弁護士の就職難と経済的困窮、職業としての魅力の減少
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「法科大学院定員割れ問題」の記事における「弁護士の就職難と経済的困窮、職業としての魅力の減少」の解説
法科大学院制度は、法曹に対する需要が急激に増大するとの予測を前提に、旧司法試験制度のままでは合格者の質を維持したまま法曹人口の大幅な拡大を図ることができないという理由から、「質量ともに豊かな法曹」を養成するための制度として設けられた。しかし、法科大学院制度の導入を提言した司法制度改革審議会意見書は、「平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数の年間3,000人を目指すべきである」との数値目標を掲げていたものの、実際には司法試験委員会の判断により新司法試験の合格者数は年間2,000人程度にとどまったほか、その後の検討により「年間3,000人」という数値目標には特に根拠がないことが明らかとなり、既に法科大学院への入学者数も年間3,000人を下回っている等の事情からこのような数値目標を掲げることは現実性を欠くと判断されたため、平成25(2013)年7月16日の法曹養成制度関係閣僚会議決定により、上記数値目標は正式に撤回された。したがって、法科大学院制度の導入に伴い司法試験の合格者数は従来より大幅に増員されたものの、当該増員を必要とするだけの法曹需要はそもそも存在しなかったことになる。このように具体的必要性を欠く法曹人口拡大政策により、弁護士の求人市場は大幅な供給過剰となり、特に若手弁護士の多くは深刻な就職難、経済難に喘いでいる旨が繰り返し指摘され、多額の学費を支払って法科大学院に入学し苦労して弁護士資格を取得しても経済的には割に合わないことが社会にも広く周知された結果、法科大学院の大幅な入学者数減少、定員割れを招いた可能性は否定できない。なお、若手弁護士の深刻な就職難、経済難を示す根拠としては、主に以下のようなものが挙げられる。 (1)弁護士未登録者の増加旧司法試験時代には、司法修習を終えた者は裁判官または検察官に任官した者を除き、ほとんどが一括登録時点で弁護士に登録していた。しかし、特に新司法試験制度が導入された後は、一括登録時点において弁護士登録をしない者(弁護士未登録者)が年々増加しており、第60期は102人、第61期は132人、第62期は184人、第63期は285人、第64期は464人、第65期は546人、第66期は570人の弁護士未登録者が発生している(いずれも現行修習・新修習の修了者を合計した数である)。特に、平成25(2013)年12月に司法修習を終えた第66期司法修習生のうち、一括登録時点で裁判官・検察官・弁護士のいずれにもなっていない者(弁護士未登録者)の割合は28.0%にのぼっており、4人に一人が法曹としての職を得られていないことになる。なお、一括登録時点で弁護士登録をしない者も、その多くは数か月以内に弁護士登録をしているため、日本弁護士連合会では一括登録時点から1カ月後、2カ月後、3カ月後、4カ月後、6カ月後及び12か月後における弁護士未登録者数も公表しているが、これらの時点における弁護士未登録者数も年々増える一方である。 (2)「軒弁」「宅弁」「即独」などと呼ばれる弁護士の増加旧司法試験時代、弁護士になる者はまず既存の法律事務所に就職して「イソ弁」となり、数年程度の実務経験を積んでから独立開業するのが一般的であった。しかし、司法試験合格者数の急激な増加により、司法修習を終えても既存の法律事務所に就職できないため、やむを得ず修了後直ちに独立開業してしまう弁護士等が急増し、「軒弁」「宅弁」「即独」などという新たな業界用語が弁護士業界に定着するに至った。日本弁護士連合会はこの現象を「若手弁護士の深刻なOJT不足」として問題視し、OJTの機会が少ないと推測される新人弁護士の数を公表している。関連する主な業界用語とその意味は、以下のとおりである。「軒弁(のきべん)」既存の法律事務所に所属するが、事務所に雇用されているわけではなく、単に軒先を借りている弁護士という意味である。事務所からの固定給は原則としてないため、弁護士としての収入は自力で稼がなければならず、さらに所属事務所へ経費を支払わなければならないケースもある。「宅弁(たくべん)」既存の法律事務所に所属せず、自宅を登録事務所として独立開業する弁護士という意味である。「即独(そくどく)」既存の法律事務所に所属せず、司法修習修了後即時に独立開業する弁護士という意味であり、宅弁のほか、自宅以外の事務所を用意して独立開業する場合を含む。即独弁護士の正確な数は不明だが、日本弁護士連合会の調査によると、平成26(2014)年1月現在、新人のみの1人事務所が71事務所、新人のみ2人以上の事務所が18事務所存在している。なお、厳密な意味の「即独」には当たらなくても、例えば就職した事務所を1か月程度といった極めて短期間で退職し、その後に独立開業するケースも少なくないようであり、日本弁護士連合会は弁護士登録後1年以内に独立開業する弁護士を「早期独立弁護士」と定義し、若手法曹センターが『即時・早期独立開業マニュアル』を発行するなど、早期独立弁護士の支援に努めている。言い換えると、もはや即独弁護士・早期独立弁護士の発生を防止する方向での支援は不可能であるため、そのような弁護士に対する情報提供等の支援に切り替えている、ということである。「アパ弁(あぱべん)」司法修習を終えた後、数名共同してアパートなどの一室を借り、そこを登録事務所として独立開業している弁護士という意味である。「ケー弁(けーべん)」携帯電話を持って市内を徘徊している弁護士という意味であり、「ケータイ弁」とも呼ばれる。弁護士に関する報道で時々使われることがある。なお、自由民主党の河井克行議員は2014年に、日本弁護士連合会による調査結果及び回答率の減少を踏まえ、第65期修了の弁護士有資格者1,916名のうち「きちんとした就職先が確保できた」と答えた者は1,255名であったのに対し、第66期修了の弁護士有資格者1,856名のうち「きちんとした就職先が確保できた」と答えた者は827名に過ぎず、猛烈な就職難がいま現場で起きているなどとブログで指摘している。 (3)年間所得の著しく低い弁護士の増加国税庁は確定申告に基づき、業種別の「所得階級別人員」を毎年公表しているが、弁護士のうち年間所得が「70万円以下」「赤字」として申告する者が年々増加しており、平成24(2012)年には弁護士として確定申告をした者35,902人のうち、「損失のある者」が7,786人、「年間所得70万円以下」が5,508人存在するなど、年間所得の著しく低い弁護士の急増が指摘されている。
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