ノクニッツァとは? わかりやすく解説

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ノクニッツァ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/05 15:05 UTC 版)

ノクニッツァ
頭蓋骨と部分的な骨格を含むホロタイプ標本のブロック
地質時代
後期ペルム紀キャピタニアン
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 四肢動物上綱 Tetrapoda
: 単弓綱 Synapsida
: 獣弓目 Therapsida
階級なし : 獣歯類 Theriodontia
亜目 : ゴルゴノプス亜目 Gorgonopsia
: †ゴルゴノプス科 Gorgonopsidae
: ノクニッツァ属 Nochnitsa
学名
Nochnitsa
Kammerer and Masyutin, 2018
  • Nochnitsa geminidens Kammerer and Masyutin, 2018

ノクニッツァ学名Nochnitsa)は、ヨーロッパロシアを流れるヴャトカ川の川岸に分布する最上部グアダルピアン統から化石が産出した、ゴルゴノプス亜目に属する絶滅した獣弓類[1]。頭蓋骨や右前肢をはじめとする部分的な骨格が知られており、全長は不明であるが、頭蓋骨長が8.2センチメートルであることから小型の属と推測されている[1]。ゴルゴノプス類の頭蓋骨の形態形質は顕著に表れており、鼻梁から頭頂部にかけて平坦な頭蓋天井や異歯性といった特徴を確認できる[1]。ゴルゴノプス科の中では基盤的な位置に置かれる[1]

発見と命名

ノクニッツァが発見されたコテリニチの産地を示す地図

ノクニッツァの標本はKPM 310という1個だけが知られており、本標本は1994年にロシアの古生物学者Albert J. Khlyupinがヨーロッパロシアキーロフ州コテリニチヴャトカ川の川岸に分布するRed Bedsで発見したものであった。標本はVanyushonki部層から産出しており、この地層からはゴルゴノプス亜目ヴィアトコゴルゴン英語版を含め他の同時代の獣弓類が発見されている。地質年代は明らかではないが、グアダルピアン世の末期からローピンジアン世の前期と見られている。発見された標本はヴャトカ古生物学博物館ロシア語版でOlga Masyutinaによるプレパレーションを受けた[2]

2018年に古生物学者クリスチャン・カンメラーとウラジミール・マシューチンは科学雑誌PeerJに2本の論文を投稿し、コテリニチで発見されたゴルゴノプス類とテロケファルス類の新属を命名した[2][3]。ゴルゴノプス類に焦点を当てた論文の方ではKPM 310は新属新種のホロタイプ標本に指定され、Nochnitsa geminidensが命名された[2]

ノクニッツァはスラブ神話に登場する生物にちなんで命名された。これはゴルゴノプス亜目の数多くの属の属名の由来となっているギリシア神話に登場する生物ゴルゴーンになぞらえたものであり、また本属の夜行性の生態を反映したものでもある。種小名geminidensは「双子の歯」を意味し、本種の固有派生形質である対をなして配列するに由来する[2]

特徴

頭蓋骨

ノクニッツァは小型のゴルゴノプス類であり、頭蓋骨長は82ミリメートルに過ぎない。比較的長い吻部には左右それぞれに5本の門歯と1本の犬歯および犬歯以降の歯が6本存在した。犬歯以降の歯は3組の歯が長い歯隙で隔てられており、これは本属の固有派生形質である。それぞれの歯の組において、後側の歯の方が大きい。下顎は比較的細長く、他のゴルゴノプスと異なり強靭な先端部を持たない[2]

体骨格

ホロタイプ標本が含まれているブロックの右側。より詳細な体骨格要素が見られる

ノクニッツァのホロタイプ標本には頭蓋骨と体骨格要素の一部が保存されており、頸椎胴椎および肋骨がある。右前肢も保存されており、部分的に関節する[2]

頸椎においてaxial spineは広くかつ丸みを帯びており、他の穂ゴルゴノプス類と形態が類似する。胴椎は肋骨に挟まれた神経棘と横突起の断片が保存されており、肋骨は単純で長く伸びている。肩甲骨は長く伸びており、狭く、かつ弱く湾曲しており、同サイズのゴルゴノプス類のものと類似する。ただし、肩甲骨の棘が前後に拡大しているイノストランケビアと異なる[2]

上腕骨は比較的細長く、筋肉の付着する三角筋陵が短くかつ発達しない。尺骨橈骨は遠位で顕著に湾曲しており、橈骨の遠位端は骨体の分離した縁を形成する。肘頭の突起は尺骨に認められないが、これは病変に起因する可能性がある。保存された近位の手首の要素は尺骨と橈骨およびおそらく中手骨と思われる2つの小さな不規則な要素からなる。尺骨は近遠位方向に最も長い手首の骨であり、近位端と遠位端で幅が拡大する。橈骨はより短く、丸みを帯びる。中心骨の可能性がある骨は保存が悪いが、弱く湾曲するように見える。他のゴルゴノプス類に基づくと、中心骨の窪んだ表面はおそらく橈骨と関節するものである。近位手根骨と中手骨の間には小さな不規則な骨が複数存在しており、おそらく遠位手根骨であると思われるが、保存状態が劣悪であるためこれ以上の同定は不可能である。他の手首の骨に比べて非常に長いため、最も保存が良好な2本の骨はおそらく既知のゴルゴノプス類の手首の中で最も長いことが知られている第3中手骨と第4中手骨と考えられる。これらより短いもののまだ細長い要素は第5中手骨の可能性がある。保存状態の悪い半分関節した一連の骨は指と思われ、そのうち1本は手根骨で終わる可能性がある。指骨と思われる骨の大きさから、これらはおそらく第3中手骨と第4中手骨から乖離した第3指と第4指に相当する。ただし指骨の数を確定させることは困難である。また、一般にゴルゴノプス類に存在することが多い縮小した円盤状の指骨の明確な証拠はない[2]

分類

ヴィアトコゴルゴンとノクニッツァの頭蓋骨

ノクニッツァは既知の範囲内で最も基盤的なゴルゴノプス科の属に位置付けられており、これはテロケファルス類と同様の低い下顎結合英語版や、長く伸びた歯の列といった複数の共有原始形質に基づくものである。こうした形質状態は派生的な属には存在しない[2]。カンメラー自身が過去に行った系統解析から派生したものではあるが[4]、カンメラーとマシューチンによる2018年の解析ではゴルゴノプス類の系統関係が大きく見直され、派生的なゴルゴノプス類はロシアの分岐群とアフリカの分岐群に大別された[2]。この系統解析においてもノクニッツァは基盤的な位置に置かれており[5][6]、2つの分岐群が枝分かれする以前の段階に位置されている[1]

以下のクラドグラムはKammerer and Rubidge (2022)に基づく[6]

ゴルゴノプス亜目

Nochnitsa

Viatkogorgon

"Russian clade"

Suchogorgon

Sauroctonus

Pravoslavlevia

Inostrancevia

"African clade"

Phorcys

Eriphostoma

Gorgonops

Cynariops

Lycaenops

Smilesaurus

Arctops

Arctognathus

ルビジア亜科

古生態

古環境

N. geminidens復元図

ノクニッツァはコテリニチの産地から発見されているが、当該の産地にはヴャトカ川の川岸に沿って一連のペルム系の赤色の単層が露出している。ノクニッツァの標本は特にVanyushonki部層から産出しており、これはコテリニチのサクセッションの中で最古の岩相であり、淡い色か茶色の泥岩(シルト岩と粘土岩、細粒砂岩も含む)と灰色の泥岩からなり、この露頭の底部には暗赤色の泥岩がある。こうした泥岩はおそらく氾濫原に停滞した水塊やあるいは氾濫した浅い一時湖で懸濁して堆積したものと思われるが、堆積物の主要な構造が失われているため、厳密な堆積環境は不明である。植物の根や幹が存在することから、堆積当時は比較的湿潤で植生が豊かであったことが示唆される。コテリニチの動物相の年代は不確かであるが、南アフリカ共和国で発見された中期ペルム紀の後期から後期ペルム紀の前期にかけての地層と同じ年代である可能性がある[2][7]

