蒸気タービン 理論サイクル

蒸気タービン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/10 01:21 UTC 版)

理論サイクル

理論上の蒸気タービンのサイクルには、次のものがある。

ランキンサイクル
復水タービンの基本となるサイクル。
再熱サイクル
蒸気タービンで圧力の低下した蒸気を再び加熱して使用し、熱効率を上げるもの。
再生サイクル
サイクルの途中から抽気した蒸気で復水を加熱して、燃料消費量を抑えるもの。
再熱・再生サイクル
再熱サイクル・再生サイクルを組み合わせたもの。
カリーナサイクル
非共沸混合媒体を利用した高効率サイクル。

構造

21世紀現在の蒸気タービンは、軸方向に蒸気が流れる軸流タービンだけが作られている。[注 3]

多数の動翼(回転翼、ローター)が回転軸を囲んで取り付けられ、ほぼ同数の静翼(固定翼、ステーター、ガイドベーン)が回転軸を囲んで外部壁面から取り付けられている。ほとんどの蒸気タービンで、動翼と静翼の1組1段が多数段備えている。

温度と圧力の低下に従って、後段になるほど動翼と静翼の長さ、つまり回転面の直径が増す[7]

ノズル

車室(ケーシング)の蒸気入口から入った高圧高温の蒸気はノズルから初段のローターに向けて噴射される。ほとんどのタービンではノズルは全周には付いておらず、部分噴出になっている。

動翼・静翼など

回転側であるローターは、軸(回転軸、シャフト)、羽根車(ディスク)、動翼(ブレード)、シュラウドバンド類から構成される。多段式では複数のローターが静翼を挟んで並んでいる。

軸・羽根車
出力軸となる軸は剛性軸(リジッドローター)と弾性軸(フレキシブルローター)に分けられる。剛性軸は軸が太く丈夫に作られており、軸そのものの固有振動数に相当する危険回転数が定格回転数よりも高い物を指す。運転時にも危険回転数を意識する必要はない。弾性軸は軸が比較的細く作られており、危険回転数が定格回転数よりも低い物を指す。運転時でも特に始動時には必ず危険回転数を通過するため、危険回転数付近を速やかに通過させて共振状態に陥らないよう注意が必要である。また、軸は一体構造型とはめ込み型に分けられる。一体構造型は軸と羽根車が一体で作られており高速回転にも対応できるが、はめ込み型では軸と羽根車が別々に作られ組み合されたもので6,000回転/分程度までが上限である。
動翼
蒸気からエネルギを得て回転する(翼列)である。初段では短い動翼も終段に近くなるに従って少しずつ長くなる。発電用のものでは翼高さが最長1mを越す[注 4]。動翼は共振を避けるために互いが連接して隙間を作らないようにされる。動翼のルートが羽根車に植え込まれただけでは振動に弱いため外周部でのシュラウドバンドやダンピングワイヤーで横同士がつながれる。また、大きな遠心力にも耐える必要がある[注 5][2]。大きなローターではシュラウド・リングと回転軸の中間にもバンディング・ワイヤと呼ばれる金具が付けられる。固有振動数を高くするために先端を細く根元を太くしたテーパー翼形状や、翼先端部と翼根元部での周速度の違いから生じる蒸気流入角度の差を最小にする「ねじれ羽根」が採用されている。低圧段の羽根には翼に付く凝集水分をタービン・ケーシングのドレン溝へ誘導する溝が掘られているものがある。
静翼
固定されており、蒸気の流れが効率よく動翼へ流れるように導く。
衝動式と反動式
蒸気タービンは蒸気のエネルギーの利用のしかたにより衝動式と反動式に分類され、構造にも特徴がある。
衝動式
静翼部分で蒸気の圧力エネルギーを運動エネルギーに変換し、静翼から噴出する高速の蒸気に当たる衝動力によって動力が発生する。一段落当たりの熱落差を大きく取れるので段落数は少ないが、翼は大型で幅広となる。
反動式
動翼内でも蒸気の圧力エネルギーを運動エネルギーに変換し、動翼から噴出する蒸気の反動力も利用して回転力が発生する。一段落当たりの熱落差が小さく段落数は多くなるが、翼は小型となる[7]

車室

タービン翼を収めて蒸気を導入する容器をタービン車室(しゃしつ)と呼ぶ。静翼は車室のケーシングに固定されており、動翼が取り付けられた回転軸が車室両端の回転軸受けで保持される。反動タービンでは動翼と車室との隙間から蒸気が逃げないようにシーリング・ストリップと呼ばれるリング状の部品で塞いでいる。シーリング・ストリップはハニカム状の柔らかい金属か多孔質の素材で作られており、初めて動翼を動かす時に、意図的に接触することで形状の最適化が図られる。蒸気入り口には多数のノズルが取り付けられており、第一段ローターへ蒸気を吹き付ける。

