ウズムシ目とは? わかりやすく解説

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プラナリア

(ウズムシ目 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/18 06:53 UTC 版)

三岐腸目 Tricladida
分類
: 動物界 Animalia
: 扁形動物門 Platyhelminthes
亜門 : 有棒状体亜門 Rhabditophora[1]
: 三岐腸目 Tricladida
学名
Tricladida
和名
三岐腸目
英名
Planarian Flatworm

プラナリア: Planarian Flatworm)は、扁形動物門有棒状体亜門三岐腸目(さんきちょうもく、学名: Tricladida)に属する動物の総称[2][3][4][注釈 1]生物学でプラナリアという場合、日本ではサンカクアタマウズムシ科ナミウズムシ属のナミウズムシであることが多い[注釈 2]

プラナリア(三岐腸目)が属する自由生活性の扁形動物は、体表に繊毛があり、この繊毛の運動によって渦ができることから、ウズムシと呼ばれる[7]。世界各地の淡水海水および湿度の高い陸上に生息する。Planaria は「平たい面」を意味するラテン語 planarius に由来し、plain「平原」や plane「平面」と同根である[4]

概要

腹面中央にひだ型咽頭があり、腸主管は三岐に分かれ、一方は咽頭前方に、2本はその両側を後方に達する[8]。この腸主管の分岐が三岐腸目(さんきちょうもく)の名前の由来となっている。イトミミズやアカムシ(ユスリカの幼虫)を食べさせると、全身の消化管に入ってゆく様子が見え、全身に消化管が分岐していることを観察できる。脊髄は無く、肛門もほとんどの種で無い。(肛門については扁形動物門全体の特徴)、かご状神経系を持ち、目は杯状眼であり、レンズがない。光を感じることはできる。ナミウズムシの場合眼は1対だが、カズメウズムシなどたくさんの眼を持つものもいる。

著しい再生能力を持つことから、再生研究のモデル生物として用いられる。進化的には前口動物後口動物の分岐点に位置し、三胚葉性動物・を持つ動物として最も原始的であることから、比較発生学・進化発生生物学でも用いられる。雌雄同体である特性から、生殖生物学でも扱われる。水質の変化に著しい影響を受けることから、指標生物でもある。

また、プラナリアは雑食であるが、主食として魚・肉・昆虫(動物質系の物)などが挙げられる。

繁殖

プラナリアの中には、系統によって様々な生殖様式をとる種があり、ナミウズムシ Dugesia japonicaアメリカナミウズムシ Girardia tigrina などがそうである。これらの種は2個体での交接による有性生殖の他に、自切によって増える無性生殖も行うことができる。そのような種には有性生殖のみを行う系統を有性系統、無性生殖をおこなう系統を無性系統、環境要因などの刺激に対応してそれらを転換する転換系統がある[9]。一方、コガタウズムシ Phagocata kawakatui のように自切を行わず、有性生殖のみを行う種も多くいる。また、ミヤマウズムシ Phagocata vivida では破片分離 (fragmentation) という現象が確認されている[10]

再生能力について

プラナリアの再生能力は著しく、ナミウズムシの場合は前後に3つに切れば、頭部からは腹部以降が、尾部側からは頭部が、中央の断片からは前部の切り口から頭部、後部の切り口から尾部が再生される。このような、各部から残りの部分が正しい方向で再生されることを「極性がある」といい、具体的には何らかの物質の濃度勾配ではないかとされている。再生が秩序正しく行われるための体内の濃度勾配を司る遺伝子として、Nou-darake遺伝子が同定されている。また、プラナリアの体細胞の約30%がネオブラストという幹細胞で占められており、ダイナミックな再生機構に一役買っている。[11]

  • 頭に切れ込みを入れて3等分にすれば、3つの頭を持つプラナリアに再生する。
  • ある学者がメスを使い100を超える断片になるまで滅多切りにしたが、その全片が再生して100を超えるプラナリアが再生したという逸話がある[12]。プラナリアが再生できる栄養環境さえあれば可能であるとされる。
  • トーマス・ハント・モーガンの実験では、遅延や不完全な再生はあったものの、279に分割された断片から再生したとされる[13]
  • 咽頭および目の前にあたる部分からは、それらが万能細胞を持たないため再生出来ない[13]
  • 切断実験をする際は、1週間前から絶食させておかないと、切断時に体内の消化液で自身の体を溶かしてしまい、絶命する[14]

脳以外の部位に記憶が存在する

「プラナリアの頭部を切断して、尾部から再生させた個体に、切断前の記憶が残存している可能性」を示唆する実験結果が、タフツ大学のタル・ショムラット (Tal Shomrat) とマイケル・レヴィン (Michael Levin) によって報告されている[15][16]

生息

プラナリアは日本中の川の上流に生息しており、石や枯葉などの裏に張り付いている。主にカゲロウの幼虫などの水生昆虫を餌としている。

また、アクアリウムなどでは、生き餌や水草などに付着したプラナリアが水槽内に侵入して大発生する事があり、好んで捕食する生物も少ないことから害虫として嫌われている。捕獲、除去には、体が柔らかくピンセットでつまむとちぎれることがあるので、筆を使って撫でるように取るとよい。また餌となるものを入れておびき寄せる捕獲器も市販されており、自作する者も居る。捕獲器に入ったものは得てして内部の水質悪化により短時間で死に至る場合が有るので、生態観察などを目的とする場合は速やかに取り出す必要がある。

