接続 (微分幾何学) 接続の歴史

接続 (微分幾何学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/18 09:18 UTC 版)

接続の歴史

接続は、歴史的にはまずリーマン幾何学において見出された。接続の概念のはじまりをどこに置くかについては諸説あるが、クリストッフェルの研究をその淵源とする見方がある[注 13]。クリストッフェルは1869年の論文で、座標変換の導関数が満たす関係式の研究を通じ、現在クリストッフェル記号とよばれる量を発見した[67]。これを用いて、リッチはその学生であるレヴィ=チヴィタとともに、彼らが絶対微分学英語版とよんだ、共変微分を用いる今でいうテンソル解析の計算の手法をつくりあげた[68]

レヴィ=チヴィタはまた、1916年に、リーマン幾何学における接ベクトル平行移動の概念を発見し、これが共変微分によって記述されることをみつけた[69]レヴィ-チヴィタ接続の名前はこのことによる)。1918年にワイルはそれを一般化して、アフィン接続の概念に到達した[70][注 14]。ここで「接続」にあたる語(: Zusammenhang)がはじめて使用された[要出典]

それからすぐに、エリ・カルタンによって、さらなる一般化が行われた。カルタンはクラインエルランゲン・プログラムの局所化を試みていたのである。1920年代にカルタンは、微分形式を用いた記述によって、現在カルタン接続と呼ばれるものを発見していった[71]。カルタンのこの仕事により、リーマン幾何学だけでなく、共形幾何学英語版射影幾何学などのさまざまな幾何学を研究するための基礎が築かれた。

しかしカルタンの記述は、微分幾何学の他の基本的概念の整備が進んでいない当時、理解されづらいものだった。その仕事をよりわかりやすいものにして発展させるために、カルタンの学生にあたるCharles Ehresmannは、1940年代から主バンドルファイバーバンドルを研究した。1951年の論文でEhresmannは、主バンドルの接続を、接分布英語版を用いる方法と微分形式による方法の両方で定義した[72]ファイバーバンドルの接続)。

その一方で、1950年にJean-Louis Koszulは、ベクトル束の接続の代数的定式化を与えた[73]ベクトルバンドルの接続)。Koszulの定式化によると、クリストッフェル記号を明示的に用いる必要は必ずしもなくなり、接続の取り扱いは容易になった[要出典]


出典

  1. ^ C.G. Ricci, T. Levi=Civita (1901), Méthodes de calcul differéntiel absolu et leurs applications (絶対微分学の方法とその応用)矢野(1971) 和訳pp.17-95
  2. ^ 板場綾子「自己移入的Koszul多元環に対する有限条件(Fg) (有限群のコホモロジー論とその周辺)」『数理解析研究所講究録』第2061巻、京都大学数理解析研究所、2018年4月、33頁、CRID 1050001202603941760hdl:2433/241849ISSN 1880-2818NAID 120006645349 
  3. ^ Koszul duality for factorization algebras and extended topological field theories”. 2023年10月19日閲覧。
  4. ^ 2020年度 幾何学 B アインシュタイン計量の幾何学 -リーマン幾何学入門とアインシュタイン計量の幾何学への応用-” (PDF). p. 75. 2023年10月19日閲覧。
  5. ^ #Spivak p.251. 「this possibility of comparing, or "connecting", tangent spaces at different points gives rise to the term "connection".」
  6. ^ #Andrews Lecture 10, p.2.
  7. ^ #Tu p.45.
  8. ^ #Andrews Lecture 8 p.74, Lecture 10 p.98.
  9. ^ #新井 p.304.
  10. ^ #Tu p.45.
  11. ^ #Spivak p.241.
  12. ^ José Figueroa-O'Farrill. “Lecture 5: Connections on principal and vector bundles”. PG course on Spin Geometry. p. 40. 2023年1月12日閲覧。
  13. ^ #森田 p.213.
  14. ^ #Tu p.72.
  15. ^ #小林 p.76.
  16. ^ #Tu p.75.
  17. ^ a b #Tu p.263.
  18. ^ #Tu p.113.
  19. ^ #Tu p.263.
  20. ^ #Spivak p.251.
  21. ^ #小林 p.38.
  22. ^ #Tu p.80.
  23. ^ #Spivak p.251.
  24. ^ #Tu p.256.
  25. ^ #Wendl3 p.73.
  26. ^ a b c d #Wendl3 p.74.
  27. ^ 「エーレスマン接続」という訳語は#佐古を参考にした。#佐古に目次にこの名称が確認できる。
  28. ^ #Epstein p.95.
  29. ^ #Tu p.256.
  30. ^ Ehresmann connection”. nLab. 2023年8月30日閲覧。
  31. ^ #Kolar p.80.
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  36. ^ #Wendl3 pp.76-78.
  37. ^ #Kolar p.110.
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  40. ^ #Tu p.247.
  41. ^ #Wendl3 p.89.
  42. ^ #Kolar p.100.
  43. ^ #Tu pp.255-256
  44. ^ #小林 p.61.
  45. ^ #Wendl3 p.90.なお本文献のみ「」ではなく「」になっているが、前後関係から「」の誤記と判断。
  46. ^ #Tu p.123.
  47. ^ #Salamon p.5.
  48. ^ #Wendl3 p.83.
  49. ^ #Pasquotto p.84.にこの定理のアフィン接続が述べられており、Koszul接続の場合も同様である旨が書いてある。このKoszul接続の場合は他の文献の記述からも従う。実際、の場合に1:1対応する事は#森田 pp.319-321従い、この場合にとなる事は#Tu p.268から従う。そしてGの部分リー群である場合に関しては#Kobayashi-Nomizu1 p.83のRemarkより-主バンドル上の接続形式がG-主バンドルにreduceする必要十分条件はωGのリー代数に値を取る事であるので、上記の事実から従う。
  50. ^ #Kobayashi-Nomizu-1 p.127.
  51. ^ a b #Wendl5 p.121.
  52. ^ #Kolar p.77.
  53. ^ #Tu p.49
  54. ^ #Tu p.56,58
  55. ^ #Wendl5 pp.119,121.
  56. ^ a b #Kolar pp.100-101.
  57. ^ #Tu p.270
  58. ^ a b #森田 p.302.
  59. ^ #小林 p.43.
  60. ^ #小林 p.43.
  61. ^ #Tu p.80
  62. ^ #Wendl5 p.123.
  63. ^ #Tu p.270.
  64. ^ a b c d e f #Kolar pp.82-83.
  65. ^ Freeman 2011.
  66. ^ 日本数学会編 2007.
  67. ^ Christoffel 1869.
  68. ^ Levi-Civita 1900.
  69. ^ Levi-Civita 1916.
  70. ^ Weyl 1918.
  71. ^ Cartan 1926.
  72. ^ Ehresmann 1950.
  73. ^ Koszul 1950.

注釈

  1. ^ a b 人名「Koszul」を「コシュール」と訳している文献[2][3][4]があるため、「コシュール接続」と読むと思われるが、「コシュール接続」と訳した文献を発見できなかったので本項では「Koszul接続」と表記した。なお、Wikipediaの英語版には「フランス語: [kɔsyl]」とある。
  2. ^ 接続M全域で定義されたベクトル場と切断に関するものなので、このような局所的に定義された座標で表示できるか否かは非自明である。しかしが「局所演算子」という性質を満たすことにより、局所的な座標で表示可能な事を示すことができる。詳細は接続 (ベクトル束)の項目を参照されたい。
  3. ^ 成分接続形式といい、ω接続行列: connection matrix)と呼ぶ場合もある[22]
  4. ^ 厳密には以下の通りである。Mの曲線に沿って定義された局所的な基底を考え、に沿って平行移動したものをとして行列 により定義すると、接続形式の定義より、 が成立する。ここでは成分ごとの微分の事である。 が計量と両立すれば、は正規直交基底である。よって が正規直交基底であれば、よりは回転変換であり、の微分は歪対称行列である。
  5. ^ ここでπ(e)のファイバーの点eにおける接空間であり、包含写像が誘導する写像によりTeEの部分空間とみなしている。
  6. ^ a b この「eに関してC級である」というのを厳密に定式化する方法は(同値な方法が)いくつかあるが、一つの方法は上のファイバーとするTEの部分ベクトルバンドルとみなし、TEC級の部分ベクトルバンドルである事を要請するというものである。
  7. ^ 垂直部分空間の定義よりであるが、はベクトル空間なので、と接空間は自然に同一視できる。
  8. ^ なお 、#Salamonではの(標準的とは限らない)基底からへの線形写像fと自然に同一視し、各に対し、
    Gに属する事を持ってG-フレームを定義しているが、この定義は本項で述べたものと同値である。
  9. ^ #Wendl3の定義は若干曖昧で単に「十分短い曲線」(sufficiently short path)に沿った平行移動がGと両立する自明化(G-compatible connection) for を持つとしか言っていないが、局所自明化可能な領域内の曲線がこのように書ければ十分なので、ここではそのように定義した。
  10. ^ a b ここで-線形であるとは、通常の線形性を満たすのみならず関数fに対してを満たす事を指す[53]-線形である事は、の各点における値がξηの点eにおける値ξeηeのみで決まること、すなわちΩが各点における双線形写像のテンソル場とみなせる事と同値である事が知られている[54]
  11. ^ #Kolarにおける曲率の定義はここに書いたものと符号が反対だが、#Kolar p.73.にあるように#Kolarの定義だと「通常の曲率と符号が反対」になるので、#Wendl5 p.121の方の符号を採用した。
  12. ^ #Kolar p.100-101.のみ右辺第二項はとなっているが、これは#Kolarの間違いであると判断した。実際#Kolar p.100の一番下にあるの定義式にを代入するととなり、とはならない。またこの#Kolar p.100の一番下の係数#森田の1巻のp.95.ではになっているため、#Kolarの定義式を間違えた可能性が高い。#Tu p.285も参照。
  13. ^ これはFreeman[65]の立場。ほかには、たとえば岩波数学辞典は後出のレヴィ=チヴィタによる平行移動の発見を接続の概念のはじまりとしている[66]
  14. ^ 正確には、現在の言葉でいう捩れのないアフィン接続。





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