スペインワイン スペインワインの概要

スペインワイン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/14 16:35 UTC 版)

スペイン(ワイン原産地)
原産地の創立 紀元前1100年頃-[1]
ワイン産業 1932年(ワイン法制定[2])-
スペイン
気候区分 地中海性気候大陸性気候西岸海洋性気候
ブドウ園面積 約117万ヘクタール(2009年)[3]
ブドウの品種 テンプラニーリョ
ガルナッチャ
アルバリーニョ
アイレン
マカベオ
パロミノ種など
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特徴

スペイン産ワインの輸出先(2004年)[4]
# 輸出額
(100万€)
割合
(%)
1. ドイツ 30,909 20.23
2. イギリス 27,980 18.32
3. アメリカ 14,539 9.52
4. フランス 12,719 8.33

南欧のイベリア半島にあるスペインはブドウ栽培に適した土壌に恵まれている[1]。地域によって気候は異なり、主に東部と南部が地中海性気候、中央部が大陸性気候、北西部と北部が西岸海洋性気候に属する。スペイン固有のブドウ品種は豊富であり、スペイン全土で400種以上のブドウ品種が栽培されているが、ワイン生産量の80%はわずか20種から生産される。この中には黒ブドウのテンプラニーリョ種やガルナッチャ種、白ブドウのアルバリーニョ種やアイレン種、スパークリングワインのカバの主原料であるマカベオ種、酒精強化ワインのシェリーの主原料であるパロミノ種などが含まれる。

現代までのスペインは赤ワインの国とされていた[5]。現在でもスペイン産ワインは赤ワインが中心であるが、比較的涼しい気候での白ワイン、カバなどのスパークリングワインシェリーなどの酒精強化ワインサングリアなどのフレーバードワインと、様々なタイプのワインが製造されている[1]。20世紀末時点の生産比率は、赤ワインが35%、白ワインが31%、ロゼワインが15%であり、残りは酒精強化ワインや工業用蒸留用ワインなどである[6]

フランコ体制による経済発展の遅れも影響し、スペインのワインは1970年代頃まであまり注目されてこなかったが、近年ではいくつもの産地が銘醸地として知られるようになった。スペインはヨーロッパの旧ワイン生産国の中で、現代における品質の向上がもっとも著しいとされる[5]。現代になって実験的かつ情熱的なワイン醸造を行っていることで、イタリアワインと比較されることがある[7]。主要な輸出先はドイツ、イギリス、フランス、アメリカ合衆国、オランダなどである[8]

著名なワイン生産地域としては、テンプラニーリョ種から生産する赤ワインが有名なリオハ (DOCa)リベラ・デル・ドゥエロ (DO)、安価で質の高いワインを生産するバルデペーニャス (DO)スペイン語版、シェリーの拠点であるヘレス、アルバリーニョ種による白ワインで知られるリアス・バイシャス (DO)、スパークリングワインのカバ、リオハとともにDOCaに認定されているプリオラート (DOQ)などがある[9]

国際ブドウ・ブドウ酒機構(OIV)が発表した2010年の統計によると、スペインのブドウ栽培面積は108.2万ヘクタールであり、フランスの81.8万ヘクタール、イタリアの79.5万ヘクタールを上回って世界第1位である[10]。2009年時点で生食用を含む全世界のブドウ栽培面積は774万ヘクタールであり、スペインのみで世界全体の約15%を占めているほか、スペインは欧州連合(EU)全体の約30%を占めている[3]。OIVによる2010年の統計によると、スペインのワイン生産量は35億3530万リットルであり、イタリアの48億5250万リットル、フランスの44億4700万リットルに次いで世界第3位である[10]。この3か国を合わせたワイン生産量は全世界のワイン生産量の49%を占めている[11]。降水量の乏しさゆえに長期にわたって灌漑が制限されていたこと、樹齢の高いブドウの樹が多いこと、他の作物と一緒に植えられる場合が多いことなどが、ブドウの栽培面積と比較してワインの生産量が少ない理由に挙げられる[3]

生食用を含む2008年のブドウ収穫量は、イタリア、中国、アメリカ合衆国に次いで世界第4位である[3]。OIVによる2010年の統計によると、スペインの1人あたり年間ワイン消費量は23.6リットルであり、世界第15位である[10]。スペインのワイン総生産額は約12億ユーロであり、ワインがスペインの農業総生産額に占める割合は2.8%である。5.6%のオリーブ・オイルを下回っているが、2.4%の小麦を上回っている[3]。スペインはEU全体のワイン総生産額の7.8%を占めているが、付加価値額の高いワインは少ない[3]

イベリア半島はコルクガシの樹皮を使用するコルクの主産地である。スペインは世界全体の約30%を生産しており、約50%を生産するポルトガルに次いで世界第2位を占めている。特にカタルーニャ州とアンダルシア州で生産量が多く、カタルーニャ州パラフルゲイにはコルク博物館が存在する。スペインで使用されるフレンチ・オーク樽の多くは国産であり、主にラ・リオハ州都ログローニョ周辺で製造されている[12]

国別ブドウ栽培面積[13][10]
# ブドウ栽培面積(1,000ha) 増減率
(%)
1988年 2004年 2010年
1. スペイン 1,180 1,200 1,082 -9.8
2. フランス 914 889 818 -7.9
3. イタリア 899 849 795 -6.3
国別ワイン生産量[13][10]
# ワイン生産量(1,000hl) 生産効率
(hl/ha)
1988年 2004年 2010年
1. イタリア 54,188 53,000 48,525 61
2. フランス 52,671 57,386 44,470 54
3. スペイン 30,320 42,988 35,353 32

テロワール

高原地帯のメセタと何本かの山脈に象徴されるスペインの地形

地勢

ワイン生産にはテロワール(地勢・気候・土壌などの土地固有の諸条件)が大きく影響する。スペインにおけるブドウ栽培の地理的影響のひとつに、スペイン中央部を覆っている、メセタと呼ばれる標高500-800m前後の広大な高原が挙げられる。メセタからは何本かの主要な河川が地中海大西洋に向かって流れており、それらの河川の流域はスペイン産ワイン生産地域の中心地となっている。東の地中海に向かって流れるエブロ川は、リオハ (DOCa)カタルーニャ州のいくつかの生産地域を流れている。メセタから西の大西洋に向かって流れるドゥエロ川リベラ・デル・ドゥエロ (DO)を通り、下流部のポルトガル領域はポート・ワインの主産地となっている。タホ川はメセタ南東部のラ・マンチャ (DO)を流れ、ポルトガルを通って大西洋に注ぐ。メセタ南部を流れるグアダルキビール川は、シェリーの主産地であるサンルーカル・デ・バラメダを流れ、イベリア半島南端から大西洋に流れ出る。

気候

高原地帯のメセタや大河川に加えて、何本かの山脈もスペイン産ワインの生産地域の気候に影響を与えている。ピレネー山脈西端から西に向かってカンタブリア山脈が伸びており、北側のエスパーニャ・ベルデ(緑のスペイン)と南側のメセタを隔てている。エスパーニャ・ベルデはスペインでもっとも年降水量の多い地域であり、基本的にブドウの栽培に適さない。山脈の南側には銘醸地として知られるリオハがあり、カンタブリア山脈は多量の降水やビスケー湾から吹く冷たい偏西風などからリオハを保護している。エスパーニャ・ベルデの範囲にあるバスク州沿岸部では年降水量が1,500mmに達するが、カンタブリア山脈以南にあるラ・リオハ州アロビスケー湾から約100kmしか離れていないにもかかわらず、年降水量が460mmに抑えられている。スペイン南部と中央部は乾燥しており、多くの場所が年降水量500mm以下だが、スペイン北西部は湿潤であり、年降水量1,000mm以上の場所も含まれる[12]。スペイン北西岸のガリシア州では、大西洋沿岸部の年降水量は990mmだが、カスティーリャ・イ・レオン州との州境に近い山間部の年降水量は2,000mmに達する[14]

スペインの気候はメセタの内陸部に向かうにつれて極端になり、摂氏40度に達することもある乾燥して暑い夏季を特徴としている。多くの地域では年降水量が300mm以下であり、鉄砲水の危険を伴う春季と秋季の突発的な豪雨によって、年降水量の大部分が占められる。これらの地域の冬季は寒冷であり、摂氏マイナス22度以下に達することもある。南東部のバレンシアは、より穏やかで地中海の影響を強く受けた気候である。スペイン南部のアンダルシア州にあるシェリー生産地域やマラガは、スペインでもっとも暑い地域のひとつである。シエラ・ネバダ山脈の北側にあるグアダルキビール川の谷では、夏季の気温はしばしば摂氏45度に達する[14]。この高温に適応するために、スペインではより高い場所にブドウが植えられることが多く、多くのブドウ畑が標高610m(2,000ft)以上に存在する。スペインのブドウ畑の90%は、フランスの大半のブドウ畑よりも標高が高い場所にある[12]。このような高地では昼夜の気温差が激しく、ブドウに強い酸味と濃い色合いが生まれる。スペイン南部の地中海岸などの低標高地域にあるブドウ畑では、アルコール度数が高く酸味の弱いブドウを生産するのに適している[15]


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  4. ^ D.G.A/ICEX.
  5. ^ a b c 山本博 2010, pp. 302–304.
  6. ^ 辻勲 1999, pp. 178–181.
  7. ^ a b c パーカー 2006, pp. 557–558.
  8. ^ a b ドヴァス 2000, pp. 74–77.
  9. ^ a b MacNeil 2001, pp. 410–422.
  10. ^ a b c d e ジョンソン & ロビンソン 2014, pp. 42–43.
  11. ^ 竹中克行 & 斎藤由香 2010, pp. 7–8.
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  22. ^ ピット 2012, p.177の図より。文章では記載されていない。
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  74. ^ Canary Islands Turismo de Canarias
  75. ^ Hughes, Natasha, Decanter.com. “Julian Chivite bodega gets top classification”. 2015年4月26日閲覧。


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