脳脊髄液 脳脊髄液の異常

脳脊髄液

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/22 05:38 UTC 版)

脳脊髄液の異常

脳脊髄液の異常として臨床で最初に見つかるのは、頭蓋内圧の上昇である。決まった体積しか入らない頭蓋内に、ないはずのものが新たに加わると、脳脊髄液に高い圧力がかかり、同時にの実質も圧迫されて、頭痛嘔吐痙攣徐脈、精神症状、視神経乳頭の浮腫鬱血外転神経麻痺などの所見を呈する。頭蓋内の脳脊髄液にかかった圧力(脳実質にも同じ圧力がかかる)を頭蓋内圧または脳圧と言い、脳圧が上がることを脳圧亢進と言う。正常の脳圧は10〜15 mmHg程度である[3]

脳圧亢進の原因として、脳脊髄液が頭蓋内にたまることを挙げられる。そのうちもっとも代表的なものが水頭症である。これは脳室にたまった脳脊髄液が脳の実質を周りに向かって圧迫する疾患であり、頭蓋骨が癒合しきっていない乳幼児に発症すると頭が非常に大きくなることがある。モンロー孔など、脳室系の狭くなっている部分は何らかの原因で閉塞しやすく、中でも中脳水道は狭い上に細長く伸びているので、閉塞することが多い。閉塞以外にも、頭蓋内の炎症すなわち脳炎髄膜炎によって脳脊髄液が異常に多く産生されること、あるいはクモ膜顆粒からの吸収が妨げられることでも脳脊髄液はたまり、脳圧を上げる。

頭蓋内の出血によって脳圧が上がることもある。これは血液の体積によるほかに、血栓ができたり、脳脊髄液の産生が増えることにもよる。原因となる疾患頭部外傷クモ膜下出血脳出血脳動脈瘤破裂、脳動静脈奇形血管炎などがある。

の実質が増殖すること、すなわち脳腫瘍でも脳圧は上がる。そのほか、脳梗塞肝性脳症など様々な原因で脳圧は上がりうる。

脳圧が高いことは以上のような疾患を示唆するが、逆に脳圧が低いと頭痛を起こす。これは脱水、髄液漏といった病的な原因のほか、後述の腰椎穿刺によって脳脊髄液を採りすぎたときに起こることがある。

髄液漏

髄液漏 cerebrospinal fluid leakage は、脳脊髄液が瘻孔を通って(髄液瘻 cerebrospinal fluid fistula)、頭蓋外へ漏れる状態をいい、非外傷性髄液瘻と外傷性髄液瘻とがある。外傷性髄液瘻では髄液鼻瘻 cerebrospinal fluid rhinorrhea が最も多く、髄液耳瘻 cerebrospinal fluid otorrhea がこれに次ぐ。開放性頭部外傷の創に生じるものはまれである。髄液耳瘻は髄液の流出経路が複雑なこともあり長期に持続することは少ない。髄液鼻瘻はほとんどの場合、前頭洞と篩骨洞を経由し、蝶形骨洞を経由するものは少ない。乳突蜂巣を経由する場合は髄液耳瘻となることが多いが、耳管を通じ髄液鼻瘻となることもある。

非外傷性髄液瘻では下垂体腺腫、水頭症、髄膜脳瘤などが頭蓋底の骨を破壊してクモ膜下腔副鼻腔とが通じるため、ほぼ全ての場合、髄液鼻瘻となる。非外傷性髄液瘻の治療は難しいことが多く、直達手術による瘻孔閉鎖が困難な場合にシャント手術で髄液圧を低下させて瘻孔閉鎖を促すこともある。

外傷性髄液瘻は自然閉鎖が起こることがあるので、通常2週間安静に保って抗生物質を投与し、2週間以上流出の持続するものや再発するものに対して手術を行うが、受傷直後から流出が顕著であれば早期手術を施すこともある。流出部位の正確な診断は困難なことが多く、クモ膜下腔に放射性同位元素を入れてガンマカメラで追跡、あるいは水溶性造影剤を入れてCTで追跡するなどの方法がある。


  1. ^ Greitz, D., Hannerz, J. "A proposed model of cerebrospinal fluid circulation: observations with radionuclide cisternography." AJNR. American Journal of Neuroradiology 17(3), 1996, pp. 431-438.
  2. ^ Koh, L., Zakharov, A., Johnston, M. "Integration of the subarachnoid space and lymphatics: is it time to embrace a new concept of cerebrospinal fluid absorption?" Cerebrospinal Fluid Research 2, 2005, p. 6.
  3. ^ Rangel-Castillo, Leonardo; Gopinath, Shankar; Robertson, Claudia S. (2008-5). “Management of Intracranial Hypertension”. Neurologic clinics 26 (2): 521–541. doi:10.1016/j.ncl.2008.02.003. ISSN 0733-8619. PMC 2452989. PMID 18514825. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2452989/. 
  4. ^ Neurol Sci. 2009 Feb;30(1):51-4. PMID 19145403
  5. ^ 臨床神経学 2016 56 569-572
  6. ^ Arch Neurol. 2005 Jun;62(6):865-70. PMID 15956157
  7. ^ J Neurol. 2004 Feb;251(2):184-8. PMID 14991353
  8. ^ Cytokine. 2014 Sep;69(1):62-7. PMID 25022963
  9. ^ Ann Neurol. 2000 Jan;47(1):137-8. PMID 10632117
  10. ^ Neuro Oncol. 2012 Mar;14(3):368-80. PMID 22156547
  11. ^ Clin Transl Med. 2020 Jul;10(3):e131. PMID 32634257
  12. ^ 訴訟:髄液漏れ「事故で発症」 最新研究を考慮、被害者側が逆転勝訴--大阪高裁 毎日新聞 2011年9月2日
  13. ^ 髄液減少症:新基準で認定 画像判定を採用 横浜地裁 毎日新聞 2012年8月26日
  14. ^ 脳脊髄液減少症:和歌山地裁で労災認定 障害年金の支給命令 毎日新聞 2013年4月17日





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