厚生年金
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/07 00:58 UTC 版)
被保険者
適用事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外に該当しない限り、厚生年金の当然被保険者となる(第9条)。法人の代表者、業務執行者、法人でない組合の70歳未満の組合長についても、労働の対価として報酬を受けている場合は、原則として被保険者となる。短時間労働者の適用も健康保険と共通である。国または地方公共団体の適用事業所に勤務する「4分の3」要件を満たさない短時間労働者は、特定適用事業所でなくても適用除外に該当しない限り被保険者となる。
被用者年金一元化により、被保険者は、次の4つの種別に区分される(第2条の5)。同一の適用事業所においてこれらの種別に変更が生じた場合は、各種別ごとに被保険者資格の取得・喪失の手続きが必要となる(第13条・第14条)。国民年金のような「種別の変更」の規定は適用されない。また第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者は同時に第1号厚生年金被保険者の資格を取得せず、第1号厚生年金被保険者が同時に第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者資格を取得した場合は、その日に第1号厚生年金被保険者の資格を喪失する(第18条の2)。なお第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者の資格の取得・喪失については厚生労働大臣の確認は必要としない(第18条4項)。
- 第1号厚生年金被保険者・・・第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者以外の者
- 第2号厚生年金被保険者・・・国家公務員共済組合の組合員である被保険者
- 第3号厚生年金被保険者・・・地方公務員共済組合の組合員である被保険者
- 第4号厚生年金被保険者・・・私立学校教職員共済制度の加入者である被保険者
適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外に該当しない限り、厚生労働大臣の認可を受けて、厚生年金の任意単独被保険者となる(「4分の3」要件を満たさない短時間労働者を除く)。この認可を受けるには、当該事業所の事業主の同意を得なければならない(第10条)。被保険者期間の長短は問わず、またすでに老齢厚生年金の受給資格を有する場合であってもなることはできる。なお、任意単独被保険者は厚生労働大臣の認可を受けてその資格を喪失することができるが、その場合は事業主の同意は不要である(第11条)。ただし、強制適用事業所がその要件に該当しなくなったからといって、その事業所に使用される者が自動的に任意単独被保険者となるわけではない。
1985年(昭和60年)改正前の旧法においては、以下のように被保険者種別が区分されていた。経過措置として規定の一部が残存する。
- 第1種被保険者・・・男子である被保険者であって、第3種被保険者、第4種被保険者及び船員任意継続被保険者以外のもの。
- 第2種被保険者・・・女子である被保険者であって、第3種被保険者、第4種被保険者及び船員任意継続被保険者以外のもの。
- 第3種被保険者・・・鉱業法第4条に規定する事業の事業場に使用され、かつ、常時坑内作業に従事する被保険者または船員法第1条に規定する船員として同法第6条1項3号に規定する船舶に使用される被保険者であって、第4種被保険者、および船員任意継続被保険者以外のもの。
- 第4種被保険者・・・任意継続被保険者(10年以上の加入期間を有する者は、退職後も、旧老齢年金の受給資格期間(原則20年)を満たすまで加入することを認めていた)。
- 船員任意継続被保険者
被保険者期間を計算する場合には、月によるものとし、被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月までをこれに算入する。被保険者の資格を取得した月にその資格を喪失したときは、その月を1か月として被保険者期間に算入する。但し、その月にさらに被保険者又は国民年金の被保険者(国民年金第2号被保険者を除く)の資格を取得したときは、この限りでない(第19条)。この規定は被保険者種別ごとに適用し、同一月において被保険者種別に変更があったときはその月は変更後の種別(2回以上変更があった場合は、その最後の種別)の被保険者であった月とみなす。例えば、月の途中で民間企業(厚生年金、国民年金第2号被保険者)を退職し、自営業(国民年金第1号被保険者)となった場合、従来はその月は厚生年金の被保険者としての1か月として計算され、保険料は厚生年金の1か月分、国民年金の1か月分の両方が徴収されていたが、2015年(平成27年)10月からは国民年金第1号被保険者としての1か月として計算され、保険料は国民年金の1か月分のみが徴収されることとなる。ただし、この者が60歳以上の場合、退職しても国民年金第1号被保険者とはならないため、厚生年金の被保険者としての1か月として計算され、保険料は厚生年金の1か月分が徴収されることになる。
