ライムギ 栽培

ライムギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/28 04:40 UTC 版)

栽培

ライムギの種子
栽培中のライムギ

主に秋に蒔き、夏に収穫するが、春蒔きの品種もある。ライ麦は発芽温度が1℃から2℃と低く、低温に強いため冬作物として栽培される。秋に蒔かれたライ麦は冬を越し、春になると急速に成長する。ライ麦はほかの穀物よりも耐寒性が強いため、小麦が生育できない寒冷地においてもライ麦は成長できる。また、ライ麦はほかのほとんどの穀物よりも貧しい土壌で生育することができる。そのため、特に砂地や泥炭地などでは特に貴重な作物である。しかしこのやせ地での生育を可能にしているのは、根が深く張り巡らされて養分を地中奥深くから吸収することができるためであるため、地力を消耗しやすく、また吸肥性が高い。一方で根が深くなるために、根を張り巡らせづらい粘土質の土地では生育しにくいが、粘土質以外の土地ではたいていよく生育し、強酸性土壌でもアルカリ性土壌でも生育するなど土質をあまり選ばない[18]。砂地を好み根が深くなるため、砂丘などの土壌流出の防止に効果が高い。また、丈が高いため、成長しすぎると倒伏しやすくなる。連作障害が起こりやすいため、ジャガイモインゲンマメなどと組み合わせた輪作が行われる。

ライムギはもともとコムギ畑の雑草であり、生育条件がほぼ同じであることから、コムギの生育条件の悪い畑では意図的にコムギとライムギを混ぜて栽培されることがある。こうすることで、コムギが寒冷などで不作となった場合においてもライムギの収穫で損害をある程度埋め合わせることができるからである。

病害

麦角菌に冒されたライムギ

子嚢菌の一種麦角菌子房に寄生すると、菌核を形成し[注釈 2]、一群の麦角アルカロイドと呼ばれる様々な生理活性を示すアルカロイドを含むマイコトキシンが発生する。これが麦角である。麦角菌に寄生されたライムギは黒い角状のものを実の間から生やしたため、これが麦角の名の由来となった。これが発生した畑からの収穫物には種子にまぎれて麦角が混入し、これを粉に挽いてパンなどに調理すると、麦角アルカロイドの毒性によって流産や末梢血管の収縮による四肢の組織の壊死、幻覚などの中毒症状を引き起こすので、食用に適さない。この麦角菌中毒は中世に大流行し、多くの人の命を奪った。


注釈

  1. ^ 阪本 (1996)、p.33 では S. montanumS. sylvestre、及び S. cereale の3種を挙げ、S. cereale に従来独立種とされていた S. vaviloviiS. ancestraleS. segetaleS. afghanicum 及び S. cereale が含まれると紹介している。
  2. ^ 地面に落下すると一定期間の休眠後、子実体キノコ)を生じて胞子を飛ばす

出典

  1. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  2. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
  3. ^ a b 辻本壽 「第9章 コムギ畑の随伴雑草ライムギの進化」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、p190 ISBN 978-4-8329-8190-4
  4. ^ 中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』岩波書店 154頁 1966年1月25日第1刷
  5. ^ a b c d 辻本 (2010)、pp.181-182,184-186
  6. ^ 森川 (2010)、p.203
  7. ^ 「新訂 食用作物」p207 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版発行
  8. ^ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店 2004年9月10日 第2版第1刷 p.104-105
  9. ^ 「中世ヨーロッパ 食の生活史」p58 ブリュノ・ロリウー著 吉田春美訳 原書房 2003年10月4日第1刷
  10. ^ 「商業史」p122 石坂昭雄、壽永欣三郎、諸田實、山下幸夫著 有斐閣 1980年11月20日初版第1刷
  11. ^ 「新訂 食用作物」p208 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  12. ^ 辻本壽 「第9章 コムギ畑の随伴雑草ライムギの進化」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、p192 ISBN 978-4-8329-8190-4
  13. ^ 「商業史」p99 石坂昭雄、壽永欣三郎、諸田實、山下幸夫著 有斐閣 1980年11月20日初版第1刷
  14. ^ 南直人 『世界の食文化 18 ドイツ』p151 2003年 農山漁村文化協会 ISBN 978-4-540-03220-2
  15. ^ 辻本 (2010)、pp183-184
  16. ^ a b 「新訂 食用作物」p213 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  17. ^ 「地域食材大百科〈第1巻〉穀類・いも・豆類・種実」p116 農山漁村文化協会 (2010/03)
  18. ^ 「新訂 食用作物」p212 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  19. ^ Major Food And Agricultural Commodities And Producers - Countries By Commodity”. Fao.org. 2015年3月3日閲覧。
  20. ^ 『新編 食用作物』 星川清親 養賢堂 昭和60年5月10日訂正第5版 p279
  21. ^ 「パンの文化史」p65 舟田詠子 講談社学術文庫 2013年12月10日第1刷発行
  22. ^ ジェフリーハメルマン『BREAD』p44 - 46
  23. ^ 「地域食材大百科第1巻 穀類・いも・豆類・種実」p118 社団法人 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  24. ^ 「パンの事典」p116 成美堂出版編集部編 成美堂出版 2006年10月20日発行
  25. ^ パンシェルジュ検定3級公式テキスト」p65 実業之日本社 2009年8月20日初版第1刷
  26. ^ 南直人 『世界の食文化 18 ドイツ』p33 2003年 農山漁村文化協会 ISBN 978-4-540-03220-2
  27. ^ http://www.tsujicho.com/column/cat659/post-193.html 「【独逸見聞録】ブロートの定義 〜大型パン(其の壱)〜」辻調グループ総合情報サイト内 2011年06月15日 2015年4月11日閲覧
  28. ^ 「パンの文化史」pp163-164 舟田詠子 講談社学術文庫 2013年12月10日第1刷発行
  29. ^ 沼野充義、沼野恭子『ロシア』pp28-30(世界の食文化19, 農山漁村文化協会, 2006年3月)
  30. ^ 沼野充義、沼野恭子『ロシア』p98(世界の食文化19, 農山漁村文化協会, 2006年3月)
  31. ^ 沼野充義、沼野恭子『ロシア』p116(世界の食文化19, 農山漁村文化協会, 2006年3月)
  32. ^ 『新編 食用作物』 星川清親 養賢堂 昭和60年5月10日訂正第5版 p288
  33. ^ 筒井静子・三木貴史・義平大樹, 「北海道産ライ麦を使用したパンの性状と嗜好性 : 第1報 ライ麦全粒粉の配合割合がライ麦パンの性状と嗜好性に及ぼす影響」『酪農学園大学紀要. 自然科学編』 酪農学園大学, 36巻 2号 p.241-249 2012年, NAID 1100089231532015年3月14日閲覧
  34. ^ 農林水産省 ライ麦の輸入量とその用途について教えてください。
  35. ^ 編:小川環樹西田太一郎赤塚忠 編「来」『角川新字源』(改訂版)角川書店、1994年11月10日(原著1968年1月5日)、61頁。ISBN 4-04-010804-3 
  36. ^ 辻本壽 「第9章 コムギ畑の随伴雑草ライムギの進化」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、pp.189-190 ISBN 978-4-8329-8190-4






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