日本以外では、温帯から熱帯の地域に広く分布し、世界各地で独自の進化を遂げた種が存在する。

下位分類

Sabussowia ronaldi、Maricola亜目
Polycelis felina(ヒラタウズムシ科)
Hausera hauseri

分類体系は Sluys et al. (2009) に基づく。和名は主に川勝ら (2009) による。

脚注

注釈

  1. ^ 一般的な学術書では以上のような定義がなされていることが多いが、「Planaria」の語源から本来は「自由生活性の扁形動物の総称」として用いられるべきとの指摘もある[5]。この場合、ヒラムシ類やハリヒメウズムシなども「プラナリア」に含まれることになる。また、最も狭義には三岐腸目に属するヒラタウズムシ上科 Planarioidea ヒラタウズムシ科 Planariidae プラナリア属 Planaria に属するウズムシの学名である。この場合ナミウズムシアメリカツノウズムシは含まれない。総じて、日本での「プラナリア」はある特定の分類群や種を表すものではない。一方、海外圏では日本でいう「プラナリア」は「Planarian」と呼ばれているためPlanaria属と区別されている[6]
  2. ^ プラナリア科 Family Planariidaeに属さないことに注意。
  3. ^ ミヤマウズムシ Phagocata vivida などが属する
  4. ^ ナミウズムシ Dugesia japonica など日本における在来種や一部の外来種(トウナンアジアウズムシ Dugesia austroasiatica[19]が含まれる
  5. ^ アメリカナミウズムシ Girardia tigrina など日本では外来種となっている種が含まれる

出典

  1. ^ http://marinespecies.org/turbellarians/aphia.php?p=taxdetails&id=479175
  2. ^ https://marinespecies.org/turbellarians/aphia.php?p=taxdetails&id=142028
  3. ^ 阿形清和 2012.
  4. ^ a b Sluys & Riutort 2019.
  5. ^ 小林 一也、関井清乃『プラナリアたちの巧みな生殖戦略』(1版)裳華房、東京、2017年11月10日、ⅲ、2頁。ISBN 978-4-7853-5125-0 
  6. ^ https://www.britannica.com/animal/planarian#:~:text=planarian,%20(class%20Turbellaria),%20any%20of%20a%20group%20of,free-living%20flatworms%20of%20the%20class%20Turbellaria%20(phylum%20Platyhelminthes).
  7. ^ 鏑木外岐雄 1930.
  8. ^ 奥川一之助 1973.
  9. ^ https://www.tsuyama-ct.ac.jp/images/kyousyokuin/kiyou/kiyou2017r08.pdf#:~:
  10. ^ プラナリアの形態分化-基礎から遺伝子まで-. 共立出版. (1998-03-25). pp. 45–46 
  11. ^ 3倍体プラナリアが正常な半数体を創る減数分裂の分子機構”. 慶応義塾大学情報リポジトリ (2013年). 2025年4月15日閲覧。
  12. ^ NHK『サイエンスZERO』 2009年12月19日放送より。京都大学大学院理学研究科阿形清和教授談
  13. ^ a b Handberg-Thorsager, Fernandez & Salo 2008.
  14. ^ 兵庫県高等学校教育研究会科学部会『理科実験助手のための実験準備マニュアル 2004年度版』実験編第3章第18節「プラナリア(ナミウズムシ)の観察と再生」
  15. ^ 記憶は脳の外にある? プラナリアの実験からわかったこと”. WIRED JAPAN. Condé Nast Publications (2013年8月8日). 2025年6月13日閲覧。
  16. ^ Shomrat & Levin 2013.
  17. ^ Sluys 1990.
  18. ^ 川勝 1976, p. 66.
  19. ^ http://www2u.biglobe.ne.jp/~gen-yu/tankpla.html

参考文献

  • 阿形清和「プラナリア」『研究者が教える動物飼育 第1巻』(日本比較生理生化学会)共立出版株式会社、2012年、58-63頁。 ISBN 978-4320057180 
  • 奥川一之助「12 扁形動物」『日本淡水生物学』(新版)図鑑の北隆館、1973年、205-249頁。全国書誌番号: 69002198 
  • 鏑木外岐雄『岩波講座生物学 渦虫類』(新版)岩波書店、1930年。全国書誌番号: 46078576 
  • 川勝正治 (1977). “日本産渦虫類文献目録 (1976) —外国産渦虫類に関する邦人著作を含む—”. 藤女子大学・藤女子短期大学紀要. II (15): 57–68. 
  • A New List of Japanese Freshwater Planarians Based upon a New Higher Classification of Planarian Flatworms Proposed by Sluys, Kawakatsu, Riutort & Baguñà (2009)”. Kawakatsu’s Web Library on Planarians: (2009年12月25日). 2025年6月13日閲覧。
  • Handberg-Thorsager, Mette; Fernandez, Enrique; Salo, Emili (2008). “Stem cells and regeneration in planarians”. Frontiers in bioscience: a journal and virtual library 13: 6374-6394. doi:10.2741/3160. PMID 18508666. 
  • Shomrat, Tal; Levin, Michael (2013). An automated training paradigm reveals long-term memory in planarians and its persistence through head regeneration. 216. pp. 3799-3810. doi:10.1242/jeb.087809. PMID 23821717. 
  • Sluys, Ronald (1990). “A monograph of the Dimarcusidae (Platyhelminthes, Seriata, Tricladida)”. Zoologica Scripta 19 (1): 13-19. doi:10.1111/j.1463-6409.1990.tb00237.x. 
  • Sluys, R.; Kawakatsu, M.; Riutort, M.; Baguna, J. (2009). “A new higher classification of planarian flatworms (Platyhelminthes, Tricladida)”. Journal of Natural History 43 (29-30): 1763-1777. doi:10.1080/00222930902741669. 
  • Sluys, Ronald; Riutort, Marta (2019). “Chapter 1 Planarian Diversity and Phylogeny”. Planarian Regeneration (Jochen C. Rink ed.). Humana Press. pp. 1-56. ISBN 978-1493992898 

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