被用者年金一元化による経過措置として、平成27年10月より前の公務員共済の組合員期間、私学共済の加入者期間は、一定の場合(脱退一時金の計算の基礎となった期間等)を除き、それぞれ第2〜4号厚生年金被保険者期間とみなされる(一元化法附則第7条)。
短時間労働者
厚生年金はフルタイム勤務者は企業規模に関係なく加入義務があるが、2007年4月、「被用者年金制度の一元化法案」の中に、パートタイム労働者の厚生年金(社会保険)の適用の拡大が盛り込まれ、後に「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」として成立した。2016年10月から、同法により被用者年金(厚生年金)および被用者健康保険が、以下の条件をすべて満たす人にも拡大された[7][8]。
- 年齢が75歳未満、かつ学生ではない
- 所定労働時間が週20時間以上
- 賃金が月額換算で88,000円以上
- 勤務期間が1年以上
- 従業員501人以上
2020年5月29日、年金制度改革関連法が成立し、2022年10月から従業員101人以上、2024年10月から従業員51人以上の企業規模のパートや非正規労働者の厚生年金加入義務化された[9]。
70歳以上の被保険者
当然被保険者は70歳に達したときは、その日にその資格を喪失するが、以下の要件を満たした場合は、「70歳以上の被用者」として、在職老齢年金(高在老)の対象となり、老齢厚生年金の支給停止の対象となる。
- 70歳以上であること[10]。
- 70歳以上であることを除き、当然被保険者に該当する要件を満たす者。
- かつて厚生年金保険の被保険者であったことがある者。
当然被保険者は70歳に達したときはその資格を喪失するが(第14条5号)、その者が老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有しているとは限らない。そこで、所定の要件を満たした者については、この受給資格期間を満たすまで(年齢制限なし)厚生年金に加入することができる(高齢任意加入被保険者)。受給権を有しないからといって自動的に高齢任意加入被保険者となるわけではない。なお遺族年金や障害年金の受給権を有していても高齢任意加入被保険者となることはできる。
老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有しない70歳以上の者が、
- 適用事業所に使用される場合は、実施機関に申し出て、高齢任意加入被保険者となることができる。申出の受理された日に被保険者資格を取得する。保険料は、事業主が折半負担の同意をした場合を除いて、被保険者が保険料を全額負担し、かつその納付義務を負う。事業主のこの同意あるいは同意の撤回は、10日以内に機構に届出なければならない。事業主の折半負担等の同意がない場合に高齢任意加入被保険者が保険料を滞納し、督促状の納期限までに納付しない場合、納期限の属する月の前月末日にその資格を失う。ただしその保険料が初めて納付すべき保険料であった場合は、当初から高齢任意加入被保険者とならなかったものとみなす。なお同意を撤回したからといって被保険者資格を喪失することは無い。適用事業所が適用事業所でなくなった場合、引き続き同じ事業所に使用されたとしても、当該高齢任意被保険者はその翌日に被保険者資格を失う。
- 適用事業所以外の事業所に使用される場合は、事業主の同意(この同意は後で撤回できない)と厚生労働大臣の認可を受けて、高齢任意加入被保険者となることができる(「4分の3」要件を満たさない短時間労働者を除く)。認可のあった日に被保険者資格を取得する。保険料は労使折半で、事業主が全額の納付義務を負う。そのため、保険料の滞納があったとしても、そのことをもって被保険者資格を喪失することは無い。
以下の要件をすべて満たす者については、経過措置として現在でも第4種被保険者となることができる。なお、第4種被保険者は、高齢任意加入被保険者となることはできない。
- 1941年(昭和16年)4月1日以前生まれ[11]で、1986年(昭和61年)4月1日(新法施行日)に厚生年金保険の被保険者であること。
- 1986年(昭和61年)4月から資格喪失日(退職日)の属する月の前月までのすべての期間、厚生年金保険等に加入していたこと。
- 厚生年金保険の被保険者期間が10年以上20年(特例の場合は15〜19年)未満であること[12]。
- 資格喪失日から起算して6か月以内に厚生労働大臣に申し出ること。
経過措置により、1932年(昭和7年)4月2日以降に生まれた者であって、かつ2002年(平成14年)3月31日において第4種被保険者であった者であって、同年4月1日において適用事業所に使用される者については、同日に当然被保険者の資格を取得し、第4種被保険者の資格を喪失する。
被保険者等に関する届出等
法改正により平成30年3月5日以降は、届出に基礎年金番号を記載しなければならない場合において、基礎年金番号と個人番号のいずれかを記載すればよいこととなった。
被保険者資格を取得したときは、直ちに、年金手帳を事業主に提出しなければならない(規則第3条)。事業主は、年金手帳の確認後、これを被保険者に返付しなければならない(規則第16条)。なお、初めて被保険者資格を取得した者については、厚生労働大臣から年金手帳が交付されるが(規則第17条)、この交付は事業主を通して行うことができる(規則第81条2項)。
事業主は、被保険者の資格を取得(喪失)した者があるときは、資格取得(喪失)届を5日以内(船員は10日以内)に機構に提出しなければならない(規則第15条)。雇用している被保険者が「70歳以上の被用者」に該当した場合は当該事実があった日から5日以内(船員は10日以内)に事業主は被保険者資格喪失届・70歳以上被用者該当届[13]を機構に提出しなければならない(規則第15条の2)。なお、平成31年4月より「船員でない70歳以上の被用者」の標準報酬月額相当額が従前と同じである場合は被保険者資格喪失届・70歳以上被用者該当届の提出を省略できることとなり、令和2年4月より「船員である70歳以上の被用者」についても同様に省略できることとなった。
一般の被保険者がその氏名を変更したときは、地方公共団体情報システム機構から機構保存本人確認情報の提供を受けられない場合には速やかに、変更後の氏名を事業主に申し出ると主に、年金手帳を事業主に提出しなければならない(規則第6条)。事業主は申出を受けて、速やかに年金手帳に変更後の氏名を記載して被保険者に返付するとともに、氏名変更届を機構に提出しなければならない。なお、適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者がその氏名を変更した場合は、地方公共団体情報システム機構から機構保存本人確認情報の提供を受けられない場合には10日以内に、年金手帳を添えて機構に直接氏名変更届を提出する(規則第5条の4)。
被保険者資格の得喪は原則として厚生労働大臣の確認によってその効力を生じる(第18条)。確認は原則として事業主からの届出によって行うが、以下の場合は確認は行わない(届出は不要となる)。なお、確認自体は厚生労働大臣が職権で行うことができる。
- 任意適用事業所の適用取消による被保険者の資格喪失
- 任意単独被保険者の資格取得・認可による資格喪失(認可によらない資格喪失の場合は届出要)
- 高齢任意加入被保険者の資格取得
- 適用事業所以外の事業所に使用される高齢任意加入被保険者の資格喪失の認可・老齢年金の受給権取得による資格喪失
- 適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者の資格喪失の申出の受理・老齢年金の受給権取得・滞納・任意適用事業所の適用取消による資格喪失
被保険者又は70歳以上被用者は、同時に2以上の事業所に使用されるに至ったとき、その2以上の事業所に係る機構の業務が2以上の年金事務所に分掌されている場合は年金事務所を選択し所属選択届を、分掌されていない場合は2以上事業所勤務届を、それぞれ10日以内に機構に提出しなければならない(規則第1条~第2条)。
年金の受給権者の属する世帯の世帯主その他その世帯に属する者は、当該受給権者の所在が1月以上明らかでないときは、速やかに所定の事項を記載した届書を日本年金機構に提出しなければならない。
適用除外者
次の各号のいずれかに該当する者は、上記の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない(第12条)。なお、被用者年金一元化により、公務員等を適用除外とする規定は削除され、1945年(昭和20年)10月2日以降に生まれた者(被用者年金一元化の施行日(2015年(平成27年)10月1日)に70歳未満の者)は公務員等であっても厚生年金の被保険者となり、一元化をまたいで公務員であった者は一元化施行日に厚生年金被保険者資格を取得する(一元化法附則第5条)。1〜6は原則として健康保険と共通である。
- 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)であって、日々雇い入れられる者
- 但し、その者が1月を超えて引き続き使用されるに至った場合は、その超えた日から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
- 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)であって、2月以内の期間を定めて使用される者
- 但し、その者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は、その超えた日から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
- 季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)
- 但し、その者が、当初から継続して4月を超えて使用される予定である場合は、その当初から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
