ヒカリ新世紀とは? わかりやすく解説

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ヒカリ新世紀【ヒカリシンセイキ】(食用作物)

登録番号 第12273号
登録年月日 2004年 11月 8日
農林水産植物の種類
登録品種の名称及びその読み ヒカリ新世紀
 よみ:ヒカリシンセイキ
品種登録の有効期限 20 年
育成者権の消滅  
品種登録者の名称 富田因則
品種登録者の住所 鳥取県鳥取市湖山町北四丁目155番地 メゾンエスポワール202
登録品種の育成をした者の氏名 富田因則
登録品種の植物体の特性の概要
この品種は、「関東79号」と「十石」の雑種4代選抜個体一回親、「コシヒカリ」を種子親として戻し交配行い育成され固定品種であり、育成地(鳥取県鳥取市)における成熟期早生の早の食用向き水稲粳種である。型は中間、稈長は短、稈の細太は中、剛柔はやや柔、止葉直立程度はやや立、葉身及び葉鞘の色は緑である。穂長はやや短、穂数はやや多、粒着密度及び穂軸の抽出度は中、穂型は紡垂状、穎毛の有無多少は少、穎色は黄白、ふ先色は黄白-黄、護穎の色は淡黄である。有無多少は稀、長は短、色は黄白-黄である。玄米の形は中、大小はやや小、色沢はやや淡、精玄米千粒重はやや小、玄米見かけ品質は中の中、光沢は中、腹白及び胴割の多少極少食味上の中である。水稲陸稲の別は水稲、粳・糯の別は粳、出穂期及び成熟期早生の早、穂揃日数は短、穂発芽性は難、耐倒伏性はやや強、脱粒性は難、地上部全重はやや小、収量はやや少である。いもち病抵抗性推定遺伝子型は+、穂いもちほ場抵抗性は弱、いもちほ場抵抗性はやや弱、白葉枯病抵抗性品種群別は金南風群、白葉枯病ほ場抵抗性はやや弱である。「コシヒカリ」と比較して、稈長が短いこと、止め葉直立程度がやや立であること、耐倒伏性が強いこと等で、「日本晴」と比較して、稈長が短いこと、止め葉直立程度がやや立であること等で区別性認められる
登録品種の育成経過概要
この品種は、昭和60年鳥取大学農学部附属農場鳥取市)において、「関東79号」に「十石」を交配し以後雑種4代選抜した個体一回親とし、「コシヒカリ」を種子親として戻し交配を7回行いその後系統育種法により固定図りながら特性の調査継続し平成11年にその特性が安定していることを確認して育成完了したのである。なお、出願時の名称は「新世紀コシヒカリであった



ヒカリ新世紀

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 09:09 UTC 版)

ヒカリ新世紀(ひかりしんせいき)は、日本のイネ品種名および銘柄名。

概要

ヒカリ新世紀(水稲品種第12273号)は、静岡大学グリーン科学技術研究所の富田因則教授によって、その鳥取大学在任時に、背が高くて倒伏しやすい水稲品種コシヒカリに、背丈を低く抑える遺伝子が連続戻し交雑で移入されて育成された短稈コシヒカリ型品種である[1][2]

コシヒカリは日本の水稲生産の4割近くを占めるが、地球温暖化の影響で多発・大型化する台風によって倒伏し、収量と品質の低下を被っている。県によってはコシヒカリの栽培面積が8割に及んでいて、一遍に大きな自然災害をうける恐れがあり、コシヒカリを遺伝的に短稈化して倒伏しにくく品種改良する必要があった。ヒカリ新世紀は、コシヒカリに背丈を約20 cm短くする1個の半矮性遺伝子sd1が連続8回の戻し交雑で導入されたものであり、半矮性遺伝子sd1以外は99.8%コシヒカリのゲノムを持つ短稈コシヒカリ型品種である[1][2][3]DNAモニタリングにより、sd1遺伝子周辺がコシヒカリのゲノムに置き換わっていることが確認された[2]。ヒカリ新世紀はコシヒカリより倒伏耐性が著しく強く、数が増加し、コシヒカリの良食味(等級「上の中」)を受け継いでいる[3][4]

富田は育成に成功した短稈コシヒカリ(詳細は後節参照)を“光輝く新世紀”としてヒカリ新世紀と命名し[注 1]農林水産省2004年に品種登録された[2][3][4]

ヒカリ新世紀の育成

在来種十石が持つ半矮性遺伝子sd1をコシヒカリに移入することによって、コシヒカリの短稈化が図られた[1][2]。十石とコシヒカリの早生突然変異系統関東79号との交雑が行われた[1][2][3]。両親の出穂期が約1ヶ月違うため、雑種第2世代F2には両親間にまたがる様々な出穂期の個体が分離したため、雑種第4世代まで系統育種法が展開され、出穂期がコシヒカリに近い短稈系統(半矮性遺伝子sd1sd1ホモ接合体)、すなわち、出穂期の遺伝子がコシヒカリと同じで、sd1を持つ短稈系統が選抜された[2]。こうして、1回目の交雑F4世代までに出穂期に関する遺伝子をコシヒカリから受け継いだ短稈系統が育成された[1][2]

この短稈系統が含むコシヒカリのゲノムはまだ50%程度であり、sd1以外の遺伝子をコシヒカリに入れ替えるために、さらにコシヒカリとの戻し交雑が8回行われた[1][2][3]。すなわち、この短稈系統を一回親にして、コシヒカリを反復親とする連続8回の戻し交雑が行われ、半矮性遺伝子sd1以外はコシヒカリのゲノムに入れ替えられた[2][3]。各戻し交雑の第1世代BCnF1で半矮性遺伝子をSd1sd1ヘテロ接合で持つ個体が選抜され、コシヒカリを母親にして戻し交雑が行われた[2][3]。すべての戻し交雑で翌年には必ずBCnF2が展開され、短稈個体(sd1sd1 ホモ接合体)が分離することを確かめつつ、BCnF1への交配が先行して進められた[2]。BC8F3世代で半矮性遺伝子sd1以外は99.8%以上コシヒカリのゲノムに入れ替えられた短稈のsd1ホモ接合体が固定され、短稈コシヒカリの育成が完了した[2][3]

品種特性

農林水産省の品種登録審査結果[4] に準じて品種ヒカリ新世紀の品種特性を記す。ヒカリ新世紀の出穂期、成熟期はコシヒカリと同じ“早生の早”であり[3][4]、各府県の生産力検定試験においても、コシヒカリとほとんど差がなかった[5]

稈長はコシヒカリより約20 cm(20%) 短く、耐倒伏性は“やや強”でコシヒカリに著しく優る[3][4]。コシヒカリより穂数が増加し、玄米千粒重はコシヒカリと同等である[3][4]。ヒカリ新世紀の止葉はコシヒカリより葉の幅が広くなり、“直立”しており、受光態勢が良くて光合成効率が高く、緑が濃く生き生きとしている[1][3]

もみと玄米の大きさ、品質ともにコシヒカリと同等である[2][3][4]。玄米の概観品質はコシヒカリ並の“中”であり、腹白、胴割も“極少”である[3][4]。穂発芽性、脱粒性はコシヒカリと同等に“難”である[3][4]。食味はコシヒカリと同じ“上の中”である[3][4]。白葉枯病抵抗性、カラバエ抵抗性はコシヒカリ並である[3][4]。葉いもち抵抗性はコシヒカリよりやや強い[3][4]。葉が直立して繁茂せず風通しが良く、病害防除がしやすいと指摘する生産者もある[1]

ヒカリ新世紀の品種登録後に、コシヒカリつくばSD1号(植物ゲノムセンター)[6]、コシヒカリえいち4号(本田技研工業[7]、など同じ半矮性遺伝子sd1を使った短稈コシヒカリ系統が登録出願された。コシヒカリつくばSD1号はヒカリ新世紀より穂発芽性が易であるとされた[6]。これら後発の短稈コシヒカリ系統は戻し交雑の回数が4回から5 回であるのに対して、ヒカリ新世紀の戻し交雑回数は8回で最も多く、遺伝的にコシヒカリに近いためである[1][2]sd1遺伝子周辺のDNAマーカーを用いたモニタリングにより、sd1遺伝子周辺がコシヒカリのゲノムに置き換わっていることが確認された[2][8]。ヒカリ新世紀はコシヒカリに栽培しやすさというメリットを付与したものといえる[1]。また、コシヒカリつくばSD1号やキヌヒカリ等コシヒカリ系の短稈品種にはいずれもインディカ由来の半矮性遺伝子sd1が移入されているのに対して、ヒカリ新世紀にはジャポニカ「十石」の半矮性遺伝子sd1が移入されている[1][2]

