MiG-29 (航空機) 戦歴

MiG-29 (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 14:01 UTC 版)

戦歴

MiG-29は、機動性には優れていると評価されていたが、実戦では十分な支援を受けた敵方との戦闘が相次いだことから、湾岸戦争では5機(イラク空軍機)、コソボ紛争では6機(ユーゴスラビア連邦共和国/セルビア所属)のMiG-29 var.B撃墜されるなど、芳しい戦果を挙げられずにいた。

MiG-29が真価を見せたのは、双方共に十分な支援を得られなかったエチオピアとエリトリアの国境紛争におけるSu-27との空戦および2009年南オセチア州の帰属に関してロシアジョージア(サカルトヴェロ)間に発生した南オセチア紛争においてである。

また、インド空軍のMiG-29は1999年のカルギル紛争英語版において、レーザー誘導爆弾を用いての精密攻撃を行うミラージュ2000の護衛機として活動した。

2019年にはロシア空軍のMiG-29がジョージア無人偵察機をミサイルで撃墜している[45]

エチオピア・エリトリア国境紛争

エチオピアSu-27 2機/エリトリア:MiG-29 4機) 1999年2月25日に行われた戦闘は、まず、エリトリアのMiG-29が、前線を哨戒飛行中であったエチオピアのSu-27をバドメ上空で迎撃したところから始まった。エチオピアのSu-27は当時配備間もなく、エリトリア側のパイロットたちはこれを排除せねばならないと考えていた。まず、MiG-29はR-27中距離レーダー誘導空対空ミサイル数発を敵機へ発射したが命中せず、逆にSu-27は引き返して搭載するR-27全弾を発射して反撃した。しかしながら、これもすべて命中せず、接近戦に縺れ込むこととなった。その結果、R-73短距離赤外線誘導空対空ミサイルによってエリトリアのMiG-29が1機撃墜されたとされる。その後、エリトリアは、さらに2機のMiG-29を失ったとされる。なお、エチオピアのSu-27は、2機ともエチオピア人による操縦で、エリトリアのMiG-29は、ウクライナ人教官とエリトリア人による操縦であった。

1999年2月25日空中戦の24時間後、同空域においてMiG-21による攻撃部隊を護衛中のエチオピアのSu-27S 1機が、アスマラ方面から飛行してきたエリトリアのMiG-29UB練習戦闘機1機を撃墜しているが、この際のSu-27Sパイロットは女性(Capt. Aster Tolossa)であったとされる。ただし、ここでも情報は錯綜しており、撃墜したのは彼女ではなく、また、エチオピアで初の女性パイロットが誕生したのは2004年6月であり、プロパガンダに過ぎないとするものや、彼女は撃墜したのではなく強制着陸させたのであるとする情報もある。

エリトリアは、その後それ以上MiG-29の損失を増やすことを避けるため、敢えてSu-27に空中戦を挑むことはなくなったとされる。また、その後MiG-29を追加購入するとともに、Su-27をウクライナから導入している。こうした一方、近年アスマラで行われたエリトリア独立10周年記念パレードでは、数機のMiG-29がMi-8AB.412とともに上空パスを行う様子がテレビで放映され、エリトリアはMiG-29の健在をアピールしている。

情報が錯綜しているため、以下のような異説がある。

  • エチオピアのSu-27が撃墜された。
  • エチオピアのパイロットはエチオピア人ではなくロシア人である。
  • ACIG には以下のような戦闘結果が掲載されている
    1999年2月25日、エチオピア空軍第5飛行隊に所属するロシア人傭兵操縦のSu-27が、合計6発のR-27でエリトリア空軍第5飛行隊のMiG-29を2機撃墜、R-73で1機撃墜。
    同年2月26日、Su-27が、R-73若しくは30mm機関砲でMiG-29を1機撃墜(Asther Tolossa撃墜と言われているもの)。
    同年5月18日、パイロット不明のSu-27が、合計4発のR-27でMiG-29を2機撃墜。
    2000年5月16日、エチオピア人パイロット操縦のSu-27が、2発のR-27でMiG-29を1機撃墜。
    同年5月18日、エチオピア人パイロット操縦のSu-27が、2発のR-73でMiG-29を1機撃墜。

以上Su-27とMiG-29の間での交戦記録に関するもの

  • 同ソース より、これ以外の同期間におけるMiG-29関連の戦闘結果は以下のように紹介されている
    1999年2月25日、エリトリア空軍第5航空隊に所属するパイロット不明のMiG-29が、2発のR-27でエチオピア空軍MiG-23を1機撃墜。
    同年2月26日、エチオピア人義勇兵が合計2発のR-73でMIG-21を2機撃墜。
    2000年5月18日、エリトリア人パイロットが2発のR-27でMiG-21を1機撃墜、GSh-30-1 30mm機関砲でMiG-21を1機撃墜。

2022年ロシアのウクライナ侵攻

2022年ロシアのウクライナ侵攻においては、ウクライナとロシアの双方でMiG-29を運用している。ウクライナ空軍に所属する「キエフの幽霊」と呼ばれるMiG-29のパイロットは、ロシア軍のSu-35Su-25Su-27、MiG-29を撃墜したとされているが、これらの情報は航空団の総合戦果を一人のパイロットとして祭り上げたプロパガンダフェイクニュースとされている。[46]

また、同年5月28日には、ウクライナ空軍のMiG-29がロシア航空宇宙軍に属するSu-35を撃墜したとの情報もある。[47]

同年8月30日、ウクライナ空軍公式ツイッター[48]AGM-88 HARM対レーダーミサイルを搭載したMiG-29の動画を公開した。


注釈

  1. ^ 現在のジュコーフスキー空港
  2. ^ 5,720リットルとする資料[17] と、5,810リットルとする資料[6] がある。
  3. ^ ソ連空軍では空中給油は主に爆撃機に対して行うものとされており、アメリカと違って戦闘機への空中給油能力付与には熱心ではなかった。戦闘爆撃機についても、Su-24Mフェンサーのみが空中受油プローブを装備していた。
  4. ^ F-16は中央胴体背面にフライングブーム式の給油リセクタプルを、ミラージュ2000はキャノピー前部右寄りに固定式のプローブを、それぞれ標準装備としている。
  5. ^ 旧ソ連海軍のキエフ級航空母艦4番艦「アドミラル・ゴルシコフ」をインドが買い取り、全通甲板空母として改修した。
  6. ^ アメリカ空母で一般的なカタパルト発艦方式に比べると発艦時の加速力が低い分、発艦最大重量が小さくなる。このため発艦時には燃料を少なめにしてその分必要な兵装を搭載し、発艦後に空中給油で必要な燃料を積むことで補う。なお、Su-33も同様の理由で当初から伸縮式のプローブを標準装備している。
  7. ^ 外側にR-73を各2発、内側にR-27を各1発搭載するのが通常装備となっている。

出典

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  4. ^ [1]
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  16. ^ #イカロス、61頁
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  24. ^ #イカロス、69頁。本書中では、MiG-29SMTのうち背面燃料タンクを追加していない機体を9.17A規格、背面前方にのみ燃料タンクを追加した機体を9.18規格として分類している。
  25. ^ #新紀元社、3頁・49頁・61頁
  26. ^ a b RUSLET (2017年). “Mikojan-Gurjevič MiG-29 (iz.9.12) (‘Fulcrum A’) [‘Ram L’]” (チェコ語). 2021年5月26日閲覧。
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