堅果 堅果が関わる偽果

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堅果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/28 09:09 UTC 版)

堅果が関わる偽果

果実は基本的に雌しべ子房に由来する構造であるが、植物によっては花托花被など子房以外の部分に由来する構造が多く加わることもあり、このような果実は偽果とよばれる[4]ブナ科の堅果は全体または一部が殻斗(総苞片が集合・合着した構造)で包まれており、偽果状である(下図5a)。ハシバミ属カバノキ科)の堅果も、苞(果苞)で包まれて偽果状になる[32](下図5b)。カヤツリグサ科スゲ属では、小堅果(痩果ともされる)が特殊化した葉である果胞(perigynium)で包まれている[39][注 4](下図5c)。

5a. Quercus falcataブナ科)の堅果と殻斗(殻斗果
5b. ムラサキセイヨウハシバミ(カバノキ科)の苞で包まれた堅果
5c. Carex albaカヤツリグサ科)の果胞に包まれた小堅果(または痩果
5d. クルミ属クルミ科)の"堅果"(右下)は総苞や外果皮に由来する外皮で覆われている
5e. イシミカワタデ科)の小堅果(または痩果)は肉質の花被で覆われる

クルミ属クルミ科)の果実は堅果として扱われることが多いが、やや特殊な構成をしている(上記参照)。種子を含む堅い部分は、多肉質の外皮で包まれているが(上図5d)、この外皮は外果皮に加えて総苞など子房以外の部分を含むため、外皮を加えた場合はこの果実は偽果である[2]

タデ科スイバイタドリイヌタデイシミカワでは、小堅果(または痩果)は花被に包まれている[24](上図5e)。このような構造は、風散布や動物被食散布に寄与することがある[24]


注釈

  1. ^ 英語の nut は、他にねじのナットなどを意味し、また俗語として頭や変わり者、狂人などの意味でも用いられる[1]
  2. ^ ただし核果としている例もある[12]
  3. ^ 複数形は strobili[34]
  4. ^ このような果実は胞果(嚢果、utricle)ともよばれるが[7]、胞果(utricle)はふつうヒユ科などに見られる果皮種子をゆるく包んだ果実を意味しており、果実が果胞でゆるく包まれたスゲ属のものとは構造的に異なる。
  5. ^ 上記のように、クルミ類の果実は、厳密な意味では堅果ではない[2]

出典

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  2. ^ a b c d e f Armstrong, W.P.. “Fruits Called Nuts”. Wayne's Word. 2022年5月6日閲覧。
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