トランスシナプス標識
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/25 17:47 UTC 版)
「狂犬病ウイルス」の記事における「トランスシナプス標識」の解説
神経伝達の経路を調べるためには途方もなく複雑で不明瞭な細胞の絡まりから関与する細胞を識別しなければならない。最も難しい課題である、指定した1つの細胞とシナプスで接続している細胞のみを正確に可視化するために狂犬病ウイルスを応用するトランスシナプス標識という手法がある。 狂犬病ウイルスは傷口から末梢神経に侵入すると、神経線維の軸索を遡り細胞体へ入って増殖して樹状突起へと移行しシナプスを渡って上流の次の細胞(前シナプス細胞)の軸索に侵入し、これを繰り返し最後に脳・中枢神経に達して様々な神経症状を引き起こす。 この狂犬病ウイルスの神経細胞を遡って移行する性質を応用して、無条件に増殖できない制限、感染した細胞に色を与える機能、自然界における哺乳類への無害化という遺伝子操作を加えた変異型の狂犬病ウイルスが作られた。このウイルスを神経細胞に導入し、調べようとする細胞にウイルス感染開始の条件を整える操作をする。ウイルスは増殖して病原性を発現しシナプスを渡って前シナプス細胞に侵入し、さら増殖しようとする。ところがこの細胞内の環境では阻害され感染力も失っているので、さらに遡ってシナプスを超えることはできない。代わりに組み込んでおいた蛍光タンパク質の遺伝子が発現して接続している神経細胞のみを可視化することができる。 この手法は神経回路研究における画期的な手法として今後の応用が期待されている。
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