乳糖不耐症 乳糖不耐症の概要

乳糖不耐症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/13 17:29 UTC 版)

乳糖不耐症
ラクトースは通常ラクターゼによって加水分解される
概要
診療科 内分泌学
分類および外部参照情報
ICD-10 E73
ICD-9-CM 271.3
OMIM 223100 150220
DiseasesDB 7238
MedlinePlus 000276
eMedicine med/3429 ped/1270
Patient UK 乳糖不耐症
MeSH D007787

多くの場合、消化不良や下痢などの症状を呈する。ヒトを含むほとんどの哺乳動物は、離乳するとラクターゼの活性が低下する[3]

成体になっても活性が続いている場合には、ラクターゼ活性持続症などと呼ばれる。また牛乳アレルギーガラクトース血症は、乳糖不耐症とは異なる。

原因

乳糖不耐症は、小腸ラクターゼが十分に働かず、乳糖が分解されないことで症状を起こしている。

乳糖(ラクトース)は、腸内で作られる消化酵素ラクターゼによって加水分解されガラクトースグルコース(ブドウ糖)に分解される[1]。そして吸収される。しかし、ヒトを含むほとんどの哺乳動物は、離乳するとラクターゼの活性が低下する[3]。離乳後のラクターゼの減少は、遺伝子に基づいた現象である[1]

ラクターゼの活性が低い人が牛乳など乳糖を含んだ食物[注釈 1]を摂取すると、乳糖を十分に分解できないため乳糖を吸収することができない。その結果、腸内に乳糖が残ってしまうことで乳糖不耐症の諸症状が発生する。

乳糖不耐症は健康であっても、哺乳類であれば起こりうる。ヒトの場合、乳製品を子供の頃から摂取してきた人を除き、大抵の大人の腸内ではラクターゼの分泌が少ないことが知られている。ただし乳糖不耐症でも、ラクターゼが全く存在しない場合もあれば、存在しても充分な量がないだけの場合もあるので、乳糖の許容量には個体差がある。

この乳糖不耐による自覚症状がない者も含めて、ラクターゼの活性の低下が見られる場合は乳糖不耐症としてカウントし、乳糖(主に牛乳の摂取)の有害性を主張する例も見られる。

集団・地域間の差

乳糖を消化できる成人の割合(推定値)[4]。乳糖を消化できる成人が過半数を占めるのはヨーロッパ北部など一部の地域に限られる。

乳糖不耐症の割合は、集団や地域によって大きく異なる。ヨーロッパ北部では乳糖不耐症の人は5%と少ないが、アジアの多くの地域では成人の90%が乳糖不耐症である[5]。世界全体を見ると、平均して約65%の人が乳幼児期を過ぎてから何らかの形で乳糖不耐症を経験する。大半の人間にとって乳糖不耐症は自然なことであり、決して病気ではないため、日本語では「乳糖不耐症」ではなく「乳糖不耐」と表記すべきとの考えもある[2]

歴史

乳糖が原因であることが判明していなかったころは、「牛乳不耐症」などと呼ばれていた。そして乳糖不耐が原因で発生する諸症状について、古くは食物アレルギーの1つであろうと片付けられ、正確な説明がなされてこなかったという歴史がある[6]。しかし、特に第二次世界大戦後、日本のような一般に栄養状態の悪かった地域において、栄養状態改善のための施策を行うにあたって、牛乳の飲用で体調を崩すため飲めない者が多数居ることが問題となった。この牛乳によって起こる、主に消化器系の諸症状の原因が、牛乳に含まれる乳糖を消化できないことが原因であることが明確になったのは、1958年に発表された次の論文によってだと言われる[7]。この研究が発表されて後、一気に乳糖不耐症についての研究が進んだと言われている[6]

  • P. Durand (1958) "Lattosuria, idiopatica in una paziente con diarrea cronica ed acidosi", Minerva Pediat, 10:706.