Vanyushonki部層からはノクニッツァと同時代の四肢動物の化石が豊富に産出しており、関節した骨格や完全な骨格も知られている。近縁なヴィアトコゴルゴンの他には、異歯亜目スミニア英語版やテロケファルス類のチリノヴィア英語版ゴリニクス英語版カレニテス英語版ペルプレキシサウルス英語版スカロポドン英語版スカロポドンテス英語版ヴィアトコスクス英語版がいる。パレイアサウルス類デルタヴジャティア英語版は特に化石が豊富であり、側爬虫類エメロレテル英語版も知られている[2][3][8]貝虫の化石も発見されている[7]

生態学的地位

化石記録から示されるように、コテリニチの動物相はゴリニクスやヴィアトコスクスをはじめとする大型のテロケファルス類が支配的であった。これら2属はゴルゴノプス類であるノクニッツァやヴィアトコゴルゴンよりも大型であり、このことから当時のゴルゴノプス類は大型のテロケファルス類よりも小型の捕食動物としての地位を占めていたことが示唆される。このことは、キャピタニアンの大量絶滅事変英語版の後にゴルゴノプス類から前述の2属を大きく上回る体格の属種が登場した事実からも裏付けられている[3][5]。こうした生態的地位はゴルゴノプス類の多様化が起こる前にあたる南アフリカ共和国カルー盆地のPristerognathus Assemblage Zoneでも同様のものが見られる[3]。しかし、カンメラーはフォルキス英語版のような大型のゴルゴノプス類が既に存在したことも指摘しており、ゴルゴノプス類の全ての属がそうした生態的地位にあったわけではないとした[6]

出典

  1. ^ a b c d e 土屋健『前恐竜時代 失われた魅惑のペルム紀世界』ブックマン社、2022年10月22日、126-127頁。ISBN 978-4-89308-953-3 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l Christian F. Kammerer; Vladimir Masyutin (2018). “Gorgonopsian therapsids (Nochnitsa gen. nov. and Viatkogorgon) from the Permian Kotelnich locality of Russia”. PeerJ 6: e4954. doi:10.7717/peerj.4954. PMC 5995105. PMID 29900078. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5995105/. 
  3. ^ a b c d Christian F. Kammerer; Vladimir Masyutin (2018). “A new therocephalian (Gorynychus masyutinae gen. et sp. nov.) from the Permian Kotelnich locality, Kirov Region, Russia”. PeerJ 6: e4933. doi:10.7717/peerj.4933. PMC 5995100. PMID 29900076. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5995100/. 
  4. ^ Christian F. Kammerer (2016). “Systematics of the Rubidgeinae (Therapsida: Gorgonopsia)”. PeerJ 4: e1608. doi:10.7717/peerj.1608. PMC 4730894. PMID 26823998. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4730894/. 
  5. ^ a b Eva-Maria Bendel; Christian F. Kammerer; Nikolay Kardjilov; Vincent Fernandez; Jörg Fröbisch (2018). “Cranial anatomy of the gorgonopsian Cynariops robustus based on CT-reconstruction”. PLOS ONE 13 (11): e0207367. doi:10.1371/journal.pone.0207367. PMC 6261584. PMID 30485338. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6261584/. 
  6. ^ a b c Christian F. Kammerer; Bruce S. Rubidge (2022). “The earliest gorgonopsians from the Karoo Basin of South Africa”. Journal of African Earth Sciences 194: 104631. Bibcode2022JAfES.19404631K. doi:10.1016/j.jafrearsci.2022.104631. 
  7. ^ a b Michael J. Benton; Andrew J. Newell; Al'bert Y. Khlyupin; Il'ya S. Shumov; Gregory D. Price; Andrey A. Kurkin (2012). “Preservation of exceptional vertebrate assemblages in Middle Permian fluviolacustrine mudstones of Kotel'nich, Russia: stratigraphy, sedimentology, and taphonomy”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 319-320: 58–83. Bibcode2012PPP...319...58B. doi:10.1016/j.palaeo.2012.01.005. 
  8. ^ “First evidence of a neonate dentition in pareiasaurs from the Upper Permian of Russia”. Acta Palaeontologica Polonica 46 (4): 589–594. (2001). オリジナルの27 January 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220127213334/https://www.app.pan.pl/article/item/app46-589.html 2022年1月27日閲覧。. 



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