アメリカ合衆国のファーストレディ 代理

アメリカ合衆国のファーストレディ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/16 20:59 UTC 版)

代理

過去には大統領に妻がいない場合、または大統領夫人がその職務を果たすことが不可能であった場合に代理の女性がファーストレディを務めている。第3代大統領トマス・ジェファーソンの任期中に務めたマーサ・ジェファーソン・ランドルフ[14]、第7代大統領アンドリュー・ジャクソンの任期中に務めたエミリー・ドネルソンサラ・ジャクソン[15]、第8代大統領マーティン・ヴァン・ビューレンの任期中に務めたアンジェリカ・ヴァン・ビューレン[16]、第10代大統領ジョン・タイラーの任期中に務めたプリシラ・タイラー英語版[17]、第15代大統領ジェームズ・ブキャナンの任期中に務めたハリエット・レーン[18]、第21代大統領チェスター・A・アーサーの任期中に務めたメアリー・アーサー・マッケルロイ英語版[19]、第22代大統領グロバー・クリーブランドの任期中に務めたローズ・クリーブランド英語版[20]、第23代ベンジャミン・ハリソンの任期中に務めたメアリー・ハリソン・マッキー[21]、第28代大統領ウッドロウ・ウィルソンの任期中に務めたマーガレット・ウッドロウ・ウィルソン[22]である。

役割

左半身が麻痺したウッドロウ・ウィルソン大統領のために文書を手で押さえるイーディス夫人(1920年6月)

ファーストレディは選挙で選ばれるものではなく公務員でもないため、給与を全く受け取っていない。それにも関わらず、ファーストレディは合衆国政府の中で非常に注目度の高い地位となっている[23]。ファーストレディの影響力は225年の歴史を経て次第に強くなっていった。何よりもまず、ホワイトハウスホステスである[23]。彼女は大統領に同伴して、または大統領の代理として公式行事に参加する。

初代大統領夫人マーサ・ワシントンと第二代大統領夫人アビゲイル・アダムズの両者はアメリカ独立戦争で名声を獲得し、イギリスの宮廷貴婦人であるかのごとく扱われ、それぞれ「レディ・ワシントン」「レディ・アダムズ」と呼ばれていた[23]

第4代大統領夫人ドリー・マディソンはそのエレガントなファッションと豪華なパーティーを催すことで新聞報道が過熱し、米英戦争では歴史的書物や宝物を守るためにその生命を危険に晒すことで以前にも増して人気が高まることになった[11]。髪にの布をターバンのように巻く「ドリー・マディソン・ターバン」はしばらくの間、国内のみならず、ヨーロッパの貴婦人までもが真似たほどである[24]。1930年代に第32代大統領夫人エレノア・ルーズベルトが登場するまで、ドリー・マディソンはその後のファーストレディ達の模範的な存在となった[23]。そして、一部の例外を除いて目立つことは少なく、国民の関心を引くことも少なかった。大統領の伝記を書く人も夫人に関しては1ページ未満しか触れないことが多かった。この状況を大きく変えたのが急速なマスメディアの発展や婦人の権利の向上である。近年では大統領について語る上で欠かせない重要な存在になっている[25]

第28代大統領夫人イーディス・ウィルソン英語版は夫のウッドロウ・ウィルソン大統領が1919年9月に脳卒中を発症して執務が事実上不可能になってからは彼女が多くの日常的業務と行政権の細部を代行した[26]。夫の寝室から一切の人々を排除し、彼女自身が大統領と外界を繋ぐ唯一の仲介者となった[27]

エレノア・ルーズベルト(1943年9月21日)。歴代最高の評価が与えられているファーストレディである

第32代大統領夫人エレノア・ルーズベルトは夫のフランクリン・ルーズベルト大統領が下半身がほとんど麻痺していたために国内外を自由に動き回ることが出来なかったので、この役割を受け入れた。彼女は週刊新聞にコラムを執筆し、自分のラジオ番組まで持った[23]。夫の政策や任命に助言を与えただけでなく、夫のニューディール政策の一部を担当し、自分自身の政治的な考えを育て、夫もそれを評価していた[28]。夫の死後は公職である国際連合のアメリカ代表団メンバー(1945年-1953年)や女性の地位に関する大統領委員会英語版議長(1961年-1962年)を務め上げた[29]。他に公職を就いたファーストレディ経験者では、第42代大統領夫人ヒラリー・クリントンが合衆国上院議員2001年-2009年)と国務長官(2009年-2013年)を務めている[30]

第35代大統領夫人ジャクリーン・ケネディより後のファーストレディは専用のオフィス英語版を持ち、専属スタッフを雇い、それぞれ自分が関心を持つ社会貢献活動を推進していくのが通例となっていった。第36代大統領夫人レディ・バード・ジョンソンは環境保全と環境美化を推進する先駆者となり、第37代大統領夫人パット・ニクソンはボランティア活動を奨励して広く海外を旅行し、第38代大統領夫人ベティ・フォードは女性の権利向上のための率直な発言で知られ、第39代大統領夫人ロザリン・カーターは慢性の精神障害者を支援するために合衆国議会で証言を行い、第40代大統領夫人ナンシー・レーガンは「ただノーと言おう」という麻薬撲滅運動の広告キャンペーンを展開し、第41代大統領夫人バーバラ・ブッシュは多くの社会問題の根本的な原因になっていると確信してリテラシー向上を促進し、第42代大統領夫人ヒラリー・クリントンは公的医療皆保険制度を導入するためにアメリカの医療制度を改革しようとした[23]。第43代大統領夫人ローラ・ブッシュは女性の権利向上のための団体を支援し、未成年者のリテラシー向上のための試みを奨励した[23]。第44代大統領夫人ミシェル・オバマは軍関係者の家族を支援し、未成年者の肥満対策にも取り組んでいる[31]

関連施設

国定史跡

ファーストレディ国定史跡正面玄関

ファーストレディ国定史跡英語版オハイオ州カントンに位置するアメリカ合衆国国家歴史登録財である[32]。史跡は第25代大統領夫人アイダ・マッキンリー英語版の旧家と教育研究センターの2棟の建物から構成されており、センターの2階にはマーサ・ワシントンからミシェル・オバマまで歴代のファーストレディに関連する図書やその他の資料に焦点を当て、それのみを収集した国立ファーストレディ図書館が設置されている[33]

入場料はアイダ・マッキンリーの旧家のガイド付きツアーと教育研究センター内の展示物の観覧も込みで、大人が7ドル・高齢者が6ドル・18歳未満の子供が5ドルの設定となっている。6人以上の団体で来訪する場合は事前の予約が必要である[34]

スミソニアン博物館のコレクション

メアリー・リンカーンが自身の判断で購入した食器、リンカーン・チャイナ
ジャクリーン・ケネディ(1962年5月22日)。抜群のファッションセンスの持ち主であり、当時の世界中の女性達のファッションに大きな影響を与えた

「ファーストレディコレクション」はスミソニアン博物館における最も人気のある観光スポットの一つとなっており、歴代のファーストレディのガウンのコレクションを鑑賞し、それらを身に着けていた女性の貢献について学ぶために訪れる観光客に好評を博している[35]1912年に、当時のワシントンD.C.の社交界をリードしていた貴婦人キャシー・メイソン・マイヤーズ・ジュリアン・ジェームズが「ホワイトハウスの女性の衣装」を展示するアイディアを思い付いたのが設立される契機となった[36]ホワイトハウス・チャイナ英語版のような個人的な所有物などを含め[37]、合わせて1,000点以上ものファーストレディのユニークなコレクションが展示されている[38]


  1. ^ Hillary Rodham Clinton” (英語). The White House. 2014年2月27日閲覧。
  2. ^ First Lady Biography: Hillary Clinton” (英語). National First Ladies' Library. 2014年2月27日閲覧。
  3. ^ Laura Welch Bush” (英語). The White House. 2014年2月27日閲覧。
  4. ^ First Lady Biography: Laura Bush” (英語). National First Ladies' Library. 2014年2月27日閲覧。
  5. ^ First Lady Michelle Obama” (英語). The White House. 2014年2月27日閲覧。
  6. ^ First Lady Biography: Michelle Obama” (英語). National First Ladies' Library. 2014年2月27日閲覧。
  7. ^ Who Is Melania Trump?”. New York, N.Y.: The New Yorker. 2016年5月9日閲覧。
  8. ^ Martha Washington” (英語). Miller Center. 2014年5月23日閲覧。
  9. ^ First Lady Biography: Abigail Adams” (英語). National First Ladies' Library. 2014年5月23日閲覧。
  10. ^ Dolley Madison Commemorative Silver Dollar Unveiling First Lady Hillary Rodham Clinton The White House - East Room January 11, 1999” (英語). The White House. 2014年5月20日閲覧。
  11. ^ a b First Lady Biography: Dolley Madison” (英語). National First Ladies' Library. 2014年5月23日閲覧。
  12. ^ The White House” (英語). Mr. Lincoln's White House. 2014年5月23日閲覧。
  13. ^ First Lady Biography: Lucy Hayes” (英語). National First Ladies' Library. 2014年5月22日閲覧。
  14. ^ Martha Wayles Skelton Jefferson” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  15. ^ Rachel Donelson Jackson” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  16. ^ Hannah Hoes Van Buren” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  17. ^ First Lady Biography: Letitia Tyler” (英語). National First Ladies' Library. 2014年5月23日閲覧。
  18. ^ Harriet Lane” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  19. ^ Ellen Lewis Herndon Arthur” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  20. ^ Frances Folsom Cleveland” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  21. ^ Caroline Lavinia Scott Harrison” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。
  22. ^ Ellen Axson Wilson” (英語). The White House. 2014年5月23日閲覧。[出典無効]
  23. ^ a b c d e f g The Role of the First Lady” (英語). IIP Digital. 2014年5月23日閲覧。
  24. ^ ポール・F・ボラー・ジュニア(著)、吉野寿子(訳). アメリカ大統領の妻たち. メタモル出版. p. 51. ISBN 4895952584 
  25. ^ ポール・F・ボラー・ジュニア(著)、吉野寿子(訳). アメリカ大統領の妻たち. p. 3-4 
  26. ^ Edith Bolling Galt Wilson” (英語). The White House. 2014年5月24日閲覧。
  27. ^ 宇佐美滋. ファーストレディ物語. 文藝春秋. p. 203-204. ISBN 4167325020 
  28. ^ ポール・F・ボラー・ジュニア(著)、吉野寿子(訳). アメリカ大統領の妻たち. p. 6 
  29. ^ First Lady Biography: Eleanor Roosevelt” (英語). National First Ladies' Library. 2014年5月23日閲覧。
  30. ^ First Lady Biography: Hillary Clinton” (英語). National First Ladies' Library. 2014年5月23日閲覧。
  31. ^ First Lady Michelle Obama” (英語). The White House. 2014年5月24日閲覧。
  32. ^ Directions” (英語). U.S. National Park Service. 2014年5月29日閲覧。
  33. ^ More Than a Library” (英語). U.S. National Park Service. 2014年5月29日閲覧。
  34. ^ Fees & Reservations” (英語). U.S. National Park Service. 2014年5月29日閲覧。
  35. ^ The First Ladies at the Smithsonian The First Ladies: Introduction” (英語). National Museum of American History, Smithsonian Institution. 2014年5月23日閲覧。
  36. ^ The First Ladies at the Smithsonian A New Exhibition (page 1 of 2)” (英語). National Museum of American History, Smithsonian Institution. 2014年5月23日閲覧。
  37. ^ The First Ladies at the Smithsonian White House Entertaining” (英語). National Museum of American History, Smithsonian Institution. 2014年5月23日閲覧。
  38. ^ The First Ladies at the Smithsonian The First Ladies Collection” (英語). National Museum of American History, Smithsonian Institution. 2014年5月23日閲覧。
  39. ^ The First Ladies Study” (英語). Siena College. 2014年5月23日閲覧。
  40. ^ Ranking America’s First Ladies Siena/C-SPAN 2014” (PDF) (英語). Siena College. pp. 2. 2014年5月23日閲覧。
  41. ^ Ranking America’s First Ladies Siena/C-SPAN 2014” (PDF) (英語). Siena College. pp. 3. 2014年5月23日閲覧。





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