カルダン駆動方式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/25 10:00 UTC 版)
概要
カルダン駆動方式を採用した電車では、主電動機の重量が全て台車の軸ばねを介して輪軸に掛かっているため、主電動機の重量の大半が輪軸に直接に掛かる吊り掛け駆動方式と比べて、軸ばね下の重量であるばね下重量が小さい。これにより、線路のうねり(ピッチング)やねじれ(ローリング)といった変化に対する車輪の追従性が高く、より安定した走行性能が得られる。レールの継ぎ目を通過する際などに発生する衝撃に対しても、衝撃を直接受ける重量が小さいことから騒音や乗り心地も改善される。主電動機が衝撃や振動を直接受けないことから、これらに対する主電動機の耐性を低く設計して小型化したり、同等の大きさでより動力性能の高い主電動機を利用できる。また、吊り掛け駆動方式のように輪軸からの衝撃・動揺が直接減速歯車に伝わって歯車の割れ・欠けが生じることもなく、損耗部分が少ない。減速歯車も小さいため、軽量化でき、給脂量も少なく済む。
主電動機を軸ばね上の構造に固定するためには、位置が変わらない主電動機軸と、絶えず揺動して位置が変わる輪軸との相対位置を吸収する仕組みが必要があり、このための機構が各種の自在継ぎ手であり、カルダンジョイントもその1つである。単に動力伝達軸の角度が変化するだけでは不十分で、スプラインなどを用い、軸方向の長さも変化可能な軸構造を必要とする場合もある。吊り掛け駆動方式に比較すると、これらの機構を追加することになるため部品コストや動力伝達軸の強度や振動特性(共振)などの設計検討を行う必要性は増えることとなる。
この方式で利用される自在継手である「カルダンジョイント」の名称は、その原型を考案したイタリアの数学者、ジェロラモ・カルダーノ(Gerolamo Cardano、1501-1576)に由来する。カルダンジョイントは入出力軸の間に角度差があると、角速度が一定にならない「非等速」あるいは「不等速」ジョイント(等速ジョイントを参照)であるが、2つのジョイントを90度位相をずらして使用し、中間の軸には角度があっても、入出力軸(の延長線)が並行であればかなり緩和される。さらに鉄道車両の駆動システムは、例えば、上下動に加えて操舵やキャンバー角変化への対応が必要な自動車の前輪駆動機構などと異なり、大きな角度にはならず、そのような状態での常用もしないため、重大な問題にはならない。
注釈
- ^ それでさえ仕上げとなる焼き入れ処理後の表面研磨は、航空機用部品の研磨技術を保有する川崎航空機に委託されていた。
- ^ WN継手とギアユニットとで合わせて車軸方向に40cm程度の長さを要するため、単純に設計すると車輪間のバックゲージが990mm程度の1,067mm軌間用では、主電動機の軸方向の長さは600mm程度しか確保できない。中空軸平行カルダン用電動機ではこの部分で700mm程度の長さを確保できるため、同一径・同一回転数で電動機を設計する場合、WN駆動用では必然的に出力が中空軸平行カルダン用より15パーセント程度低下する。この対策としてはWN継手そのものの小型化が追求されたが、様々な事情からそれにも限界があるため、電動機形状の工夫で補われてきた。
- ^ 電車の場合は主電動機の端子極性を逆転させれば容易に回転方向を逆転できるため、1方向向きに歯車の位置を固定した状態で使用された。
出典
- ^ M記者 「お手並み拝見 意表を突いた超軽量車 東急5000形シリーズ」『鉄道ピクトリアル アーカイブスセレクション15 東京急行電鉄 1950~60』、電気車研究会、2008年6月、pp.110 - 113
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