2009年のF1世界選手権 レギュレーションの変更

2009年のF1世界選手権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/17 07:47 UTC 版)

レギュレーションの変更

BMWザウバーの2008年(上)と2009年(下)のマシン。前後ウィングの幅・高さ、エアロパーツの有無などが異なっている。

オーバーテイク促進策

近年のF1マシンはエアロダイナミクスの追求がシビアになった結果、車両後方に発生する乱流によって前走車に接近できず、オーバーテイクを仕掛けることが難しくなった[6]。順位変動によってレースを活性化するため、FIAはチャーリー・ホワイティングテクニカルディレクター数名からなる作業部会オーバーテイク・ワーキング・グループ (OWG) を編成[6]。風洞実験の結果から

  • ダウンフォースを50%削減し、相対的にサスペンションとタイヤによるメカニカルグリップを増加させる。
  • 後方乱流の影響を受けにくくするため空力的な感度を下げ、また、後方乱流を発生するエアロパーツを規制する。
  • オーバーテイクの機会を増すアシスト装置の搭載を認める。

という趣旨の新レギュレーションを導入した。

  • フロントウィング[7]
    • ウィングの効率を上げるため、幅を1,400mmから車体幅と同じ1,800mmまで広げる。また、翼端部分の最低地上高を150mmから75mmへと引き下げる。中央400mm部分は後方乱流の影響を受けないよう、ウイング形状ではなく平らな板とする。
    • また、フラップを可変式とし、ドライバーのコクピットからの操作で角度を1周あたり2回まで6度の範囲内で調整できる。
  • リアウィング[7]
    • 後方乱流を発生しないよう幅を1,000mmから750mmへと25%短縮し、高さは150mm引き上げて950mmまでとする。2008年までに比べて縦長になった印象を受ける。
  • エアロパーツ[7]
    • 前車軸線より450mm前から後車軸線まではウィングの装着を禁止。フロントタイヤ周辺はボディワーク禁止エリアとする。バージボード、ポッドフィン、ホーンウィング、チムニーダクトといった細かな整流パーツは撤廃される。ただし、エンジンカバーのシャークフィンは許可される。
    • サイドポンツーンにルーバーを刻むことは禁止。エキゾーストパイプは上方から見えてはならない。
  • ディフューザー[7]
    • ディフューザーの能力を削減するため形状を単純化する。開始点は後輪前端から後車軸線へ後退。後端部の高さは125mmから175mmへと変更する。
スリックタイヤ
  • スリックタイヤ
    • 接地面積を増やすため、溝付きのグルーブドタイヤから溝無しのスリックタイヤに変更される。スリックタイヤの使用は1997年以来となる。供給メーカーのブリヂストンは前後のバランスを取るためフロントの幅を狭めることを提案したが、チーム側の要請により2008年のグルーブドタイヤと同サイズにした。その結果、フロントのグリップが強く、オーバーステア傾向が生じた[8]
    • また、観客とマスコミに対する透明性を高めるため、ウェットタイヤ(浅溝)はインターミディエイト、エクストリーム・ウェザータイヤ(深溝)はウェットと改名された。
    • 2008年には、タイヤスペックを容易に見分けられるように、各グランプリでのソフト側のドライタイヤの内側から2本目の溝と、エクストリーム・ウェザータイヤの中心の溝には白線が1本引かれていた。2009年も同様にソフト側とウェットタイヤに線が引かれるが、色が白ではなく緑[9]になった。スリックタイヤの場合、タイヤ接地面の縁に線が引かれることとなる。ウェットタイヤの場合は従来と同様にタイヤ中心の溝に引かれる。
  • 運動エネルギー回生システム (Kinetic Energy Recovery System,KERS)[10]
    • 一般車のハイブリッドカー電気自動車で使用されている回生ブレーキの搭載が選択式で認められる(非搭載でも可)。回生・放出は後輪のみ。1周あたり400kJまで放出することができ、最大60kW(約80馬力)では1周あたり約6.7秒使用可能。ラップタイムでは0.3〜0.5秒の短縮につながり、オーバーテイク時のエクストラパワーとして利用できる。

コスト削減

  • エンジン
    • 2.4L V8エンジンは継続だが、最高回転数が19,000rpmから18,000rpmまで下げられ、内部開発は禁止される。
    • 2008年までの2レース1エンジン制から、年間を通しての使用が8基となる。テスト用の4基とあわせて、チームは年間20基まで使用できる。連続使用義務はなく、ドライバーには9基目以降のエンジン交換の場合にだけペナルティが適用される。つまり、全17戦で8基以内ならどういうプランで使用してもよい。
    • プライベートチームへの供給価格は2008年の50%とする。
  • テスト禁止
    • オフシーズンテストの最高走行距離を30,000kmから15,000kmに引き下げる。シーズン開幕7日前より年内のテストは禁止する。ただし、直線走行での空力テストに限り8日間認められる。
    • また、過去2年間で「F1参戦が2回以下」「F1テストが4日間を超えていない」という新人ドライバーは年間3回までテストを行える。
  • 風洞の使用は1週間あたり40時間までに制限する。
  • チームは年間6週間ファクトリーを閉鎖する。シーズンカレンダーには夏季1ヶ月間のサマーブレイクが導入された。