注釈

  1. ^ 乳糖はヒトの母乳をはじめとして哺乳類乳汁に多く含まれる。また食用の植物ではサポジラの実にも含まれる。
  2. ^ 常温(25℃)における乳糖の水への溶解度は、0.216 [g/mL] である。参考までに、乳糖と同じ二糖類である蔗糖の水への溶解度は、20℃で2.039 [g/mL]、40℃で2.381 [g/mL] であり、おおよそ乳糖の10倍である。
  3. ^ ここで問題となるのは、ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼガラクトキナーゼUDP-ガラクトース-4-エピメラーゼの3つの酵素である。この内、どれか1つが欠損してもガラクトース血症となる。
  4. ^ ガラクトース血症の中でも、UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼが欠損しているタイプの場合は、それほど厳密な管理を必要としないこともある。より詳細な情報が必要な場合は、「ガラクトース血症」の記事を参照のこと。
  5. ^ 元々は酵母を投入することで牛乳中の乳糖を分解する方法が考えられたが、酵母を作用させた牛乳は味が悪く、広く市販されなかった。結局、牛乳にラクターゼを添加するなどして乳糖を加水分解した牛乳が市販されている。なお、乳糖醗酵性の酵母としては、Saccharomyces fragilis、Saccharomyces lactis、Candida spherica、Candida utilisなどが知られているが、これらの中で、牛乳の乳糖の分解をするために使用された酵母としては、Saccharomyces fragilisが知られている。

出典

  1. ^ a b c d e f “Digestive Enzyme Supplementation in Gastrointestinal Diseases”. Curr. Drug Metab. 17 (2): 187–93. (2016). PMC 4923703. PMID 26806042. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4923703/. 
  2. ^ a b ファン・フォーシュト 2023, p. 193, 訳註.
  3. ^ a b Swallow, D. M. (2003). “Genetics of lactase persistence and lactose intolerance”. Annual Review of Genetics 37: 197–219. doi:10.1146/annurev.genet.37.110801.143820. PMID 14616060. 
  4. ^ “A worldwide correlation of lactase persistence phenotype and genotypes”. BMC Evolutionary Biology 10 (1): 36. (February 2010). doi:10.1186/1471-2148-10-36. PMC 2834688. PMID 20144208. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2834688/. 
  5. ^ Lactose intolerance”. Genetics Home Reference. 2016年11月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年11月18日閲覧。
  6. ^ a b 八木 1992, p. 105.
  7. ^ 八木 1992, pp. 105, 114.
  8. ^ 中村禎子, 奥恒行、「ヒトにおける呼気水素ガス試験による発酵分解評価の有効性とそれに基づく各種食物繊維素材のエネルギー評価の試み」 『日本食物繊維学会誌』 2005年 9巻 1号 p.34-46, doi:10.11217/jjdf2004.9.34
  9. ^ a b c d 八木 1992, p. 107.
  10. ^ a b 左巻ほか 2003, pp. 88–89.
  11. ^ 八木 1992, p. 106.
  12. ^ 八木 1992, p. 109.
  13. ^ 八木 1992, p. 159.
  14. ^ 乳糖不耐症 Archived 2012年4月19日, at the Wayback Machine. (公益財団法人山口県予防保健協会)
  15. ^ 乳糖不耐症 (BIV-deCODEme社のサイトより)
  16. ^ 八木 1992, p. 103.
  17. ^ a b 乳糖不耐症の対処法”. 乳糖不耐症協会. 2019年12月27日閲覧。
  18. ^ “Yogurt--an autodigesting source of lactose”. N. Engl. J. Med. 310 (1): 1–3. (January 1984). doi:10.1056/NEJM198401053100101. PMID 6417539. 
  19. ^ 第3回 腸内細菌による乳糖の発酵分解の差が乳糖不耐症を招く”. 一般社団法人Jミルク. 2024年1月13日閲覧。
  20. ^ ウワサ32 乳糖不耐は改善できる?”. 一般社団法人Jミルク. 2023年12月26日閲覧。






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