ブドウの籠、銀のゴブレット、瓶のある静物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/15 12:54 UTC 版)
| フランス語: Panier de raisins, gobelet d'argent et bouteille 英語: Basket with Grapes, a Silver Goblet and a Bottle |
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| 作者 | ジャン・シメオン・シャルダン |
|---|---|
| 製作年 | 1728年ごろ |
| 素材 | キャンバス上に油彩 |
| 寸法 | 69 cm × 58 cm (27 in × 23 in) |
| 所蔵 | ルーヴル美術館、パリ |
『ブドウの籠、銀のゴブレット、瓶のある静物』(ブドウのかご、ぎんのゴブレット、びんのあるせいぶつ、仏: Panier de raisins, gobelet d'argent et bouteille、英: Basket with Grapes, a Silver Goblet and a Bottle)は、18世紀フランス・ロココ期の巨匠ジャン・シメオン・シャルダンが1728年ごろ、キャンバス上に油彩で制作した絵画である。おそらく1862年にルイ・ラ・カーズ氏のコレクションに入った作品で[1]、1869年に氏からパリのルーヴル美術館に遺贈された12点のシャルダンの作品中に含まれていた[1][2]。
作品
ヴェルサイユ宮殿で華麗なロココ趣味の世界が展開されていた時代に、シャルダンは生涯パリの町をほとんど離れなかった[3]。そして、身近な物ばかりを描いて、流行を追うようなこともなかった[4]。
シャルダンの静物画は、厳しい造形と深い色調によって豊かな詩情を湛えている。彼は独特の厚塗りの技法を使ってあらゆる質感を描き分けたが、単なる技術を超えて、それぞれの事物が固有の生命感を持つ、不思議に静謐な世界を創造した[4]。シャルダンは自分の仕事ぶりを誰にも見せず秘密にしていたので、人々は「彼は魔法のような秘密の技法を持っている」と噂したほどであった。シャルダン自身、「私は絵具を用いて仕事をするが、心で描く」といっている[4]。
本作は、シャルダンの静物画に通例見られるように、白ブドウや赤ブドウ、モモ、プラム、洋ナシといった果物と、18世紀に普及していた型の瓶のような日用品とが組み合わされている。同じく当時出回っていた型の銀のゴブレットやガラスのコップなどは、『銀のゴブレットのある静物』 (ルーヴル美術館) などシャルダンのほかの静物画でたびたび目にするモティーフであり、微かな反射作用の中に光の効果を引き出している[2]。
前景に不安定に置かれている、口の開いたプラムや洋ナシは、17世紀オランダ絵画黄金時代のヴァニタス画を想起させる[2]。そうした絵画の象徴体系では、腐りかかった食物や壊れた器物の存在は人生の儚さを表すものであった。本作の背景の壊れた壁、そこから見える空 (来世) への開口部は、こうした象徴体系に属している[2]。実際、シャルダンの作品の中で開口部を穿って外の世界を覗かせることは極めてまれで、偶然とは思われない。しかも、彼が17世紀オランダ絵画に触発されたという事実があるだけに、ヴァニタス画的な解釈は的外れではないように思われる。しかし、一方で、この簡素な静物画を題材に、単に田舎風の気分を喚起することが目的だったという可能性もまた、否定することはできない[2]。
脚注
参考文献
- 坂本満 責任編集『NHKルーブル美術館VI フランス芸術の華』、日本放送出版協会、1986年刊行 ISBN 4-14-008426-X
- 『ルーヴル美術館200年展』、横浜美術館、ルーヴル美術館、日本経済新聞社、1993年刊行
外部リンク
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