生産状況

宮城県神奈川県石川県長野県和歌山県など29府県においてヒカリ新世紀の奨励品種決定試験や生産力検定試験が行われ、新潟県農業総合研究所、千葉県農業総合研究センターでは、ヒカリ新世紀は短稈で多蘖な以外はコシヒカリと同質の食味、品質を持つと評価された[5]。ヒカリ新世紀は寒冷地、温暖地、暖地に及ぶコシヒカリの作地全域において早期-普通期栽培が可能である[1][3]

実際の生産者からは、コシヒカリに対して倒伏が無く、食味が変わらないほか、繁茂しないために病害虫防除がしやすい、収量が1〜2割増し、手間がかからず中山間地に向いている、コンバインによる収穫が容易であるなどの利点が報告され、ヒカリ新世紀の奨励品種や産地品種銘柄米への採用を要望する声があがった[1]。ヒカリ新世紀は、岡山県鳥取県高知県、新潟県、滋賀県京都府、千葉県、熊本県、和歌山県他15府県で産地品種銘柄米に設定されている[9]。その他、農商工連携促進法に基づいて申請された熊野米プロジェクト[10][11] など、ヒカリ新世紀を用いた地域おこしの例[12][13][14] がある。なお、熊野米プロジェクトではヒカリ新世紀ではなく、実体のない「熊野米」と称している[15]

脚注

注釈

  1. ^ 出願時の名称は「新世紀コシヒカリ」[4]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 「半矮性遺伝子sd1を導入した短稈コシヒカリ型の水稲品種‘ヒカリ新世紀’」 農業および園芸84(1) pp. 58-66 (2009)
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q ”Introgression of Green Revolution sd1 gene into isogenic genome of rice super cultivar Koshihikari to create novel semidwarf cultivar 'Hikarishinseiki' (Koshihikari-sd1)” Field Crops Research 114(2) pp. 173-181 (2009)
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 水稲品種「ヒカリ新世紀」(仁井田米販売・宮内商店)
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m ヒカリ新世紀(Weblio 辞書:品種登録データベース)
  5. ^ a b ”Transcription of rice Green Revolution sd1 gene is clarified by comparative RNA diagnosis using the isogenic background” Genomics and Applied Biology 2(5) pp. 29-35 (2011)
  6. ^ a b 登録品種データベース:コシヒカリつくばSD1号(農林水産省)
  7. ^ 登録品種データベース:コシヒカリえいち4号(農林水産省)
  8. ^ ”Identification of an isogenic semidwarf rice cultivar carrying the Green Revolution sd1 gene using multiplex codominant ASP-PCR and SSR markers” Biochemical Genetics 51(7-8) pp. 530-542 (2013)
  9. ^ 平成30年産産地品種銘柄一覧 (PDF) (農産物規格規定/農林水産省)
  10. ^ 農商工等連携事業計画 2010年度第2回認定 和歌山県南部熊野地域で栽培したヒカリ新世紀の熊野米のブランド化と加工品(無洗米、すし米、米粉)の開発・販売(独立行政法人中小企業基盤整備機構)平成22年 (2010年) 9月
  11. ^ 農商工等連携事業事例集 pp. 27-28 和歌山県南部熊野地域の熊野米のブランド化と加工品開発・販売 (PDF) (中小企業庁・農林水産省)平成26年 (2014年) 3月
  12. ^ 一社一村しずおか運動活動認定 No.28 日本大学生物資源科学部×天子ヶ岳の郷保存の会(ふじのくに静岡県公式ホームページ)平成25年 (2013年) 7月
  13. ^ ザ・鳥取県の旬の美味 直売所(株式会社 食のみやこ鳥取)
  14. ^ JA鳥取西部 ベトナムへコメ試験輸出(山陰中央新報)2015年1月29日
  15. ^ 「交」わる熊野 銘打つ新酒(読売新聞)2018年3月29日 和歌山地域31面


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