音楽 音楽と脳

音楽

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 08:41 UTC 版)

音楽と脳

音楽を、単なる「音」ではなく、また「言語」でもなく、「音楽」として認識するのメカニズムは、まだ詳しくわかっていない。それどころか、ヒトが周囲の雑多な音の中からどうやって声や音を分離して聞き分けているのかなど、聴覚認知の基本的なしくみすら未解明なことが多い。しかし、音楽と脳の関係について、以下のようないくつかの点はわかっている。

  • 音楽に関係する脳:側頭葉を電気刺激すると音楽を体験するなどの報告から、一次聴覚野を含む側頭葉が関係していることは確かである。
  • 音楽、とくにリズムと、身体を動かすことは関連している。
  • 音楽には感情を増幅させる働きがある。たとえば映画・演劇などで、見せ場に効果的に音楽を挟むことによって観客の涙を誘ったり、あるいは怪談話の最中におどろおどろしい音楽を挟むことにより観客の恐怖感を煽る、といったものである。
  • 幼い頃から練習を始めた音楽家は、非音楽家とくらべて大脳の左右半球を結ぶ連絡路である「脳梁」の前部が大きい(Schlaugら、1995)。楽器の演奏に必要な両手の協調運動や、リズム・和音・情感・楽譜の視覚刺激などといった様々な情報を左右の皮質の各部位で処理し、密接に左右連絡しあうことが関係している可能性がある。
  • 絶対音感:聴いた音の音階、基準になる音との比較なしに、努力せずに識別できる能力のことで、9 - 12歳程度を超えると身に付けることができないといわれている。アジア系の人には絶対音感の持ち主が多いと言われているが正確なデータはなく、これが遺伝的、文化的要因のいずれによるのかも医学的な根拠は示されていない。また、絶対音感を持っている人と持っていない人では、音高を判断しているときに血流が増加する脳の部位が異なる。持っていない人では、音高を短期記憶として覚えることに関係する右前頭前野の活性が弱いのに対し、持っている人では記憶との照合をする、背外側前頭前野の活性が強かったという。また絶対音感保持者では側頭葉の左右非対称性(左>右)が強いという(Zattoreら、2003)。
  • 音楽と数学の関係:中世ヨーロッパで一般教養として体系化された「自由七科」では、音楽は数学的な学問の一つとして数えられている。また、子供に音楽の練習をさせると数学の成績が伸びたという報告(Rauscherら、1997)もあり、音楽と数学の関連性を示唆する。
  • 楽器を習うと脳の両側が刺激され、記憶力が強化される[29]
  • 音楽は、認知機能を刺激し、幸福を促進し、生活の質を改善する[30]。リラックスしたり、エネルギーを増やしたり、思考を改善したり、その日のやる気を引き出したりする必要がある場合でも、明るい音楽は最も必要なときに追加のサポートを提供できる。科学者たちは、音楽を聴くことで、思考や動きを変えるさまざまな脳の領域を刺激できることを発見した[31]
  • 多くの研究は、勉強しながら環境音楽を聞く大学生は、不安が少なく、集中力があり、テストスコアが高いことを示している。 環境音には、自然音、アコースティックギター、ピアノ、電子音などの心地よい楽器音が含まれる。お気に入りの音楽の曲は、前向きな思い出をかき立て、気分を高め、落ち着いたリラックスできる雰囲気を作り出すことができる。環境音楽はまた、分析的思考と創造性に関与する脳内の領域を活性化し、情報を吸収して保持する脳の能力を高めると考えられる[31]
  • 残念ながら、音楽は脳に多くの恩恵をもたらすが、言語と音楽は脳の同じ部分で処理されるため、環境音楽以外の音楽を聴きながら作業をすると、創造性と読解力が著しく損なわれる。研究者たちは、音楽を聴くことによって、言語情報を記憶し、課題を完了する能力が破壊されると推測している[32][33]

注釈

  1. ^ scientia スキエンティアは「知」で、しかもやや断片的な知、知識のこと。はるか後の時代、19世紀になって「サイエンス」(科学)の語源となる語彙。
  2. ^ の系統で、クラリネットなどの木管楽器トランペットなどの金管楽器に分かれる。
  3. ^ 弦の使用法によって、弦をはじくギターなどの撥弦楽器、弦をこするヴァイオリンなどの擦弦楽器、そして弦を打つ打弦楽器に分かれる。

出典

  1. ^ Milo Arlington Wold, Edmund Cykler, 1985, An Outline History of Western Music. p.122
  2. ^ The Painful Birth of Blues and Jazz
  3. ^ Morley 2013, p. 5.
  4. ^ Mithen 2005, pp. 26–27.
  5. ^ アウグスティヌス著作集 第三巻
  6. ^ ジョン・ブラッキング 『人間の音楽性』岩波書店、1973年
  7. ^ 『138億年の音楽史』 p72 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  8. ^ 現代音楽が難しい理由 - 現代音楽入門 Shoichi's Lab”. shoichi-yabuta.jp. 2023年5月12日閲覧。
  9. ^ 『図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明』 p220 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷
  10. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p15-19 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  11. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p24-28 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  12. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p49-52 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  13. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p53-59 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  14. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p87 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  15. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p103-104 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  16. ^ 『増補改訂版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p136 音楽之友社 2009年4月10日第1刷
  17. ^ 「図説 日本のマスメディア 第二版」p241-242 藤竹暁編著 NHKブックス 2005年9月30日第1刷発行
  18. ^ 「図説 日本のマスメディア 第二版」p247-248 藤竹暁編著 NHKブックス 2005年9月30日第1刷発行
  19. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p42 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  20. ^ 『138億年の音楽史』 p239-240 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  21. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p40 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  22. ^ 『138億年の音楽史』 p240 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  23. ^ a b 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p132 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  24. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p11 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  25. ^ 『138億年の音楽史』 p253-254 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  26. ^ 「138億年の音楽史」p218-219 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  27. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p12-13 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  28. ^ a b 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p132 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  29. ^ Put your brain to the challenge” (英語). Harvard Health (2021年5月1日). 2021年6月4日閲覧。
  30. ^ MD, Andrew E. Budson (2020年10月7日). “Why is music good for the brain?” (英語). Harvard Health Blog. 2020年10月13日閲覧。
  31. ^ a b c Publishing, Harvard Health. “Music to your health”. Harvard Health. 2021年1月23日閲覧。
  32. ^ Publishing, Harvard Health. “Listening to music may interfere with creativity”. Harvard Health. 2020年9月9日閲覧。
  33. ^ 1-7 Should You Listen to Music When You're Studying? - Change IS possible”. Coursera. 2021年1月23日閲覧。
  34. ^ Publishing, Harvard Health. “Put a song in your heart”. Harvard Health. 2021年1月23日閲覧。
  35. ^ 「文化人類学キーワード」p196 山下晋司・船曳建夫編 有斐閣 1997年9月30日初版第1刷
  36. ^ 『138億年の音楽史』 p118-120 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  37. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p8-9 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  38. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p96 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  39. ^ タリバン、人気歌手を殺害…「イスラムでは音楽は禁止」と述べた数日後に”. businessinsider (2021年8月30日). 2021年10月6日閲覧。
  40. ^ アフガン国立音楽院生徒ら101人、国外脱出”. AFP (2021年10月6日). 2021年10月6日閲覧。
  41. ^ 『138億年の音楽史』 p212-213 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
  42. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p147 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  43. ^ 『音楽のヨーロッパ史』 p198-199 上尾信也 講談社 2000年4月20日第1刷
  44. ^ 『音楽のヨーロッパ史』 p3-4 上尾信也 講談社 2000年4月20日第1刷
  45. ^ 『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』 p103-104 音楽之友社 2017年9月30日第1刷
  46. ^ 『文化人類学キーワード』 p196-197 山下晋司・船曳建夫編 有斐閣 1997年9月30日初版第1刷






音楽と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

「音楽」に関係したコラム

  • 株主優待銘柄とは

    株主優待銘柄とは、株主に対する還元策の1つとして商品券や割引券など配布している銘柄のことです。企業は、株主還元のため、また、株主の獲得のためにさまざまな株主優待を用意しています。株主優待は、1単元でも...

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「音楽」の関連用語

検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



音楽のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの音楽 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS