三八式歩兵銃 開発・製造

三八式歩兵銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 01:24 UTC 版)

開発・製造

遊底を開いた薬室付近の上面。型式を表す「三八式」と、天皇からの預かりものを表す「菊の御紋(紋章)[注 2]」との刻印がなされている。二つ並んだ貫通穴は三十年式で採用された非常ガス抜き用で、薬室の手前につながっており、発射時の腔圧が異常に上がって薬莢が破れた場合に火薬の燃焼ガスを逃がすもの。銃の左上に彫られている細い溝は遊底被用のレール。

日露戦争における主力小銃であった三十年式歩兵銃は、機関部の構造が複雑なうえ、分解結合の際に撃針(ファイアリングピン)が折れる故障が時折発生した。戦地の満州をはじめ中国大陸が開発時の想定以上の厳しい気候風土であったため、大陸特有の細かい砂塵が機関部内に入り込み作動不良を引き起こした。こうした欠点を補うためも含めた主な改良点は次の通りである。

  • 機関部の構造を簡素化
  • 遊底のロッキングラグを強化し、エキストラクターをモーゼル銃に似た形状に変更
  • 銃把の上下を補強する支金を追加
  • 遊底と連動する遊底被の付加
  • 遊底止めをモーゼル銃に似た引き起こしレバー式に変更
  • 三八式実包の採用
  • 新実包に適合するよう、扇転式照尺の目盛りを変更
  • もし薬莢底部が破れた場合に、火薬ガスが真後ろに噴出するのを防ぐ段差を撃針の中ほどに追加
  • 火薬ガスが真後ろに噴出した際、閉鎖位置にある遊底の側面からガスを排出する穴を、右上(露出)から真下(機関部・先台内)へ変更
  • 弾倉底の落下防止
  • 弾倉発条をコイルスプリングから板バネに変更
  • 手袋着用時のための用心鉄(トリガーガード)の拡大

機関部構造の簡略化は画期的なものであり、マウザーGew 98よりもさらに3個も部品数の少ない、計5個の部品で構成されている。反面で撃鉄・撃針の後端が露出していないため、銃が撃発状態にあるかどうかは外部から目視確認することはできなくなった[注 3]。遊底被は薄い鋼板製で、銃から抜き取った遊底と組み合わせて、遊底と一緒に銃へ装着する。遊底被の横断面を見ると両端に小さな返しが設けられており、装着する際にはこれを銃側の溝に合わせる必要がある。もし遊底被が変形などの影響で銃に適合していないと、振動や摺動によって騒音を発する場合がある。遊底被はレシーバー上面の非常ガス抜き穴をふさいでおらず、装着した状態でここが唯一の開口部となる。先台の右側面にえぐるように削られた箇所があるが、これは遊底・遊底被を前後動させた際に異物を押し出すための排出口である。

1921年(大正10年)4月に発防止のため、施条(ライフリング)を6条から4条に変更する改良も追加で施されている。

製造技術

本銃の部品には互換性がなく、組立工程では熟練工員による微調整を要した[注 4]

木材部分には、国内産のクルミが使用されている。銃床部は三十年式小銃と同じく、耐久性向上のため2個の木材部を上下に組み合わせている。これは銃床の上下で木目の方向を変えることで、銃床が床尾板付近で割れたりささくれ立つことを防ぐための措置であった。

金属部分、特に銃身鋼材については、軍用銃には珍しいタングステン鋼が使用されている。この銃身鋼材は八幡製鉄所精錬し、鋼材を各工廠陸軍造兵廠)で加工した。銃身鋼材を国内精錬とした初めての銃であるが、原料は国内調達ができず、タングステンこそ喜和田鉱山灰重石を使用したが、鉄鉱石は中国鞍山産を使用している。また、銃身鋼の製法特許オーストリアのボーレル(Böhler)社から取得している。また、銃身には製造工数は増えるが、耐久性の高いメトフォード型ライフリングが彫られていた。銃身の寿命は発射数8,000発程度と想定されていた。


注釈

  1. ^ 一部の海外輸出用は使用弾薬変更型有。
  2. ^ 終戦直後の連合軍に対する武装解除時、紋章をそのままに敵に渡すのは忍びないとした日本軍将兵の手により出来る限り紋章を削る行為がされていた。しかし全ての小銃の紋章を完全に削り取ることはできず、軽く傷をつけた物や無傷のものなど、個体差がある。アメリカの収集家間ではこの菊花紋章を「マム(Mum)」(Chrysanthemumの略)と呼称しており、マーケットにおいて「マム」の削り具合や傷の付け具合により価格は変動する(無傷な物ほど希少)。
  3. ^ 映画『拝啓天皇陛下様』では、古兵が内務班の銃架に並べられた本銃の引き金を次々と引いて状態を確認し、撃針が作動する金属音が鳴った、すなわち撃針を後退させたままにしていた新兵に制裁を加える場面がある。
  4. ^ 本銃の後継である九九式短小銃では、部品の互換性が実現された。

出典

  1. ^ 明治工業史. 火兵・鉄鋼篇”. 2020年4月4日閲覧。
  2. ^ The Rifles of China 1880-1950
  3. ^ 陸軍省兵器局銃砲課 『三八式小銃弾薬盒加修及四四式騎銃負革分数交換ニ関スル件』 大正5年 アジア歴史資料センター Ref:C02031956300
  4. ^ 大阪砲兵工廠 『防楯試験器トシテ三八式小銃三挺備附ノ件』 大正7年 アジア歴史資料センター Ref:C03011071800
  5. ^ 陸軍技術本部 『三八式小銃実包小付ノ件』 大正9年 アジア歴史資料センター Ref:C03011373300
  6. ^ 旧日本軍の三八式小銃、ミャンマーで今も現役”. YOMIURI ONLINE. 読売新聞社 (2013年3月19日). 2013年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月11日閲覧。
  7. ^ 昭和7年特許出願公告第2326号 改造自動銃 - 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
  8. ^ 試作一式テラ銃 - 25番
  9. ^ 日本特殊鋼製 教練用小銃 - 25番
  10. ^ Siamese Mauser Followup - the Type 66 Rifle - Forgotten Weapons
  11. ^ 第一軍の「兵器引継書」に見る終戦時の状況 - 日華事変と山西省
  12. ^ Japanese Rifles 1870 - 1945 - Carbines for Collectors






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