ユルリ島 ユルリ島の馬

ユルリ島

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 14:51 UTC 版)

ユルリ島の馬

根室市昆布盛の近海では昆布漁が盛んであった。第二次世界大戦戦後、本土に昆布の干場を持たなかった漁師や、漁場から本土までの移動時間を節約しようとした漁師は、沖合にあるユルリ島を昆布の干場として利用した。1951年 - 1952年(昭和26 - 27年)頃、切りたった断崖の上に昆布を引き上げる労力として、島に牝馬が1頭運びこまれた。最も多い時期には、島には約6軒の番屋があった。しかし昭和40年代になると、エンジン付きの船が登場し、労力としての馬の役割は大きく変わった。やがてユルリ島から人が去りはじめ、1971年(昭和46年)最後の漁師が島を出た。

本土に馬を放牧する土地をもたなかった漁師は、馬のエサとなるミヤコザサなど豊富な天然の食草が生い茂る島に馬を残すことにした。島の中央部には高層湿原もあり、島にはいくつかの小川もあった。そのため馬の栄養状態は良好であった。

その後、残された馬は自然放牧状態のまま世代を重ね、人間からエサを与えられることもなく野生化していった。1979年(昭和54年)から1993年平成5年)にかけては、16頭から30頭前後の馬が生息していた。

2006年(平成18年)、島には18頭の馬が生息していたが、かつて島に住んでいた漁師の高齢化もあり、種馬を含む4頭の馬が間引きされた。島には14頭の牝馬だけが残り、ユルリ島の馬は消えゆく運命となる[6][7]

2011年(平成23年)、ユルリ島の馬の歴史を記録するため、写真家の岡田敦が島の撮影を開始する。岡田が「ユルリ島 ウェブサイト[8]」を開設し、ユルリ島の写真や映像作品などを発信しはじめる[9][10][11][12][13]。北海道で徐々にユルリ島への関心が高まってゆく[14]

2011年に12頭いたユルリ島の馬は、2013年には10頭、2014年には5頭となる。

2017年、ユルリ島の馬は残り3頭となる。

2023年、写真家の岡田敦が書籍『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』(インプレス)を上梓する。同書により、70年以上にわたり続いてきたユルリ島の馬の歴史や島の全容が明らかになる。『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』は、馬事文化の発展に顕著な功績のあった個人・団体を表彰する目的で創設されたJRA賞馬事文化賞を受賞する。


注釈

  1. ^ 根室層群は、その下部からイノセラムスアンモナイトの化石が発見されていることよりかつては根室層群全体が白亜系とされた[1]が、根室層群上部から新生代古第三紀暁新世ダニアン有孔虫化石が発見され[2][3]てから層序・年代の見直しが進み、君波(1978)はユルリ累層を根室層群上部の霧多布層に対比した。さらに、Okada et al. (1987)が霧多布層からダニアンのナンノ化石(: nannofossil)を報告していることから、ユルリ層もダニアンの地層(ダン階)とされている[4][5]
  2. ^ 本段落は、ユルリ層の層序・年代に関する注釈以外は原則、三谷ほか(1958)を参照している。

出典

  1. ^ a b 三谷ほか(1958)
  2. ^ 浅野(1962)
  3. ^ Yoshida (1967).
  4. ^ 君波(2010)
  5. ^ 産総研の20万分の1日本シームレス地質図(全国版)V2(地質図Navi)の当該地層の凡例
  6. ^ 「根室沖の無人島ユルリ島で野生馬の間引き」北海道新聞(2006年11月4日)
  7. ^ 「厳寒、雌馬生き抜く 根室・ユルリ島」北海道新聞(2013年2月14日)
  8. ^ ユルリ島 ウェブサイト
  9. ^ 「写真家・岡田敦さん 消えゆく野生馬の姿残したい」毎日新聞(2016年9月8日)
  10. ^ 「写真家岡田敦、消えゆく馬を写す 〜ユルリ島の野生馬〜」NHK(2013年4月5日)
  11. ^ 「ユルリ島の馬 撮り続ける 生活の証し後世に」北海道新聞(2013年04月01日)
  12. ^ 「写真家岡田敦、消えゆく馬 無人島で追う 残りは雌ばかり6頭」朝日新聞(2013年04月03日)
  13. ^ 「北の無人島 野生馬活写」東京新聞(2014年04月03日)
  14. ^ 「(各駅停話1023)JR花咲線(4)昆布盛 無人島、馬だけが残った」朝日新聞(2017年9月19日・朝刊)
  15. ^ a b c d e f 田中 (1973)
  16. ^ a b 橘ほか(1997)
  17. ^ 守田(2001)
  18. ^ ツルコケモモも参照
  19. ^ 環境省レッドリスト2017
  20. ^ 根室市教育委員会(2007)
  21. ^ 北海道自然環境局. 2001. 北海道レッドリスト植物編
  22. ^ a b 鈴木ほか(2016)
  23. ^ 【HTBセレクションズ】ユルリ島と、残された馬 - YouTube(北海道テレビ放送(2017年11月14日公開))
  24. ^ 芳賀 (1973)
  25. ^ 国指定鳥獣保護区一覧 < 環境省公式サイト
  26. ^ ユルリ・モユルリ島海鳥繁殖地 < 文化遺産オンライン
  27. ^ 自然環境保全地域等 | 環境生活部環境局自然環境課 < 北海道庁公式サイト
  28. ^ 生物多様性の観点から重要度の高い湿地 < 環境省公式サイト
  29. ^ 日本野鳥の会 : IBA(重要野鳥生息地)選定事業 < 日本野鳥の会公式サイト
  30. ^ 毎日新聞「ドブネズミ駆除作戦で海のカナリア増加」2017年3月21日
  31. ^ 毎日新聞「馬はなぜ死んだのか」2017年04月03日
  32. ^ 読売新聞「ドブネズミ根絶可能性 根室ユルリ、モユルリ島」2016年12月08日
  33. ^ 「写真家・岡田敦さん 写真の町東川賞」北海道新聞(2017年5月1日)
  34. ^ 「岡田敦さん 写真の町東川賞」毎日新聞(2017年5月6日)
  35. ^ 「岡田敦さんに特別作家賞」根室新聞(2017年5月10日)
  36. ^ 「写真家・岡田敦さん 東川賞受賞」北海道新聞(2017年5月11日)
  37. ^ 「稚内生まれ岡田さん 東川賞特別作家賞に」朝日新聞(2017年5月18日)
  38. ^ 「ほっかいどうアート紀行 消えゆく馬を捉える岡田敦」朝日新聞(2017年8月23日)
  39. ^ NHK金曜特集 「高倉 健・北帰行」 ―さらば道産馬― | 番組表検索結果詳細 | NHKクロニクルも参照。
  40. ^ 番組詳細 グリーンチャンネル ヒュ馬ンアワーセレクション (2011/12/08 13:00 ~ 2011/12/08 14:00)
  41. ^ 番組詳細 グリーンチャンネル ヒュ馬ンアワーセレクション #38「ユルリ島~野生馬との新たな出会い~」制作:1999年 (2016/09/30 09:30 ~ 2016/09/30 10:30)
  42. ^ さわやか自然百景 - NHK - ウェイバックマシン(2018年8月18日アーカイブ分)、さわやか自然百景 「北海道 ユルリ・モユルリ島」 | 番組表検索結果詳細 | NHKクロニクル
  43. ^ さわやか自然百景 2018/08/27(月)16:05 の放送内容 ページ1 | TVでた蔵






固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ユルリ島」の関連用語

ユルリ島のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ユルリ島のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのユルリ島 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS