消防査察、9つの指摘
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 22:45 UTC 版)
「千日デパート火災」の記事における「消防査察、9つの指摘」の解説
プレイタウンは、消防法令が定める特定防火対象物であり、定期的に個別の消防検査を受ける。南消防署が実施した検査では、1970年(昭和45年)12月から1971年(昭和46年)12月までの1年間に合計4回の立ち入り検査(防火査察)を受けていた。そのうちの1971年12月8日の検査では南消防署から以下の9項目の改善指示を勧告された。。 救助袋の破損している個所を早急に補修するか、新品に交換して使用可能な状態にすること。 B階段出入口前のカーテンを取り除いて非常口であることを明確にしておくこと。 屋内避難階段には、非常電源を付置した通路誘導灯を設置すること。 非常警報設備に非常電源を付置するとともに自動式サイレンおよび放送設備を併置すること。 各防火戸にはドアチェックを取り付けること。 ホール出入口南側の避難用通路の雑品は、避難の支障になるため除去すること。 舞台、休憩室、更衣室での喫煙管理を徹底すること。 店内の装飾用品は防炎処理を施したものを使用すること。 修業点検を確実に励行し、火災予防に万全を期すこと。 また立入検査翌日に発効した指示書に「特記事項」として以下のことが記されていた。指示書の宛名は日本ドリーム観光社長の松尾國三になっていた。 貴 チャイナサロン「プレイタウン」での避難施設は常に有効を期し、管理を強化して災害発生時に人的被害の絶無を期して下さい。 — 大阪市消防局・南消防署、大阪市消防局 千日デパート火災概況 1972-05-21 再三にわたる改善指導を無視し続ける日本ドリーム観光社長とプレイタウン防火管理者に対して、消防当局が業を煮やしている様子がうかがえる文言である。しかも「1ないし5」の改善項目は、本件火災で人的被害拡大を招いた要因と大きな関連があり、プレイタウンの防火管理上の問題点を見事に指摘していた。 プレイタウンは1971年12月8日の検査後、同月20日に再検査を受けたが、前回の検査で指摘された事項のうち「1ないし4」の4項目が未だ改善されずに放置状態であると指摘された。特に「救助袋」に関しては以前の検査でも破損について指摘されていて、1970年12月と1971年6月に「救助袋の早急な補修」を指示されていた。また1971年7月には「救助袋の取替えをおこなう間の使用禁止、その旨を張り紙して実行」を指示され、それからわずか5か月後の当検査でも何ら改善されていなかった。支配人は南消防署の検査に2回立ち会っており、立ち会わなかった検査については、立ち会った社員から報告を受けていた。そして消防署からの指摘事項を上司である千土地観光・代表取締役業務部長に指示書を見せて報告したが、右代表取締役は万が一にも救助袋を使う状況にはなるまいとの安易な考えと、費用の嵩むことは後回しにしたいとの思いから、業者に見積もりをさせることすら指示せず、曖昧な態度に終始した。その後、支配人は上司に改善を進言することはなかった。救助袋の破損個所を補修をした場合に掛かる費用は1万5,000円程度で、新品に取り換えた場合は20万円程度である。千土地観光では、5万円を超える支出は親会社である日本ドリーム観光の承認を必要としていたことからしても、補修程度であれば独自の予算を使って容易に処理できた。新品に交換するにしても、親会社の規模(資本金76億円)や消防当局からの再三にわたる改善指導があることを報告して説得したならば、日本ドリーム観光としても適切に対応したであろうと推認された。 「救助袋の破損」とは、ネズミによって齧られたと推定される「大きな穴」が救助袋の入り口上部付近に開いており、1970年12月の検査のとき、すでに指摘されていたものである。本件火災後に警察などが現場検証を行った際に救助袋を調べたところ、件の穴は1971年12月の消防査察の時よりも大きくなっていて、小さなものも含めて穴の数が増えていた。脱出者が救助袋を使用したことによって「穴」が裂けたり、布が破れたりしたと考えられるが、それらのうちで「最も大きな穴(45ないし55センチメートル径で4つの裂け目)」を目の当たりにした脱出者たちの不安感と恐怖感は相当なものがあっただろうと考えられた。さらには救助袋の出口(地上部先端)に地上誘導用のおもり(砂袋)が括り付けられていなかった不備もあり、安全に地上へ脱出できる避難器具とは到底言えない状態だった。本件の救助袋使用において、入り口を引き起こして袋を開かなかったことで多くの墜落者が発生したが、仮に袋の入り口を開こうとした場合、窓枠の室内側に填められていた「金網枠(客の転落防止および物品投下防止用)」の下枠突き出し部分が邪魔になって、入り口が完全に開かない(直立しない)状態だったことが判った。救助袋の長さ(展開状態の長さ)が「30.21メートル」で、7階の高さ約25.5メートルに対して十分な斜度を保つ長さが無かったことも判明した。プレイタウンの救助袋は、保守管理がなされていなかったことによって生じた破損だけではなく、設置や機能面においても問題があった。 改善項目「2および3」についても、普段から避難階段の出入口が店内装飾用の幕で隠されていたり(階段B、F)、看板を立て掛けてその存在を消したりしていて(A階段)、非常口の場所が店内の構造に詳しくない客や新規従業員などには判らないようになっていた。唯一安全な避難階段とされた「B階段」の出入口は、エレベーターホールに面したクロークの奥にあり、扉そのものが幕で覆い隠されていることもあって、なおさら人目に付かない状態にあった。B階段の非常口を示す誘導灯はクロークカウンター上部の天井に近い梁に設置されており、天井から垂れ下がっている装飾用の中華風灯篭の影響で誘導灯が見えづらかった。またそれを視認できたとしても、クローク内のどこに非常口があるのか理解できない状態だった。しかもB階段出入口の上部に誘導灯は設置されていなかった。
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