真言 分類・定義

真言

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/11 13:40 UTC 版)

分類・定義

諸経典の中では「真言」に類義の言葉として、「密言」・「呪」・「神呪」、「心呪」、「明呪」、「陀羅尼」等があり、それぞれ語の発生と意義は異なるが通常は区別されず、仏教で用いられる呪文を「真言陀羅尼」と総称することが多い。 「真言は短い呪句で陀羅尼は長い呪句」と説明されることがあるが正しくなく本来は起源が異なるものである。 しかし、大乗興起以後は、それらは混同され区別されなくなった[注 2]。 善無畏は『大日経疏』の中で、「真言」と「明呪」を区別したが[3]、 これは成り立ちを説明したもので両者が別種のものという意味ではない[4]。 『初回金剛頂教』では「真言」・「明呪」・「陀羅尼」はそれぞれ異なるがその差は殆ど無いと説かれており[5]不空は『総釈陀羅尼義讃』で、真言には一字のものから万字以上のものまであるが、「真言」・「密言」・「明」・「陀羅尼」は同一の物の異称であり、全て区別しないで良いと説明した[6]。 これらのことから、現在では「真言」・「陀羅尼」の成り立ちや経典を研究する等の特別な場合を除いては、一般に「真言」・「心呪」・「明呪」・「陀羅尼」を区別しない [7][8]

真言

「真言」は、サンスクリット語の「mantra[注 3] を漢訳したものである[9]。 最初はバラモン教の聖典である『ヴェーダ』に、神々に奉る讃歌として登場し、反復して数多く唱えることで絶大な威力を発揮すると考えられていた。後に、バラモン教に限らず不可思議力を有する呪文をことごとく「mantra」というようになった。 バラモン教や非アーリヤ系の土着の信仰の「mantra」が仏教に採り入られて、治歯・治毒・悪鬼羅刹からの護身・延命など現世利益のための「mantra」が用いられるようになった。 この「mantra」を龍樹玄奘は、「呪文」または「神秘的な呪文」の意味で「」・「神呪」等と訳し、善無畏不空は、「仏の真実の言葉」の意味で「真言」、「仏の秘密の言葉」の意味で「密言」等と訳した[10]。 また、「maṇḍala」の訳とする説もある[注 4]

明呪

サンスクリット語の「vidyā」、パーリ語の「vijjā」を訳したもので、本来は「知識」や「学術」を指す語である。古代インドにおいて学問・科学と呪法は一体であり、病を癒すための医術や毒蛇を避ける魔術やなど凡人の知りえない神秘的な知識・呪術の意味で用いられていた[注 5]。初期仏教教団は、「maṇtra」や「vidyā」を否定していたが、後に毒蛇を退散させる蛇除けの呪文(vidyā)を黙認するようになり、これが後の呪法の発展に繋がった。大乗仏教においては仏が説く真実の智慧、真実の言葉の意味で用いられ、さらに不可思議智の結晶である神秘的な呪文を指すようになった。唱えることで無明の煩悩を破除し衆生を化度するものとされ、漢訳経典では「明呪」・「明」と訳した[注 6]

心呪

サンスクリット語の「hṛdaya」の訳で、直訳すると「心臓」・「心髄」・「核心」の意味だが、「手段」・「伝達方法」の意味もある[11]。請願の意思を伝えるための手段としての呪文である。「hṛdaya」と呼べるものが最初に確認できるのは『仏説大金色孔雀王経』で、「hṛdaya」を「心呪」と訳している[注 7]。「hṛdaya」を鳩摩羅什は「大明呪」と、支謙は「神呪」と漢訳しており[注 8]、これらから「hṛdaya」を「呪文」の意味で訳していることが明らかである。『般若心経』では、「hṛdaya」は「神呪(真言)」であり「明呪」であると説いている[注 9]。『般若心経』より時代が下った密教経典の漢訳でも「hṛdaya」を「真言」、「明呪」と同一視している。[注 10]

陀羅尼

梵語の「dhāraṇī(ダーラニー)」を音訳したもので、「総持」、「能持」等と意訳される[注 11]。「dhāraṇī」は、「保つ」・「保持する」を意味する「dhāraṇā(ダーラナー)」を起源とする語で、本来は「精神を統一しその状態を持続すること」を指していたが[12]、後に精神統一や諸尊の憶念や教義を記憶するための教え(持句)を指すようになった[13]。陀羅尼経典である『仏説無量門微密持経』(支謙訳)では、「陀羅尼」とは仏の功徳や徳性を列挙した持句で、これを思念することによって正覚にいたることを目的とするものとある。精神統一や仏随念のための手段である「陀羅尼」が次第に呪文化され、その神秘的な響きから唱えることによって現世利益を得られると信仰されるに至り、後に密教が成立すると「陀羅尼」は「真言」を包摂する形で説かれるようになり、やがて同一視されるようなった。陀羅尼の本文が、核心となる語を羅列した意味稀薄な文言であるのは、具体的な意味のある言葉だと日常的な連想や雑念を呼び起こすためとも、理解力の劣る仏教初心者やサンスクリット語を使用しない非インド・アーリヤ語系の者に仏教教義の核心を伝えるためとも言われる[14]

種子(種字)

仏尊を象徴する一音節の呪文であり、真言の一種。種子真言ともいわれる。サンスクリット語の「bīja(種子、神髄)」+「akṣara(文字)」から成る「bījākṣara(マントラの頭文字)」の訳。草木の種子が根茎を含蔵するように一字に無量の法を含み、種子から草木が生じるように功徳を出生することから種子という。種子は梵字を神秘的に解釈し、仏尊の名称や真言から取った一音節を梵字に表すもので「種字」とも書かれる。胎蔵の種字は真言の最初の音節を、金剛界の種字は真言の最後の音節を取ることが多いが、仏尊名の一音節を取ったものや仏尊の本誓を象徴する一字を取ったものもある[注 12]。真言には様々な形式があるが「帰命句+種字」で構成されるものも多い。

その他の分類

善無畏の『大日經疏』では真言を以下の五種に分類する。[注 13]

  1. 如来説 - 大日如来や釈迦如来等の真言。
  2. 菩薩金剛説 - 観音菩薩や地蔵菩薩等の真言。
  3. 二乗説 - 舎利弗迦葉目連等の真言。
  4. 諸天説 - 梵天や夜摩天薬叉などの諸天の真言。
  5. 地居天説 - 龍・鳥・修羅等の真言。

真言を形式(長さ)によって、以下の三つに分類することもある。

  1. 大呪 - 「根本呪(mūla mantra)」、「大心呪」ともいう一般的な呪。
  2. 中呪 - 「心呪(hṛdaya)」、「心真言(dhāraṇī-hṛdaya)」ともいう。
  3. 小呪 - 「心中心呪」、「随心呪(upahṛdaya mantra)」ともいう。







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