アストロノーマーズ・テレグラム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/16 06:00 UTC 版)
| URL | http://www.astronomerstelegram.org |
|---|---|
| 言語 | 英語 |
| タイプ | 科学 |
| 設立者 | Robert E. Rutledge |
| 編集者 | Derek Fox |
| 営利性 | 非営利 |
| 登録 | 不要(閲覧) 必要(投稿) |
| 現在の状態 | 運用中 |
アストロノーマーズ・テレグラム(英:The Astronomer's Telegram、ATel)はインターネットベースの速報配信サービスで、天文学における新しい観測の情報を迅速に発信することを目的としている[1][2]。 速報発信の対象となる天体や突発現象には、典型的なものではガンマ線バースト[3][4]、重力マイクロレンズ、超新星、新星、X線突発天体などがあるが、内容に特に制限が設けられているわけではない。 発行された速報はウェブ上ですぐ利用可能になり、登録者には24時間以内にメールでそのダイジェストが送られる。
アストロノーマーズ・テレグラムは1997年12月17日に、現在はマギル大学助教授である[5]ロバート・ラトレッジによって、1秒以内に関心の高い情報を天文学者に共有することを目標に立ち上げられた[6][7]。 速報は1日1回ダイジェストでメールで送られるが、特に一刻を争う突発現象などの場合は、ダイジェストメール配信のタイミングを待たずに即座に発信される[8]。 2013年以降は、当時のツイッターやFacebookでも情報が広く発信された。
天文学者がこのプラットフォームを使って情報を発信するには、資格証明書を取得する必要がある。資格証明はプロの天文学者や大学院生に対して本人確認を行ったうえでなされる[7]。 一度行われた資格申請が運営側に認証されると、天文学者は運営側のエディターを介さずに直接速報を発信できる[9]。
各速報は「ATel #〇〇〇〇〇」のように通し番号やBibcodeが付与され、発行後はNASAの天体物理データシステム(ADS)といった論文データベースなどでも参照できるようになる[10]。2025年11月時点で17000件以上の速報が発信された[11]。
歴史
ガーヒング・バイ・ミュンヘンにあるマックス・プランク地球外物理学研究所に勤務していたラトレッジは、1995年から1996年にかけてバーストパルサーGRO J1744-28の発見と特性評価を、非公式に複数の科学者と共同して行うためにウェブサイトを運営していた際の経験を生かして、原型となるウェブサイトを立ち上げた。 そしてラトレッジがカリフォルニア大学バークレー校のポスドク研究員としてラーズ・ビルドステン教授の下に在籍していた時期に本格運用を開始した[12]。
登録者が誰でも無査読で発信できるほど速報性を重視する代償として、過去には誤報もたびたび発信されている。 2018年3月20日には南アフリカ、ケープタウン大学の教授のピーター・ダンズビーがいて座の三裂星雲と干潟星雲のそばに、少なくとも1等星以上の明るさであるきわめて明るい光学突発天体を見つけたという速報を発した[13]。しかし、40分後に再びダンズビーは速報を発信し、その中で「先ほどの天体は火星だった」として謝罪した[14](火星のような太陽系の天体は地球との位置関係で、星に対する夜空の中での位置を複雑に変化させるため、別の時期に撮影した比較写真と比べると急に明るい星が出現したように見え、星表などにも載っていない)。 ATelのエディターチームは後日、ダンズビーに対して火星の発見者として表彰する賞をジョークとして贈った[15]。 ダンズビーは後にニューズウィーク誌の取材に対し、「自動天体写真撮影セッションで、カメラフレーム内に何が写っているかを確認しなかったのは単純なミスで、全体的な流れからすれば大したことではない。世界はもっと笑顔であふれるべきで、だからこのエピソードは何か良いものをもたらしたかもしれない」と語っている[14]。
現況
現在のAtelは編集長と編集者、共同編集者からなる体制で運用されている。運用資金はPatreonなどから寄付などで調達されているため、速報を発行するのも読むのも無料である[16]。 突発天体の報告・発信を扱う天文学者のウェブサイトは他に国際天文学連合の天文電報中央局(CBAT)など複数あるが、Atelや自身のウェブサイトにのみ掲載しCBATには報告しない天文学者が増えたことによる混乱も生じたため、Atelの運営は、超新星や彗星の発見についてはAtelだけでなくCBATからも報じてもらうようユーザーに要請している[17]。
| Atel番号 | タイトル | 内容 |
|---|---|---|
| Atel#1 | QPOs in 4U 1626-67 | 最初に発行されたAtel |
| Atel#7254 | PESSTO spectroscopic classification of optical transients | 市民科学プロジェクトSnapshot Supernovaによる発見天体が超新星であることの分光確認 |
| Atel#10328 | ePESSTO spectroscopic classification of optical transients | 市民科学プロジェクトSupernova Huntersによる発見天体が超新星であることの分光確認 |
| Atel#10427 | First Confirmed Supernova with the SkyMapper/Zooniverse Supernova Sighting Project | 市民科学プロジェクトSupernova Sightingによる発見天体が超新星であることの分光確認 |
| Atel#11037 | LIGO/Virgo GW170817: Chandra X-ray brightening of the counterpart 108 days since merger | 観測史上初めて多波長で捉えられた重力波イベントGW170817のX線での観測 |
| Atel#11448 | Very bright optical transient near the Trifid and Lagoon Nebulae | 火星を突発天体として誤発見 |
| Atel#16842 | GOTO065054.49+593624.51: Discovery of a bright optical galactic transient | 市民科学プロジェクトキロノバ・シーカーズによる矮新星発見 |
