ウミニナ ウミニナの概要

ウミニナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/15 14:44 UTC 版)

ウミニナ
ウミニナ
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 吸腔目 Sorbeoconcha
上科 : カニモリガイ上科 Cerithioidea
: ウミニナ科 Batillariidae
Thiele,1929
: ウミニナ属 Batillaria
Benson, 1842
: ウミニナ B. multiformis
学名
Batillaria multiformis
(Lischke, 1869)
英名
Many-formed cerith[1]

また同様の環境にはウミニナによく似た外見や生態を示す巻貝も多く、大規模な産地ではこれらの複数種が共存することも少なくない。日本ではそれらを総称して「ウミニナ」「ウミニナ類」などと呼ぶことがあるため、これらについても「日本産”ウミニナ類”」の節で述べる。

形態

成貝の貝殻は殻高35mm、殻径13mmほど、塔形で堅い。螺層(巻き)は8階ほどになる。巻きの中ほどが膨らみ、円錐形というより水滴形を長くした形に近い。貝殻の色は灰色や灰褐色が多いが、縫合(巻きの繋ぎ目)の下側に白い帯模様が入るものも多い。

螺肋(巻きに沿った線)は5本で、それが不規則に区切られた煉瓦積みのような細かい彫刻のように貝殻表面を覆っている。縫合のやや下には低いイボ状突起が並んで肩を形成することがあるが、この突起列は個体個体群によって強弱の変化が激しく、全く見られない場合も多い。殻口は比較的大きな半円形で、外側は黒地に白い縞模様がある。内側は白い滑層(陶器のような質感の層)が発達し、特に殻口内唇の上部には三角形に張り出した滑層瘤(かっそうりゅう)ができる。蓋は角質円形の多旋型で濃褐色をしており、周縁には半透明褐色の薄い膜状部がある[3][4][5][6]

ただし本種は貝殻の個体変異が多く、黒っぽい、白っぽい、殻の膨らみが弱い、イボ状突起が発達する、滑層瘤がない、殻口が小さいなど、先述の特徴に当てはまらない個体も見かけられる。学名の種小名"multiformis"も「多形」を意味する[4][5]。類似種を含めた所謂ウミニナ類の中では、殻の中ほどが膨らむこと、体全体に比べて体層(殻の最下層)と殻口が比較的大きいことなどで他種と区別できるが、個体変異により同定が難しい場合があり、特に殻口が完成していない幼貝ではホソウミニナとの識別が困難である。

生態

日本では陸奥湾青森県)にいる孤立した個体群が北限で、その南の生息水域は、太平洋側では長面浦(宮城県石巻市)、日本海側では能登半島石川県)である[2]。日本以外では朝鮮半島と中国沿岸に分布する。南西諸島に分布するのは同属のリュウキュウウミニナ B. flectosiphonata である[6][7]

河口や内湾などの汽水域に生息し、干潟の砂泥上に群れをなす。多産地では潮間帯上部の一定区域がウミニナで埋め尽くされる。砂泥上に多いが、付近の転石帯や岩の上などにも見られる。和名に「海」とあるが、ある程度は淡水の影響がある所でないと見られない。ホソウミニナと同所的に生息する場所では、ウミニナの方が高潮位に生息することが報告されている[8]

干潮時に地上を這い、主にデトリタスを摂餌する。ただし這う時間は20-30分ほどで、じっとしている時間の方が長い。砂泥に半ば埋まったものもよく見られる。たまに殻上に背の高い小さなカサガイが付着したものがある。これはユキノカサガイ科のツボミガイ[9]で、他にも少数ながらフジツボカキが付着したものもいる。


