自由権 分類

自由権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/06 17:51 UTC 版)

分類

伝統的分類

ゲオルグ・イェリネックの公権論からは国家に対する国民の地位によって「積極的地位」(受益権)や「消極的地位」(自由権)といった分類が行われた[7]宮沢俊義は「消極的な受益関係」での国民の地位を「自由権」、「積極的な受益関係」での国民の地位を「社会権」とし、請願権や裁判を受ける権利などは「能動的関係における権利」に分類した[8]

「自由権」ないし「消極的権利」と「社会権」ないし「積極的権利」との対比を行う場合、国家による介入を拒否することを本質とする権利は「自由権」ないし「消極的権利」、国家に依拠してその実現が図られる権利は「社会権」ないし「積極的権利」と区別される[9]

自由権は、精神的自由権、経済的自由権、身体的自由権(人身の自由)などに分類される。

ただし、以上の権利にも多面的な性格が指摘されていることがある。例えば、居住移転の自由については、経済的自由権に分類されることが普通であるが、身体的自由権あるいは精神的自由権に分類する学説もある[10]。今日では居住移転の自由は多面的・複合的な性格を有する権利として理解する学説が有力となっている[11]

自由権と社会権の相対性

我妻栄は『新憲法と基本的人権』(1948年)などで、基本的人権を「自由権的基本権」と「生存権的基本権」に大別し、人権の内容について前者は「自由」という色調を持つのに対して後者は「生存」という色調をもつものであること、また保障の方法も前者は「国家権力の消極的な規整・制限」であるのに対して後者は「国家権力の積極的な関与・配慮」にあるとして特徴づけ通説的見解の基礎となった[12]

しかし、社会権と自由権は截然と二分される異質な権利なのかといった問題や社会権において国家の積極的な関与が当然の前提となるのかといった問題も指摘されている[12]。教育を受ける権利と教育の自由や労働基本権と団結の自由など自由権的側面の問題が認識されるようになり、時代の要請から強く主張される新しい人権(学習権、環境権等)も自由権と社会権の双方にまたがった特色を持っていることが背景にある[12]

「自由権」と「社会権」あるいは「消極的権利」と「積極的権利」という区別は相対的なものであると解されている[13]。例えば、自由権の象徴とされるプライバシー権を自己の情報をコントロールする権利として理解すると、他者が保有する個人情報システムへのアクセス権のようなものとして捉えざるをえない[13]

現代では「積極的権利」や「福祉的権利」の比重が著しく増大し、国際人権規約でもまず社会権的なA規約があり、然る後に自由権的なB規約があるなど、具体的人間に即して人権の問題を考えようとする傾向がみられ、「自由権」と「社会権」あるいは「消極的権利」と「積極的権利」という区別はあまり意識されなくなっている[13]市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)では法の下の平等生存権なども保障されている(学術上の分類としては、法の下の平等は他の個別的諸権利の保障の基礎的条件をなす権利であり「包括的権利」などとして位置づけられる[14]。また、生存権は「積極的権利」あるいは「社会権」などとして分類される[14][15])。

他方、国民生活への国家の介入度や浸透度が増しつつある中で、「自由権」と「社会権」あるいは「消極的権利」と「積極的権利」という区別がかえって重要になってきているとし、その上で両者のバランスや各種の人権保障のあり方を配慮すべきという指摘もある[14]

社会権と自由権の区別そのものを放棄する学説もあるが、社会権と自由権の区別の有用性を認めた上で両者の区別は相対的であり相互関連性を有するとする学説が一般的となっている[16]

日本国憲法で明記されている自由権


注釈

  1. ^ 自由権の内の幾つかは公共の福祉を理由に制約される場合がある。

出典

  1. ^ "自由権". 日本大百科全書. コトバンクより2022年4月8日閲覧
  2. ^ a b c d e f 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、93頁。ISBN 978-4-641-11278-0 
  3. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、93-94頁。ISBN 978-4-641-11278-0 
  4. ^ a b c d 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、10頁。ISBN 4-417-01040-4 
  5. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、11頁。ISBN 4-417-01040-4 
  6. ^ 基本的人権の保障に関する調査小委員会 (2004年). “「公共の福祉(特に、表現の自由や学問の自由との調整)」に関する基礎的資料” (PDF). 衆議院憲法調査会事務局. pp. 1-2. 2014年10月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月15日閲覧。
  7. ^ 奥平康弘「人権体系及び内容の変容」『ジュリスト』第638巻、有斐閣、1977年、243-244頁。 
  8. ^ 宮沢俊義『法律学全集(4)憲法II新版』有斐閣、1958年、90-94頁。 
  9. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、177-178頁。ISBN 4-417-00936-8 
  10. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、104頁。ISBN 4-417-01040-4 
  11. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、104-105頁。ISBN 4-417-01040-4 
  12. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、141頁。ISBN 4-417-01040-4 
  13. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、177頁。ISBN 4-417-00936-8 
  14. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、178頁。ISBN 4-417-00936-8 
  15. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、140頁。ISBN 4-417-01040-4 
  16. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、141-142頁。ISBN 4-417-01040-4 


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