厚生年金 費用負担

厚生年金

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/07 00:58 UTC 版)

費用負担

厚生年金特別会計 歳入(平成26年度決算)[14]

  保険料収入 (63%)
  一般会計より受入 (21%)
  基礎年金勘定より受入 (1%)
  その他の保険収入 (7%)
  独立行政法人納付金 (8%)
  その他 (0%)

厚生年金の被保険者は原則として同時に国民年金第2号被保険者となるため、収入の一部(40%)は基礎年金給付費等基礎年金勘定へ繰入されている[14]

国庫負担

国庫は、毎年度予算の範囲内で、厚生年金事業の事務の執行に要する費用を負担する(事務費は全額国庫負担)。なお厚生労働大臣以外の実施機関が行う事務の執行費用については、共済各法の定めにより、厚生年金保険法上の国庫負担は行われない。

また、国庫は、毎年度、政府が負担する基礎年金拠出金の額の2分の1に相当する額を負担する。さらに1961年(昭和36年)4月1日前の期間に係る給付費についても国庫負担が行われている(第3種被保険者期間の25%、それ以外の期間の20%)。

保険料

第1号厚生年金被保険者に係る保険料率は、2017年9月現在、被保険者の標準報酬月額標準賞与額18.3%であり、今後は法改正が行われない限りこの保険料率で固定される[15]。また、厚生年金基金加入者は、保険料率から2.4〜5.0%(免除保険料率)を控除した率となる。被用者年金一元化により、厚生年金よりも低い保険料率(2017年9月現在、第2,3号厚生年金被保険者は17.986%、第4号厚生年金被保険者は15.062%(特例により実際は13.911%))となっている共済年金から移行した保険料率についても、第2,3号厚生年金被保険者は2018年9月、第4号厚生年金被保険者は2027年4月に厚生年金と同じ18.3%に統一される予定である。

保険料は被保険者と事業主とが折半して負担し(健康保険とは異なり、規約等で定めても事業主負担を増やすことはできない)、事業主が被保険者の分も含めて納付義務を負う。ただし事業主の同意のない高齢任意加入被保険者及び第4種被保険者は、保険料を全額自己負担し、その納付義務を負う(第82条)。毎月の保険料は、翌月末日(第4種被保険者はその月の10日。ただし前納可)までに納付しなければならない(第83条)。事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬・賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額・標準賞与額に係る保険料を報酬から控除することができる(第84条)。事業主の同意のない高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者は、初めて納付する保険料を滞納した場合、当初より高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者とならなかったものとみなされる。

被保険者が同時に2以上の適用事業所に使用される場合、各事業主の負担すべき保険料は標準報酬月額に応じて案分する。一方、被保険者が、船舶に使用され、かつ、同時に事業所に使用される場合においては、船舶所有者以外の事業主は保険料を負担せず、保険料を納付する義務を負わないものとし、船舶所有者が当該被保険者に係る保険料の半額を負担し、当該保険料及び当該被保険者の負担する保険料を納付する義務を負うものとする。

船員たる被保険者又は船員たる70歳以上の使用される者の標準報酬月額の決定・改定については船員保険法の標準報酬月額の規定を用いて行い、第4種被保険者の各月の標準報酬月額は、原則としてその被保険者の資格を取得する前の最後の標準報酬月額を用いる。被保険者又は70歳以上被保険者が船舶に使用され、かつ同時に事業所に使用される場合は、船舶に係る報酬のみで報酬月額を算定する(事業所で受ける報酬は無視する)。

厚生労働大臣は、被保険者の資格、標準報酬又は保険料に関し必要があると認めるときは、官公署に対し、法人の事業所の名称、所在地その他必要な資料の提供を求めることができる。市町村長は、厚生労働大臣又は受給権者に対して、当該市町村の条例の定めるところにより、被保険者、被保険者であった者又は受給権者の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる。

保険料の徴収

以下の場合においては、保険料は納期前であっても、すべて徴収することができる(繰上徴収、第85条)。船舶については厚生年金独自の、ほかは健康保険と共通の規定である。

  • 納付義務者が国税地方税その他公課の滞納によって、滞納処分を受けるとき
  • 納付義務者が強制執行破産手続きの開始決定を受けるとき、企業担保権の実行手続きの開始、競売の開始があったとき
  • 法人たる納付義務者が解散した場合
  • 被保険者の使用される事業所が廃止された場合(事業譲渡により事業主に変更があった場合を含む)、船舶所有者の変更があった場合、又は当該船舶が滅失・沈没・運航に全く堪えなくなるに至った場合

厚生労働大臣は、納付すべき保険料額を超えて被保険者が保険料を納付した場合、その超えた部分の額を、その納付の日の翌日から6月以内の期日に納付されるべき保険料について納期を繰り上げてしたものとみなすことができる。この場合、厚生労働大臣はその旨を当該納付義務者に通知しなければならない(第83条)。

保険料その他の徴収金は、別段の規定がある場合を除き、国税徴収の例により徴収する(第89条)。

保険料を徴収する権利が時効により消滅したときは、当該保険料に係る被保険者であった期間(被保険者本人及び国民年金第3号被保険者たる配偶者であった期間)に基づく保険給付は行わない。ただし、当該被保険者であった期間に係る被保険者の資格の取得について事業主からの届出または被保険者もしくは被保険者であった者からの確認の請求があった後に、保険料を徴収する権利が時効によって消滅したものであるときは、保険給付は行われる(第75条)。

保険料の免除

育児休業等(育児介護休業法による育児休業もしくは同法による育児を理由とする所定労働時間の短縮等の措置等をいう。なお同法に定める介護休業もしくは介護を理由とする所定労働時間の短縮等の措置等の場合は対象とならない。以下同じ。)をしている被保険者(第1号・第4号厚生年金被保険者に限る)が使用される事業主は、実施機関に申出ることにより、育児休業開始月から終了の前月までの当該被保険者に係る保険料(本人負担分・事業主負担分とも)の免除が行われる(第81条の2)。なお第2号・第3号厚生年金被保険者の場合は被保険者自らが申し出る。一方、労働基準法上の産前産後休業期間については、2014年(平成26年)4月30日以降に休業が終了となる者について、2014年(平成26年)4月分以降の保険料が本人負担分・事業主負担分とも免除される(第81条の2の2)[16]。当該免除期間は、免除されていない通常の期間と同様の被保険者期間として扱われる。当該被保険者が、休業等終了予定日を変更したときは、速やかに実施機関に届け出なければならない。なお、第4種被保険者・船員任意継続被保険者については、これらに該当しても免除は行われない。また健康保険とは異なり、被保険者が少年院刑事施設等に収容拘禁されても保険料は免除されない。

  • 3歳に満たない子を養育する被保険者が、実施機関に申出をしたときは、当該3歳に満たない子を養育する一定期間の各月のうち、その標準報酬月額が従来標準報酬月額を下回る月については、従前標準報酬月額を当該下回る月の平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす(第26条)。つまり、産前産後休業・育児休業等終了時改定により標準報酬月額が減額改定されても、年金額の計算についてはこの期間内は減額改定される前の標準報酬月額で計算され、一方保険料の計算については減額改定された標準報酬月額で計算されるので、保険料の負担が抑えられたまま従来の年金額が保障されるということである。

滞納に対する措置

保険料その他厚生年金保険法の規定による徴収金を滞納する者があるときは、厚生労働大臣は保険料を繰上徴収する場合を除き、期限を指定してこれを督促しなければならない(第86条1項)。この期限は、督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日でなければならない(第86条4項)。通常、厚生年金と健康保険はセットで手続されるものであるから、健康保険の督促状に厚生年金の督促を併記して発することができる(第86条3項)。また滞納者が悪質な場合において権限を財務大臣に委任できる要件、延滞金と当分の間の特例も健康保険と共通である。

なお第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者に係る保険料の繰上徴収、保険料その他厚生年金保険法の規定による徴収金の督促及び滞納処分並びに延滞金の徴収については、これらの規定にかかわらず、共済各法の定めるところによる(第87条の2)。


  1. ^ 国民年金と同趣旨の規定が厚生年金についても置かれている(年金額の改定、財政の均衡、財政の現況と見通しの作成、積立金の運用、年金原簿、年金請求手続き、併給調整、受給権の保護、給付制限等)。
  2. ^ 『厚生労働白書 平成30年度』厚生労働省、2018年、資料編https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/18-2/dl/11.pdf 
  3. ^ 被用者年金制度の一元化に伴い、2015年10月1日から公務員及び私学教職員も厚生年金に加入。また、共済年金の職域加算部分は廃止され、新たに退職等年金給付が創設。ただし、2015年9月30日までの共済年金に加入していた期間分については、2015年10月以後においても、加入期間に応じた職域加算部分を支給。
  4. ^ 厚生労働省年金局「平成27年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」 2017年平成29年)3月
  5. ^ 厚生労働省年金局「平成25年度厚生年金・国民年金の収支決算の概要」 2014年(平成26年)8月
  6. ^ これは、船員保険独自で持っていた年金制度を1986年昭和61年)に厚生年金と統合したが、医療保険制度については引き続き船員保険独自の給付を行っているためである。
  7. ^ (1)公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年8月10日成立)
  8. ^ 平成28年10月より短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大が始まります。”. 日本年金機構 (2016年9月20日). 2016年9月20日閲覧。
  9. ^ 2020年5月30日中日新聞朝刊2面
  10. ^ 2015年(平成27年)10月改正までは「1937年昭和12年)4月1日以前に生まれた者を除く。」とされていたが、改正後はこれらの者も在職老齢年金の対象となる。
  11. ^ 1941年昭和16年)4月2日以降に生まれた者については、新法施行日時点では第4種被保険者となることができたが、現在では1941年(昭和16年)4月1日以前生まれの者に限られる。
  12. ^ 被保険者期間が20年(15〜19年)に達した場合は、老齢年金の受給権が発生していなくても、被保険者資格を喪失する。
  13. ^ 従来は「被保険者資格喪失届」「70歳以上被用者該当届」が別々の様式だったが、平成30年3月5日以降は一枚の用紙で両方の届出ができるようになった。
  14. ^ a b c 平成26年度決算(年金特別会計 厚生年金勘定)”. 厚生労働省. 2015年9月1日閲覧。
  15. ^ 厚生年金保険料率の引上げが終了します厚生労働省
  16. ^ 産前産後休業期間の保険料の徴収の特例の適用を受ける被保険者は、育児休業期間中の保険料の徴収の特例の対象とされない。つまり、第1子に係る育児休業期間中に第2子の産前産後休業を開始した場合、第1子に係る育児休業期間中の保険料の徴収の特例は終了する。
  17. ^ 合意分割において事実婚期間が対象とされるためには、原則として国民年金第3号被保険者として認定されていることが必要である。
  18. ^ 離婚の届出をしていないが、夫婦としての共同生活が営まれておらず、事実上離婚したと同様の事情にあると認められる場合であって、両当事者がともに当該事情にあると認めている場合であっても、合意分割の請求はできない。
  19. ^ 離婚の届出をしていないが、夫婦としての共同生活が営まれておらず、事実上離婚したと同様の事情にあると認められる場合であって、両当事者がともに当該事情にあると認めている場合であり、かつ被扶養配偶者が第3号被保険者の資格を喪失している場合、3号分割の請求ができる。
  20. ^ 夫が平均的な収入で40年間就業し、妻が専業主婦であるという世帯。
  21. ^ 平成16年 財政再計算版”. 厚生労働省 (2012年). 2013年11月7日閲覧。
  22. ^ 厚生、国民年金ともに黒字=積立金は過去最高-17年度収支”. 時事通信 (2018年8月10日). 2018年11月20日閲覧。






厚生年金と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「厚生年金」の関連用語

厚生年金のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



厚生年金のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの厚生年金 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS