第二層
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/24 18:46 UTC 版)
中央棟北壁の寄贈者の碑文に拠れば、フレスコ画第一層に上書きされた第二層は1259年に遡る。製作した集団は未詳だが、カロヤンの要請で建てられた中央棟の上下階を装飾したのと同じ集団だったようである。 ボヤナ教会が世界的な知名度を持っているのは、何にもましてこの第二層が中世ブルガリア文化のひとつの到達点を鮮やかに示していることに負っている。ここに描かれた240人を超える登場人物たちは、めいめい異なった個性を示し、心理的な内面や生命力を窺わせるものとなっている。フレスコ画は、787年にニカイアで開催された第七全地公会で確立されたイコンを描く際の規律に従って描かれている。 最古の区画である東翼にあるフレスコ画には、丸天井に描かれた「全能者ハリストス」(Christ Pantocrator)などが含まれている。その下の巻き胴には多くの天使たちが描かれ、隅折上げ(pendentives)には4人の福音書記者、すなわちマルコ、マタイ、ルカ、使徒ヨハネが描かれている。また、アーチの表面は4種のハリストス像で飾られている。 続いて主要な祝日やハリストス受難の場面が描かれており、1階の諸聖人の全身像の中には、10人の戦う聖人(warrior saints)が描かれている。また、聖餐台の丸屋根には大天使たちに囲まれた聖処女(The Virgin Enthroned)が、そしてその下には、4人の教父(聖大ワシリイ、神学者グリゴリイ、金口イオアン、総主教ゲルマヌス)がそれぞれ描かれている。聖餐台脇のフレスコ画には、首輔祭のラウレンティウス、エウプリウス、ステペンと、教会の守護聖人である聖ニコラオスが描かれている。ニコラオスは最も有名な聖人の一人で、水夫、商人、銀行家などの守護聖人である。 聖ニコラオスの生涯は、中央棟の拝廊の18場面に描かれている。これを手がけた描き手は、それらの情景の中に同時代の諸要素を取り込み、表情をはじめ、非常に写実的に描かれている。拝廊入り口上部の半円壁画には、聖母と幼子、聖アンナ、聖ヨアキム、祝福するハリストスが描かれている。壁の下段には、聖カタリナ、聖マルティナ、聖テオドルス、聖パコミウスが描かれている。 南のアルコソリウムには律法学者と論争するイイスス(イエス)が、北のものには聖母の奉献がそれぞれ描かれている。拝廊には、2人の非常に崇敬されていたブルガリアの聖人、リラの聖ヨハネと聖パラスケヴァも描かれており、ことに前者はこの聖人を描いた現存最古の絵画である。また、そこには修道士たちの中から現れる隠者、シリアのエフレムも描かれている。 また、寄進者であるカロヤン夫妻、ブルガリア皇帝コンスタンティン1世夫妻の生き生きとした肖像画は、卓抜な技術と感性で描かれたもので、ブルガリア史上の人物画としては最古の部類に属する。 今日、「ボヤナの巨匠」(Boyana Master)という名は、タルノヴォ画派のアトリエで技芸を修め、教会を飾り立てた未知の集団を指す名称として用いられる。彼らが手がけたフレスコ画は、欠点のない技術、心理的深層、複雑性、写実主義といった点で、真に傑作と呼ぶにふさわしいものと評価されている。ボヤナ教会は、13世紀以降のタルノヴォ画派の作品としては、全体が残っている唯一にして最高の記念碑といえるのである。 専門の第一人者たちに拠れば、ボヤナ教会のフレスコ画は、その後の中世ブルガリア絵画、ひいてはヨーロッパ絵画の発展において重要な役割を演じたのである。
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