  1. ^ R.Tucker Abbott & S. Peter Dance著/波部忠重奥谷喬司訳『世界海産貝類大図鑑』平凡社 1985年 ISBN 458251815X
  2. ^ a b 北限の生息地陸奥湾に暮らす希少な巻貝ウミニナの生態を解明~青森県むつ市立川内小学校との研究が国際誌に掲載~国立環境研究所(2022年8月2日)2022年10月23日閲覧
  3. ^ 内田亨監修『学生版 日本動物図鑑』1948年初版・2000年重版 北隆館」 ISBN 4832600427
  4. ^ a b c d e f g h i j k 波部忠重監修『学研中高生図鑑 貝I』1975年
  5. ^ a b 波部忠重・小菅貞男『エコロン自然シリーズ 貝』1978年刊・1996年改訂版 ISBN 9784586321063
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 奥谷喬司編著『日本近海産貝類図鑑』(解説 : 長谷川和範)2000年 東海大学出版会 ISBN 9784486014065
  7. ^ a b c d e 三浦知之『干潟の生きもの図鑑』2007年 南方新社 ISBN 9784861241390 / 図鑑修正版
  8. ^ 足立 尚子・和田 恵次(1998)「ウミニナとホソウミニナの混生域における分布」『貝類学雑誌 Venus 』Vol.57, No.2 pp.115-120 CiNii
  9. ^ ツボミガイは永らく同属のシボリガイ P. pygmaea がウミニナに着生することで殻形が変化した生態型と考えられてきたが、ミトコンドリアDNAによる系統解析の結果を主な理由に、独立種であるとの見解が出されている(Nakano, Tomoyuki and Ozawa, Tomowo, 2005. "Systematic revision of Patelloida pygmaea (Dunker, 1860) (Gastropoda: Lottidae), with a description of a new species" Journal of Molluscan Studies 71(4): 357-370. [2005年11月](doi:10.1093/mollus/eyi039)[1] )。
  10. ^ a b c 風呂田利夫・須之部友基・有田茂生(2002)「東京湾谷津干潟におけるウミニナとホソウミニナの対照的個体群状況」『貝類学雑誌 Venus』Vol.61, No.1-2, pp.15-23.CiNii(英語+日本語要約)
  11. ^ 足立 尚子・和田 恵次(1997)「ホソウミニナの卵と発生様式」『ちりぼたん』Vol.28, No.2(19971231) pp.33-34(日本語)
  12. ^ 小菅貞男『ポケット図鑑 日本の貝』1994年 成美堂出版 ISBN 4415080480
  13. ^ a b c 佐藤正典編『有明海の生きものたち 干潟・河口域の生物多様性』(解説 : 福田宏)2000年 海游舎 ISBN 4905930057
  14. ^ 風呂田利夫(2000)「内湾の貝類,絶滅と保全--東京湾のウミニナ類衰退からの考察」(総特集 軟体動物学--動向と将来)『号外海洋』(通号20)pp.74-82
  15. ^ a b 愛媛県貴重野生動植物検討委員会(編)(2003)『愛媛県レッドデータブック 愛媛県の絶滅のおそれのある野生生物』(愛媛県県民環境部環境局自然保護課)p.234[リンク切れ][2]
  16. ^ a b c 環境省報道発表資料『哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて』2007年8月3日
  17. ^ 日本水産資源保護協会 (1995) 『日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(II) 分冊I』(日本水産資源保護協会)p.73
  18. ^ 千葉県環境部自然保護課編(2000)『千葉県の保護上重要な野生生物 - 千葉県レッドデータブック - 動物編』[3][リンク切れ]
  19. ^ 千葉県環境財団(編)(2006)『千葉県レッドリスト動物編2006年改訂版』 千葉県環境生活部自然保護課[4]
  20. ^ 愛知県(2002)『レッドデータブックあいち : 愛知県の絶滅のおそれのある野生生物. 動物編』 愛知県環境部自然環境課[5]
  21. ^ 名古屋市動植物実態調査検討会(監修) 『レッドデータブックなごや:名古屋市の絶滅のおそれのある野生生物. 2004 動物編』 名古屋市環境局環境都市推進部環境影響評価室(p.274)
  22. ^ 兵庫県県民生活部環境局自然環境保全課(編)(2003)『改訂・兵庫の貴重な自然:兵庫県版レッドデータブック2003』 同課[6]
  23. ^ 徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会(2001)『徳島県の絶滅のおそれのある野生生物 : 徳島県版レッドデータブック. 2001』 徳島県環境生活部環境政策課(p.208)[7]
  24. ^ 佐賀県環境生活局(2003)『佐賀県レッドリスト』(p.432:右pdfファイルではp.55に簡単な記載あり) pdf (3.66MB)
  25. ^ 熊本県希少野生動植物検討委員会(編著)(1998)『熊本県における保護上重要な野生動植物-レッドデータブックくまもと-』 熊本県環境生活部環境保全課(p.27)
  26. ^ 熊本県希少野生動植物検討委員会(編著)『熊本県の保護上重要な野生生物リスト : レッドリストくまもと2004』 熊本県環境生活部自然保護課[8]
  27. ^ 鹿児島県環境生活部環境保護課(企画・編集)(2003)『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物:鹿児島県レッドデータブック 動物編』 鹿児島県環境技術協会(p.429, p.605) [9](ただしweb版では準絶滅危惧以下の種は不掲載)
  28. ^ 和田恵次ほか(1996)『WWFJapan サイエンス レポート 第3巻 日本における干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状』 WWFJapan(p.21)
  29. ^ a b 肥後俊一『日本列島周辺海産貝類総目録』長崎県生物学会 1973年


「ウミニナ」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ウミニナ」の関連用語

1
100% |||||

2
100% |||||

3
100% |||||

4
100% |||||

5
100% |||||

6
100% |||||

7
100% |||||

8
100% |||||

9
100% |||||

10
100% |||||

ウミニナのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ウミニナのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのウミニナ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS