、プルーン』がパリのルーヴル美術館に所蔵されている[2]。
作品
ヴェルサイユ宮殿で華麗なロココ趣味の世界が展開されていた時代に、シャルダンは生涯パリの町をほとんど離れなかった[3]。そして、身近な物ばかりを描いて、流行を追うようなこともなかった[4]。
シャルダンの静物画は、厳しい造形と深い色調によって豊かな詩情を湛えている。彼は独特の厚塗りの技法を使ってあらゆる質感を描き分けたが、単なる技術を超えて、それぞれの事物が固有の生命感を持つ、不思議に静謐な世界を創造した[4]。シャルダンは自分の仕事ぶりを誰にも見せず秘密にしていたので、人々は「彼は魔術のような秘密の技法を持っている」と噂したほどであった。シャルダン自身、「私は絵具を用いて仕事をするが、心で描く」といっている[4]。
本作は相互に作用する丸い事物を主なモティーフとしており、切ったメロンの上に載せられている、明るいオレンジ色の一切れが焦点となっている。シャルダンがわずかにしか用いていない楕円形のキャンバスが、画中の様々な曲線のモティーフを強調している[1]。光と色彩のニュアンスにより、シャルダンはそれぞれのモティーフに不可思議な重量感を与える一方、生き生きとした浮遊感も与えている。構図は厳しく造形されているものの、作為なしに生み出されたもののように見える[1]。
暗色のガラス瓶、ナシの張り詰めた皮、メロンの甘美な果肉、ベルベットのようなモモなど、すべてに思わず触れてしまいたくなる。丸みを帯びた水差しの把手は、あたかも掴むためのように鑑賞者の方に向けられている。シャルダンの見事な、遅い午後のような柔らかな光は、鑑賞者をこの魅惑的な画面にくぎづけにする。この傑作は、美しい色彩の調和、言葉では言い表せない技巧、伸びやかなものから乾いたものまで変化に富む筆致を示しており、シャルダンを大絶賛したドゥニ・ディドロの「そのような魔術は計り知れない」という言葉を想起させる[1]。
ギャラリー
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『アンズの瓶』 (1758年)、アートギャラリー・オブ・オンタリオ、トロント
脚注
参考文献
- 坂本満 責任編集『NHKルーブル美術館VI フランス芸術の華』、日本放送出版協会、1986年刊行 ISBN 4-14-008426-X
外部リンク
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