| Atel#17472 | Possible New Variable Star Detected by COIAS | 市民科学プロジェクトCOIASによる初めての変光星発見 |
関連項目
出典
- ^ Rutledge, R. (1998-06). “The Astronomer's Telegram: A Web-based Short-Notice Publication System for the Professional Astronomical Community”. Publications of the Astronomical Society of the Pacific 110 (748): 754–756. arXiv:astro-ph/9802256. Bibcode: 1998PASP..110..754R. doi:10.1086/316184. ISSN 0004-6280.
- ^ Michael J. Way; Jeffrey D. Scargle; Kamal M. Ali; Ashok N. Srivastava (29 March 2012). Advances in Machine Learning and Data Mining for Astronomy. CRC Press. pp. 50–. ISBN 978-1-4398-4173-0
- ^ “Gamma signature, Astronomer's Telegram cast light on dazzling blazar”. Symmetry (2009年4月30日). 2024年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
- ^ Josep M. Paredes; Olaf Reimer; Diego F. Torres (2007-11-12). The Multi-Messenger Approach to High-Energy Gamma-Ray Sources: Third Workshop on the Nature of Unidentified High-Energy Sources. Springer Science & Business Media. pp. 5–. ISBN 978-1-4020-6117-2
- ^ “Robert Rutledge”. 2025年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
- ^ Mark R. Kidger; I. Pérez-Fournon; Francisco Sánchez (1999). Internet Resources for Professional Astronomy: Proceedings of the IX Canary Islands Winter School of Astrophysics. CUP Archive. pp. 24–. ISBN 978-0-521-66308-3
- ^ a b Fox, Derek B. “A Transient Astronomy "Free for All" at The Astronomer's Telegram” (ppt). Caltech. VO Events Meeting. 2014年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月8日閲覧。
- ^ Rutledge, Robert E. (1998-06-01). “The Astronomer's Telegram: A Web-based Short-Notice Publication System for the Professional Astronomical Community”. Publications of the Astronomical Society of the Pacific 110 (748): 754–756. arXiv:astro-ph/9802256. Bibcode: 1998PASP..110..754R. doi:10.1086/316184.
- ^ “Policies”. Astronomer's Telegram. 2025年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月8日閲覧。
- ^ “Possible New Variable Star Detected by COIAS”. 2025年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
- ^ “top page”. Astronomer's Telegram. 2025年11月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
- ^ “Robert E. Rutledge”. 2025年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
- ^ Dunsby, Peter (2018-03-28). “Very bright optical transient near the Trifid and Lagoon Nebulae”. The Astronomer's Telegram. オリジナルの2025-09-06時点におけるアーカイブ。.
- ^ a b “For 40 minutes he thought he had discovered a new object, but it turned out to be Mars” (英語). Newsweek. (2018年3月22日). オリジナルの2024年12月8日時点におけるアーカイブ。 2018年3月26日閲覧。
- ^ “ATel on Twitter” (英語). Twitter 2018年3月26日閲覧。
- ^ “The Astronomer's Telegram”. 2025年10月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
- ^ “時間変動天体に関する情報流通の現状と展望”. 2025年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月15日閲覧。
外部リンク
- アストロノーマーズ・テレグラムのページへのリンク