イデオロギー問題
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「ティーパーティー運動」の記事における「イデオロギー問題」の解説
ティーパーティーのイデオロギーについては様々な前時代の政治思想家が”先駆者”として取りざたされているが、どれもこの運動の一部しか表現できない。というのも、それほどに集団としては雑多であり、草の根運動として始まったので統一された思想はそもそも存在しなかったからである。反二大政党エスタブリッシュメントとして、保守・リベラルを横断した運動であるとの解釈すらあったほどである。それでも主張の違いから二つの保守グループに大別できると考えられてきた。 ティーパーティーは、おおよそ社会的保守派(ポピュリスト右派)と財政保守派(リバタリアン)とに分けられる。前者は人工妊娠中絶や同性婚への反対、軍隊に同性愛者を受け入れるかという問題、結婚の価値などモラル面に重きを置き、(宗教保守派同様に)信仰の一部に近いとすら考えているので、強制力の伴う方法をつかってでもこれらは堅持されなければならないと思っているが、後者は財政赤字の大幅削減と減税、小さな政府の実現を目指していて、州権を擁護する立場から、社会争点に関しては賛否のいずれにしろ連邦政府の介入を招くので、これは避けて焦点とはすべきではないという意見で、むしろ個人の自由な選択を重視する。前述のフリーダムワークスのブランドン・スタインハウザーは社会争点が保守派の内部分裂を招く潜在的危険を警告したが、中間選挙の予備選においても予想通りにローカルなレベルで両派の対立が見られ、足の引っ張り合いとなることは少なくなかった。そこでティーパーティーを何とか一つの政治勢力として糾合し、共和党に利する形で2010年の中間選挙で利用しようという試みが画策されていて、それが具体化したのが、2010年2月17日のマウントバーノン宣言であった。ここでは80年代に保守派が考え出した憲法保守が再提唱され、両派を統合するための概念とされた。この宣言自体はあまり知名度を得なかったが、4月12日、フリーダムワークスの傘下にある「アメリカからの誓約」という団体がまとめた十箇条の綱領にもそのまま引き継がれて、広く知られることになった。課税反対などではなく、突如として憲法が運動要求の第1条に掲げられたのは、大同団結という政治的打算がその背後にあったからに他ならない。 アメリカからの誓約は、2010年の中間選挙での共和党の公約として採用されたわけだが、その時は、内容において保守派・リベラル派の双方から具体性に乏しく過去の公約の焼き直しにすぎないと手厳しく批判され、妄想であるとまで評された。 にもかかわらず、具体的内容はともかくとして、アメリカ合衆国憲法という選挙用パッケージは強力に作用したと言える。中間選挙前にティーパーティー団体や立候補した議員たちは”誓約”への署名を求められ、両派は共に憲法保守派であると主張できるようになったことで、ティーパーティーは動員数を増やしたのみならず、無党派層の心も少なからず捉えたからだ。それで結果的に選挙で大勝したので、さっそく2011年1月6日、連邦議会下院は議長による憲法の朗読を開会に行い、ティーパーティーが躍進した下院では「すべての法案は、根拠となる憲法の条文を引用しなければならない」という議事規則まで設けられた。共和党は憲法保守におもねり、"誓約"を守るというパフォーマンスを行ったわけである。 社会的保守派に分類されるクリスティン・オドネルが「憲法とは単なる法的文書ではなく、「神聖な原則」を定めた文書だ」と述べたのは、ティーパーティーとは憲法保守であるという認識によるものであったが、原意主義(始原主義)と憲法への不十分な理解から、憲法が聖書であるかのように主張しているとの誤解も与えた。これは憲法保守を唱えた人々の一部(特にペイリン、オドネル、バックマン、ケインなど)がこのイデオロギーに習熟しておらず、正しく説明できなかったことに起因するが、憲法に関しての間違い、失言・迷言が繰り返し指摘されて、リベラル派の批判を浴びるという現象も起こった。中間選挙での過激候補敗退の一因となり、ティーパーティー参加者の失望と疲弊を招いた。 債務上限問題でもティーパーティーの抵抗にあった民主党のリード上院院内総務は、2011年7月14日にティーパーティーの政治哲学は非憲法的であると批判し、その知識は「ガラクタの寄せ集め」と評したが、これは典型的なリベラル派の受け取り方であり、保守とリベラルとの対立のなかで、ティーパーティーのイデオロギーは必ずしも正当な評価を受けているとは言い難く、中間選挙で大躍進はしたが、グレン・ベックらの講義やセミナーの甲斐もなく、憲法保守のイデオロギーは結局浸透しなかった。憲法保守という立場は実際の政策へと転換されるところまでは至っていない。
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