その他

  • 2007年に導入されたセーフティーカー走行中のピットレーン閉鎖のルールが撤廃された。このルールはセーフティーカー導入時に給油などのため各車がピットへ殺到することによる危険を防止するためのものであったが、安全対策を行うこととして廃止となった[11]
  • 予選・決勝中のピットレーンの制限速度は80km/hから100km/hに上げられた。
  • 予選終了後にFIAがすべてのマシンの重量を公表する。これは、主に各ドライバーの決勝スタートの搭載燃料量を公にするためのものである。なお、予選11位以下のドライバーは搭載燃料の変更が可能となるため、数値はチームの申告による値となる。
  • FIAは当初優勝回数の最も多かったドライバーを2009年のドライバーズチャンピオンにすると表明していたが、チームやドライバーからの反対にあい撤回された。[12][13]FOTAはシーズンの開始に近かった時期では、チームの完全な同意がなければFIAはルールを変えることができないと主張した[14][15]。1位から8位までそれぞれ12-9-7-5-4-3-2-1ポイントを与える新しいポイントシステムを導入し、1位から3位までにメダルを授与するという提案もあったが、FIAに却下された[16]

  1. ^ アルファロメオ(1950年イギリスGP)、メルセデス(1955年フランスGP)、ウルフ(1977年アルゼンチンGP)に続く記録。
  2. ^ "ドメニカリ「今季F1へのKERS導入は誤り」". オートスポーツ.(2009年6月23日)2013年1月11日閲覧。
  3. ^ "FOTA、新シリーズ立ち上げを宣言". オートスポーツ.(2009年6月19日)2013年1月11日閲覧。
  4. ^ "BMW、F1撤退…「苦渋の選択」ライトホーファー会長". レスポンス.(2009年7月30日)2013年1月11日閲覧。
  5. ^ "http://www.as-web.jp/news/info.php?c_id=1&no=23198". オートスポーツ.(2009年11月4日)2013年1月11日閲覧。
  6. ^ a b 小倉茂徳 "2009年型のF1はこう変わった(パート1)". Car Watch.(2009年2月24日)2013年1月12日閲覧。
  7. ^ a b c d "2009年 F1マシン レギュレーション". F1-Gate.com.(2008年11月28日)2013年1月12日閲覧。
  8. ^ "FIA、ブリヂストンに2010年のタイヤ幅の変更を要請". F1-Gate.com.(2009年3月4日)2013年1月12日閲覧。
  9. ^ 2008年日本GPのみ、FIAの展開する「MAKE CARS GREENキャンペーン」の一環として緑色の線も引かれていた。
  10. ^ "KERS (運動エネルギー回生システム)". F1-Gate.com.(2008年8月13日)2013年1月12日閲覧。
  11. ^ “FIA confirms new safety car rules”. Autosport.com (Haymarket Publications). (2009年1月27日). http://www.autosport.com/news/report.php/id/73020 2009年1月27日閲覧。 
  12. ^ “F1 delays controversial new rule changes”. cnn.com. (2009年3月20日). http://edition.cnn.com/2009/SPORT/03/20/hamilton.rules/index.html 2009年3月20日閲覧。 
  13. ^ Noble, Jonathan (2009年3月24日). “FIA confirms points system unchanged”. Autosport.com (Haymarket Publications). http://www.autosport.com/news/report.php/id/73875 2009年3月24日閲覧。 
  14. ^ Elizalde, Pablo (2009年3月17日). “Wins to decide world champion in 2009”. Autosport.com (Haymarket Publications). http://www.autosport.com/news/report.php/id/73744 2009年3月17日閲覧。 
  15. ^ “FOTA say point change is invalid”. ITV-F1.com. (2009年3月20日). http://www.itv-f1.com/news_article.aspx?id=45299 2009年3月20日閲覧。 
  16. ^ World Motor Sport Council -- Decisions”. FIA (2009年3月17日). 2009年6月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月17日閲覧。
  17. ^ “Ferrari first to launch 2009 F1 car”. (2009年1月5日). http://www.guardian.co.uk/sport/feedarticle/8195315 2009年1月5日閲覧。 
  18. ^ Noble, Jonathan (2009年1月10日). “Ferrari move new car launch to Mugello”. autosport.com. 2009年1月10日閲覧。
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  20. ^ “McLaren MP4-24 to launch on January 16”. ITV-F1.com. (2008年12月2日). http://www.itv-f1.com/news_article.aspx?id=44692 2008年12月2日閲覧。 
  21. ^ “Renault to launch R29 in Portugal”. gpupdate.net. (2008年12月12日). http://f1.gpupdate.net/en/news/2008/12/12/renault-to-launch-r29-in-portugal/ 2008年12月12日閲覧。 
  22. ^ “Williams to unveil FW31 on January 19”. Manipe F1. (2008年12月18日). http://www.manipef1.com/news/2008/index.php?id=2703 2008年12月18日閲覧。 
  23. ^ “Red Bull reveals RB5 launch date”. ITV-F1. (2009年1月5日). http://www.itv-f1.com/news_article.aspx?id=44865 2009年1月5日閲覧。 
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  25. ^ “バトン 新チームで新たな一歩を踏み出す”. GPUPDATE.NET. (2009年3月6日). http://f1.gpupdate.net/ja/news/2009/03/06/207892/ 2008年3月9日閲覧。 
  26. ^ “トロロッソ 3月9日に新車発表”. GPUPDATE.NET. (2009年3月4日). http://f1.gpupdate.net/ja/news/2009/03/04/207735/ 2009年3月4日閲覧。 
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  28. ^ “冠スポンサーのINGもルノーを離脱”. F1-Live.com. (2009年9月25日). http://jp.f1-live.com/f1/jp/headlines/news/detail/090924214522.shtml 2009年9月25日閲覧。 
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