AIR-EDGE
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/29 16:00 UTC 版)
課題と展望
この項では2000年代後半の競争環境における課題と展望を記す。
通信速度
2006年2月23日、高度化PHS規格「W-OAM」の導入により、W-OAM対応通信時に最大408kbpsを、また、2007年4月5日の「W-OAM typeG」の導入により、最大512~800kps[18]を実現していた。通信速度に係るその他の詳細は前述を参照。
よってW-CDMA方式による第3世代移動通信システムの標準的な1ユーザ当たり速度 (ユーザレート) 384kbpsを上回る数値を、理論値ではあるが達成していた。
AIR-EDGEは一時期、理論値と比べ遅いという評判が立ったが、これは主として、通信パイプの太さの示す「帯域」が足りないことではなく、一瞬、体感できるほどの反応の遅れ (遅延) があることが理由だった。遅延は、網内のアルゴリズムの改善で、大幅に解消された。また、Venturiを用いた高速化サービスは、PCにプロキシ設定を施すものであるためIPsecクライアントソフトとの相性が悪く、最悪のケースでは社外からLANへの接続ができなくなる場合があった。
一方、第3世代移動通信システムでも、第3.5世代移動通信システムと称する2Mbpsや、それ以上の下り通信速度となるものが、一部でサービス提供中である。これらは、1つの携帯電話基地局にアクセスが集中すると速度が落ちるという欠点がある。というのも、この「2Mbpsやそれ以上の通信速度」というのは、通常、「1つの基地局が通信できる最高速度」 (セルスループット) または、「基地局のセル中の一定角度方向のセル内の部分である1セクタ内で通信できる最高速度」 (セクタスループット) であり、それをこの基地局を利用するユーザーで共用するためである。また、携帯電話では、通常、1基地局あたりのカバーエリア (セル半径) が広く (マクロセル)、結果的に収容ユーザ数が多くなるため、セル半径の小さい (マイクロセル) PHSによるエアーエッジと比較して、混雑時のユーザレートの速度低下が顕著になりうる、と言う事をウィルコムでは広告のアピールポイントとして謳っていた。
対して、PHSは通信チャネルがFDMとされ、日本ではPHS用の帯域内で数10チャンネル (公衆用) の割り当てが可能である。基地局はDCA (Dynamic Cell Assign) により自律分散型で通信チャネルの周波数割り当てを行う。よって通信チャネルの周波数が異なれば、基地局のセルを干渉を起こさずにオーバーラップさせる事は容易である。以上から、単位面積当たりの総スループットについては、マイクロセルによるPHSと、典型的なマクロセルによる3G・3.5G携帯電話とを比較すると、理論上は最大で2桁程度、前者が高くする事が可能である。 (実際に、高トラフィックな大都市中心部では、それに近いようなレベルで高密度な基地局設置がなされている[21]。
これに対して、携帯電話事業者では3.5G等のさらなる高速化や、周波数利用効率の向上を目指して開発を続けている。また、定額制サービスの提供にあたっては、輻輳対策として、一部のネットワークアプリケーションの制限や、転送量により速度制御を掛けるなどの対策を取る事業者もある。
PC定額制
通信端末をパーソナルコンピュータ (PC) に接続または内蔵して利用したような場合には、音声端末などによる場合と比較して、通信する総データ量が著しく大きくなる (1桁以上) ことが知られていた。
2009年1月時点の日本国内で、PCに接続した場合にも料金定額制となるのは、以下のサービスのみであった。
- PHSであるエアーエッジと、電力系通信事業者の一部PHSサービス (ケイ・オプティコムのeo64エア)
- イー・モバイルによる定額制サービス。
- NTTドコモ (FOMA) - 定額データプランHIGH-SPEED・定額データプラン64K
- KDDI (au) - 「Packet WINシングルサービス」 (「WINシングル定額」)
ただし、2005年7月25日より、MVNOによる法人向けVPNアクセス回線限定ながら、ボーダフォン (現ソフトバンクモバイル) の第3世代携帯電話 (3G) 回線でのPC等外部接続の定額制が日本通信より提供開始された[22]。
典型的な第3世代携帯電話やその事業者 (NTTドコモ・au・ソフトバンクモバイル) では、1000万人単位の端末単体通信ユーザを抱えているため、混雑時の速度低下や電波帯域の不足、投下設備資本の回収上など問題から、PC定額制の導入が大幅に遅れたと見られている。各社とも、2007年春前後、PDA限定の定額制を一部導入し、 (Biz・ホーダイ、PCサイトダイレクト等)、さらに3.5Gインフラの拡大や、プロトコル制限・転送量制御などの適用により、導入に踏み切っている。
PHSが早期にPC定額制を実現できているのは、設備投資の点でも携帯電話より安価な上、マイクロセル方式によりトラフィックを分散できるためである。
2007年末までに、イー・モバイル、NTTドコモに続いてKDDIが、PC接続での定額制データ通信サービスへ参入し、この分野での競争激化の本格化が予想されている。他方で、スマートフォンのデータ通信量の負担に耐えかね、定額料金制を本音ではやめたがっている携帯電話事業者は少なくないと見られる (実際に、各社のLTEサービスでは、一定のパケット容量を超えた場合は、速度制限がかけられるケースがほとんど)。
なお料金制度に関しての詳細はパケット定額制、モバイルデータ通信定額制の各項目も参照のこと。
その後
2005年より、主要電話局にITX (IP Transit Exchange、IP中継交換機。NTT東西回線をバイパスする装置。[23]) の導入が進められており、高トラフィックの都市部に概ね導入されていると言う。ITXにより、バックボーン回線をウィルコムが構築したIP網に切り替えた上で、将来的に各基地局に光ファイバーを接続。現在[いつ?]は1チャンネルあたり51kbpsの通信が可能で、変調方式の高度化 (QAM) により、これを最大96~100kbpsまでに高速化。これを最大16本束ねることで1.5Mbpsのサービスを提供する計画とされていた。 (W-OAMの項目も参照)
参考:ウィルコムインタビュー「2つのアプローチで体感数Mbpsを目指す」
ウィルコム経営再建以降
2007年以降、次世代PHS等の試験や免許取得に向かうが、モバイルブロードバンドであるイー・モバイルやUQコミュニケーションズの参入が相次ぎ、また2009年には経営破綻、経営再建となり、以降は3.9G、4GやLTEの普及により、急速に競争力を喪失した。
- ^ 提供会社は右記のように変遷。DDIポケット→ウィルコム→ワイモバイルおよびウィルコム沖縄→ソフトバンクおよびウィルコム沖縄
- ^ a b c “新データ通信サービス『エアーエッジ』の開始について”. DDIポケット(株). 2001年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月25日閲覧。
- ^ 石井 徹 (2017年4月20日). “Y!mobile、PHSの新規契約・機種変更を2018年3月で終了”. ケータイ Watch. (株)インプレス. 2024年6月25日閲覧。
- ^ “[特集:ケータイ Watch20周年] 【今日は何の日?】ウィルコムが誕生した日”. ケータイ Watch. (株)インプレス (2021年2月1日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ “ワイモバイルのPHS、23年3月末で完全終了”. 2019年5月1日閲覧。
- ^ a b c 坪山博貴 (2002年3月20日). “AirH"128Kパケットの疑問を解く(後編)”. ZDNet/JAPAN. ソフトバンク・ジーディーネット(株). 2024年6月25日閲覧。
- ^ 「PHSの進化を支える日本最小のケータイ端末メーカー」『月刊テレコミュニケーション』、(株)リックテレコム、2007年6月、34-35頁。
- ^ a b 斎藤健二 (2005年1月18日). “256KのAIR-EDGE[PRO]、つなぎ放題で1万2915円”. ITmedia Mobile. アイティメディア(株). 2024年6月28日閲覧。
- ^ 斎藤健二 (2002年1月27日). “DDIポケット,128KbpsのAirH"サービスを3月26日開始”. ZDNet/JAPAN. ソフトバンク・ジーディーネット(株). 2024年6月29日閲覧。
- ^ 上位の方式に対応した料金コースで下位の方式の利用は可能
- ^ 園部修 (2006年1月27日). “料金据え置きで通信速度を3倍に――ウィルコム”. ITmedia Mobile. アイティメディア(株). 2024年6月29日閲覧。
- ^ “WILLCOM|ますます速く快適に”. (株)ウィルコム. 2007年5月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月29日閲覧。
- ^ 『高度化PHS基地局(IP対応)の量産開始および次世代PHS基地局開発について』(プレスリリース)京セラ(株)、2007年11月9日。 オリジナルの2008年12月11日時点におけるアーカイブ 。2024年6月29日閲覧。
- ^ 平賀洋一 (2008年2月15日). “ウィルコム、山形県本合海地区でのW-OAMサービスを開始”. ITmedia Mobile. アイティメディア(株). 2024年6月29日閲覧。
- ^ 斎藤健二 (2001年5月21日). “DDIポケット,秋には“定額制”128Kbpsパケット通信導入”. ZDNet/JAPAN. ソフトバンク・ジーディーネット(株). 2024年6月29日閲覧。
- ^ a b c 「W-OAM時」とは、W-OAM対応端末によりW-OAM対応基地局と通信した場合を示す。
- ^ 「W-OAM typeG時」とは、W-OAM typeG対応端末によりW-OAM対応基地局と通信した場合を示す。
- ^ a b c d e f g h 高い方の速度は基地局回線の光IP化後のもの。
- ^ つなぎ放題コースでの音声通話料金
- ^ 新ウィルコム定額プラン
- ^ [1]
- ^ [2] [3]
- ^ 「通信事業者向け IP 変換システム」『東芝レビュー』第60巻第2号、(株)東芝、2005年2月、46-49頁。
- ^ http://www.willcom-inc.com/ja/corporate/press/2007/04/11/index_01.html
- ^ “京セラ、「京ぽん」を商標出願していた”. ITmedia Mobile. 2020年4月30日閲覧。
- ^ “京セラ、「京ぽん」を商標登録出願”. k-tai.watch.impress.co.jp. 2020年4月30日閲覧。
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