- 業務の都合により使用期間が4月を超えたに過ぎない場合は、被保険者とはならない(昭和9年4月17日保発191号)。
- 臨時的事業の事業所に使用される者
- 但し、その者が、当初から継続して6月を超えて使用される予定である場合は、その当初から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
- 業務の都合により使用期間が6月を超えたに過ぎない場合は、被保険者とはならない。
- 所在地が一定しない事業所に使用される者
- この場合は、その者が長期にわたって使用されたとしても、当然被保険者・任意単独被保険者とはならない。
- 特定適用事業所以外の適用事業所に使用される、4分の3要件を満たさない短時間労働者
- 「当分の間」の措置とされる。
- 厚生年金に相当する外国の法令の適用を受ける者であって政令で定めるもの(現在、当該政令は未制定)
- ^ 国民年金と同趣旨の規定が厚生年金についても置かれている(年金額の改定、財政の均衡、財政の現況と見通しの作成、積立金の運用、年金原簿、年金請求手続き、併給調整、受給権の保護、給付制限等)。
- ^ 『厚生労働白書 平成30年度』厚生労働省、2018年、資料編 。
- ^ 被用者年金制度の一元化に伴い、2015年10月1日から公務員及び私学教職員も厚生年金に加入。また、共済年金の職域加算部分は廃止され、新たに退職等年金給付が創設。ただし、2015年9月30日までの共済年金に加入していた期間分については、2015年10月以後においても、加入期間に応じた職域加算部分を支給。
- ^ 厚生労働省年金局「平成27年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」 2017年(平成29年)3月
- ^ 厚生労働省年金局「平成25年度厚生年金・国民年金の収支決算の概要」 2014年(平成26年)8月
- ^ これは、船員保険独自で持っていた年金制度を1986年(昭和61年)に厚生年金と統合したが、医療保険制度については引き続き船員保険独自の給付を行っているためである。
- ^ (1)公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年8月10日成立)
- ^ “平成28年10月より短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大が始まります。”. 日本年金機構 (2016年9月20日). 2016年9月20日閲覧。
- ^ 2020年5月30日中日新聞朝刊2面
- ^ 2015年(平成27年)10月改正までは「1937年(昭和12年)4月1日以前に生まれた者を除く。」とされていたが、改正後はこれらの者も在職老齢年金の対象となる。
- ^ 1941年(昭和16年)4月2日以降に生まれた者については、新法施行日時点では第4種被保険者となることができたが、現在では1941年(昭和16年)4月1日以前生まれの者に限られる。
- ^ 被保険者期間が20年(15〜19年)に達した場合は、老齢年金の受給権が発生していなくても、被保険者資格を喪失する。
- ^ 従来は「被保険者資格喪失届」「70歳以上被用者該当届」が別々の様式だったが、平成30年3月5日以降は一枚の用紙で両方の届出ができるようになった。
- ^ a b c “平成26年度決算(年金特別会計 厚生年金勘定)”. 厚生労働省. 2015年9月1日閲覧。
- ^ 厚生年金保険料率の引上げが終了します厚生労働省
- ^ 産前産後休業期間の保険料の徴収の特例の適用を受ける被保険者は、育児休業期間中の保険料の徴収の特例の対象とされない。つまり、第1子に係る育児休業期間中に第2子の産前産後休業を開始した場合、第1子に係る育児休業期間中の保険料の徴収の特例は終了する。
- ^ 合意分割において事実婚期間が対象とされるためには、原則として国民年金第3号被保険者として認定されていることが必要である。
- ^ 離婚の届出をしていないが、夫婦としての共同生活が営まれておらず、事実上離婚したと同様の事情にあると認められる場合であって、両当事者がともに当該事情にあると認めている場合であっても、合意分割の請求はできない。
- ^ 離婚の届出をしていないが、夫婦としての共同生活が営まれておらず、事実上離婚したと同様の事情にあると認められる場合であって、両当事者がともに当該事情にあると認めている場合であり、かつ被扶養配偶者が第3号被保険者の資格を喪失している場合、3号分割の請求ができる。
- ^ 夫が平均的な収入で40年間就業し、妻が専業主婦であるという世帯。
- ^ “平成16年 財政再計算版”. 厚生労働省 (2012年). 2013年11月7日閲覧。
- ^ “厚生、国民年金ともに黒字=積立金は過去最高-17年度収支”. 時事通信 (2018年8月10日). 2018年11月20日閲覧。
厚生年金と同じ種類の言葉
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