危機 危機の概要

危機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/13 08:53 UTC 版)

危機の定義

危機とは、a) 家族、経済、社会等複雑なシステムにおいて、b) 機能が低下し、c) 即時的な決断が必要とされるが、d) 機能低下の原因が判っていない状態と定義される。以上 a) から d) を以下に詳述する。

a) 複雑なシステムで発生する – 単純なシステムでは危機にはならない。例えば、道徳的価値や経済的、政治的な危機はあり得るが、自動車危機というのはあり得ない。
b) 機能の低下 - システムの機能は低下するものの停止するわけではなく、機能し続けてはいる。
c) 即時的な決断が必要 - システムのさらなる崩壊を食い止めるための決断を急ぐ必要がある。
d) 原因が判らない - 原因が多数あるか未知であるため、状況を好転させるために合理的な、既知の情報に基づいた決断を下すことができない。

危機を定義付ける特徴はいくつかある。シーガー、セルナウ、およびアルマーの説によると、危機は4つの特徴を持った、「組織の高優先度の目標に対して、高レベルの不確定要素および脅威(もしくは脅威と感じられるもの)を生み出す、特定の、想定外の、そして非日常の出来事もしくはその連続」であるとされている[2]。従って、危機を定義付ける最初の3つの特徴としては、ある出来事が、

  1. 想定外である。
  2. 不確定要素を生み出す。
  3. 重要な目標に対して脅威となると見られる。

ということになる。

これに対し、ベネットは「危機とは、古いシステムがもはや維持し得なくなったところでの移行の過程である。」と反論している[3]。従って、危機を定義付ける4つ目の要素は、変化の必要性ということになる。変化が必要でない場合は、その出来事は失敗と呼んだほうがより正確である。

その性質上予知することのできない、火山の噴火や津波等の自然災害を除けば、人間が直面する危機の多くは人間によって造り出されるものである。それ故、危機の特徴の1つである「想定外であること」の根源は、危機的状況の凶兆に気づくことのできなかった人間に帰せられる。人間が危機的状況の凶兆を危機に陥る前に気づけなくしている要因のいくつかは、人間の感情に対して救いや保護をもたらす、拒否等の心理的な反応にある[4]

危機の凶兆に気づけない別の理由としては、人間は誤った理由によって何かをしていると信じ込むという「ひっかけ」に遭いやすくなるということが挙げられる。換言すれば、人間は正当な理由で誤ったことをしてしまうということである。例えば、人間は気候に実影響を与えない経済活動に携わることで、気候変動の脅威を解決していると信じてしまうこともあり得る。ミトロフおよびシルバーズは、こうした類の過誤に対する2つの理由を仮定し、タイプ3(不注意)およびタイプ4(故意)に分類している[5]

行動の結果に対する注意の欠如が、結果として危機を引き起こすこともある。この観点から人間は、難局の真の原因を理解しないとやがては下降線をたどり続けかねないということを学ぶこともある。

しかし一方で、危機とは「転機」と言う解釈も存在する。山本(2000)

キャプラン,G(1960-1968)は、その過程の介入の試みに拠っては、結果的に良い結果をもたらすか、逆の結果をもたらすか達成には相違が生じるとしている。

経済危機

経済危機とは急速に訪れる深刻な不況のことであり、恐慌とも呼ばれる。経済危機は金融危機や通貨危機など、細分化されて呼ばれることもある。歴史上には1929年世界恐慌をはじめ、1971年ドル・ショック1973年および1979年石油危機1992年ポンド危機1997-98年アジア通貨危機2007年に始まった世界金融危機などの例がある。

経済危機は個人に対しても危機的な悪影響を及ぼし得る。経済危機に伴う雇用の激減で失業すれば、収入を得ることができなくなり、衣食住に困るようになったり、健康保険に加入できなくなることによって安価に十分な医療を受けることができなくなったりと、直接的に健康に悪影響を及ぼし得る。また厚生年金に加入できなくなることにより、将来的な収入の減少にもつながる。さらに、社会や他人との接点が減り、一日の起きている時間の大部分を無為に過ごすことによって、自信の喪失やうつ病の原因にもなり得る。


  1. ^ Liddell, Henry George and Robert Scott. κρίσις. A Greek-English Lexicon. Perseus.
  2. ^ Seeger, M. W., T. L. Sellnow, and R. R. Ulmer. "Communication, organization, and crisis". Communication Yearbook. Vol.21. pp.231-275. 1998.
  3. ^ Venette, S. J. "Risk communication in a High Reliability Organization: APHIS PPQ's inclusion of risk in decision making". Ann Arbor, MI: UMI Proquest Information and Learning. 2003.
  4. ^ Mitroff, I. "Why some companies emerge stronger and better from a crisis". p.36. 2005.
  5. ^ Mitroff & Silvers, "Dirty rotten strategies". 2009.
  6. ^ Bankoff G., G. Frerks, and D. Hilhorst. (eds.) "Mapping Vulnerability: Disasters, Development and People". 2003. ISBN 1-85383-964-7.
  7. ^ Wisner B., P. Blaikie, T. Cannon, and I. Davis. "At Risk – Natural hazards, people's vulnerability and disasters". Wiltshire: Routledge. 2004. ISBN 0-415-25216-4.
  8. ^ Numbers of threatened species by major groups of organisms (1996–2016). IUCN. 2016.
    なお、IUCNは絶滅寸前(CR)、絶滅危惧種(EN)、および危急種(VU)の3カテゴリーに入る種を「絶滅が危惧される種」としている。
  9. ^ Endangered languages. UNESCO. Accessed August 10, 2012.
  10. ^ Lebow, RN. "Between Peace and War: The Nature of International Crisis". pp.7-10. The Rancho Bernardo Hopkins University Press, 1981. ISBN 0-8018-2311-0.
  11. ^ Shlaim, Avi. "The United States and the Berlin Blockade, 1948–1949: a study in crisis decision-making". p.5. Berkeley, California: University of California Press. 1983.


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