後期重爆撃期
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地球への影響
地殻の形成への影響
後期重爆撃期が実在したとすれば、月だけでなく地球にもその影響が及んだと考えられる。後期重爆撃が提唱される以前は、地球は形成から38億年前まで全体が溶融し続けていたと考えられていた。38億年という値は地球上で発見された一連の最古の岩石の形成年代で、この時期に明確な断絶があることが示唆されていた。高精度かつ周辺環境に影響されにくいジルコンに対して行うウラン・鉛年代測定法(U-Pb法)を含め、様々な年代測定法が試されたが、38億年という値はほとんど不変のものだった。より古い岩石は発見されないことから、この時点まで地球は溶融した状態が続いていたと認識され、38億年前を最初期の地質時代の区切りとし、38億年前以前は冥王代と分類されていた。
現在では40億年前やそれ以前の岩石が発見されており、最古のものは42億8千万年前の海洋地殻を形成していたと考えられている岩石でカナダ北東部ケベック州で見つかっており少なくともその頃には海が存在していた[7]。さらにはオーストラリアのジャック・ヒルで44億年前に形成されたと推定されるジルコン結晶が発見されている[8]。これらから原始地球はかなり早い時期に冷えて固まったのではないかと推定されている。また冥王代の区切りも40億年前に変更された。
南極大陸で発見された隕石にはより古い岩石も含まれている。それらの形成年代にも明確な断絶があり、46億年より古いものは見つかっていない。これは、原始太陽の周りの原始惑星系円盤で最初の固体物質が作られた時期を反映したものと考えられている。したがって冥王代は、最初の岩石が太陽系に生成した46億年前からその7億年後に地球が固化するまでの期間とされている。この時代には、原始惑星系円盤から惑星が誕生し、重力ポテンシャルエネルギーを解放しながらゆっくりと冷却していく過程が含まれている。
岩石惑星が冷却し表面が固化するまでの時間は天体のサイズに依存し、地球の場合は1億年と計算されている[9]。これは前述の7億年と大きく食い違っているが、後期重爆撃期仮説はこの問題を解決することができる。つまり38億年前の最古の岩石は、一旦は完成していた地球地殻が38億年前ごろの激しい天体衝突でほぼ完全に破壊され、その後再び固化した時代のものとすれば矛盾を解消できるのである。
この考え方は冥王代の地球像に大きな変化をもたらした[10]。古い参考書では、冥王代の地球はどろどろに溶けた表面を持ちいたる所に噴火口を持つ「地獄のような」惑星として描写されていた[11]。しかし現在では、この時代の地球は固体の地表と穏やかな気候を持ち、強い酸性ながら海も存在していたと考えられている。現存する最古の地球岩石が形成される以前に、既に水ベースの化学反応が起きていたことが複数の同位体比の観測から示唆されているが、このことは新しい地球像の裏付けとなっている[12]。
生命への影響
1979年、マンフレート・シドロウスキー (Manfred Schidlowski) は、グリーンランドに見られる堆積岩の炭素同位体比に生命の痕跡がみられると主張した。問題となった岩石の形成時期については論争があり、シドロウスキーは38億年前を、他の研究者は36億年前を提唱した。後期重爆撃期と地殻の「再溶融」を考えると、生命は後期重爆撃期の直後に誕生したか、あるいは、冥王代初期に誕生して後期重爆撃期を生き抜いたと考えられる。近年、シドロウスキーの発見した堆積岩の形成年代は考えられる範囲で最も古い38億5,000万年前らしいという結果が出ており、生命は重爆撃期を生き抜いたという説が有力になっている[13]。シドロウスキーの岩石に関しては21世紀に入っても活発な議論が交わされている。
その後オーストラリアのジャック・ヒルズの岩石でも、同様の生命の痕跡らしきものが発見された。ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学付属鉱物学研究所のトーステン・ガイスラー (Thorsten Geisler) は、42億5,000万年前のジルコン内にダイヤモンドや黒鉛の小片として閉じ込められた炭素を研究し、炭素12対炭素13の同位体比が異常に高いことを明らかにした。これは生物活動の痕跡かもしれない[14]。
現生生物が後期重爆撃期を乗り切った2系統の好熱菌(細菌の祖先と古細菌類の祖先)に由来する可能性も議論されている[15]。
- ^ 天文学辞典 - 日本天文学会 「隕石重爆撃期」 閲覧2021-9-24
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- 1 後期重爆撃期とは
- 2 後期重爆撃期の概要
- 3 地球への影響
- 4 原因
- 5 脚注
固有名詞の分類
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