蒸気タービンでは蒸気の圧力を有効利用するため、多くの段階の膨張を繰り返している。大型の蒸気タービンでは、圧力に応じていくつかの部分に分割されており、上流から順に高圧・中圧・低圧タービンと呼ばれる。また、蒸気体積が大きくなるため低圧タービンは複数台が並列に配置されることが多く、翼は、非常に長いものとなっている。

通常の蒸気の入口と出口の配管の他に、抽気や再熱、再生の蒸気配管も備わるものがある[7]

回転軸

動翼から得た回転力を外部に出力するのが回転軸である。反動タービンでは動翼とケーシングとの隙間が小さいため、回転軸は歪みが生じないように太く剛性の高いものになっている。衝動タービンでは軸端からの蒸気漏れを少なくするために、回転軸は細く弾性のあるものになっている。

回転軸は運転時と休止時の間で伸び縮みするため、両端は固定出来ない。普通は高圧側のスラスト軸受けで固定し低圧側の軸受けには遊びが設けられる。車室の伸び縮みは設置面に対しては低圧側で固定されており、高圧側のスラスト軸受けも車室の伸び縮みに合わせてズレが生まれる。このような組み合わせによって、回転軸のズレを最小にしている。

回転軸と静翼仕切り板との隙間からの蒸気漏れを最小にするために、ラビリンス・パッキン(ラビリンスシール)と呼ばれる何段ものヒレで蒸気の流れを遮断している[7]

その他

この他、回転数と蒸気流量を調節するための装置類や警報機を含む測定器類が付随する。調速方式には絞り調速方式とノズル締切調速方式がある。絞り調速方式では絞り弁で蒸気の流入を調整する。ノズル締切調速方式では車室の多数あるノズルへの蒸気の流れの開閉によって調整する[7]

長所と短所

一般的特徴

長所
  • 燃料の選択肢が広い。高温高圧の水蒸気が得られればその方法は何でもよく、石炭、石油、原子力廃棄物固形燃料から、ごみ焼却炉の熱も利用できる
  • 劣悪な燃料でも燃焼を最適化すれば比較的排気を浄化しやすい
  • 運転音が比較的静か
短所
  • ボイラーや復水器などの付帯設備が必要で大空間・大重量となる
  • 高効率化には大規模化が必要
  • 始動に時間がかかり、変動負荷運転や部分負荷運転に不適
  • 電動機のように回転方向を変更できない
  • ボイラー用精水の補給が常に必要

レシプロ式蒸気機関と比較して

長所
  • 膨張比が大きいため、熱効率が高い
  • 回転運動のため振動が少なく、しかも振動が高周波なので減衰させやすい
  • 摺動部が無く回転方向が一定のため、信頼性が高い
短所
  • 効率の良い回転域が狭い

レシプロ式内燃機関との比較

長所
  • 振動が少なく、高周波振動のため減衰させやすい。
  • 吸気・排気カムや点火装置などが無く、信頼性が高い
短所
  • 熱効率を高めたまま小型化するのは困難
  • 効率の良い回転域が狭い

ガスタービンとの比較

長所
  • 運転音が静かで燃料を選ばない
短所
  • ボイラー用精水の補給が常に必要[7]

注釈

  1. ^ 船舶用のエンジンとしてディーゼルエンジンと蒸気タービン+ボイラーを比べると、燃費と占有空間、重量、運用の簡便さの点でディーゼルが優れていた。
  2. ^ 再生サイクルでは抽気をボイラー給水の加熱に用いる。抽気によってタービン出力が落ちるが、抽気で給水をあらかじめ加熱することで総合的な熱効率の向上を図る。
  3. ^ 今日生産されている、液酸液水ガス発生器サイクルロケットエンジンや、エキスパンダーサイクルロケットエンジン用推進剤ターボポンプ駆動用蒸気タービンは、軸流タービンとは限らない。
  4. ^ 初段の翼の面積に対して終段の翼の面積は100倍にもなる。
  5. ^ 遠心力は、例えば100グラムの動翼が半径20cmの位置で8,000回転/分で回されると、1.4トン以上の荷重が掛かる。

出典

  1. ^ a b 角田哲也、斉藤朗『蒸気タービン要論』成山堂書店、2005年、1頁。 
  2. ^ a b c d e f 山岡勝巳 『蒸気タービン』 鳥影社、2001年12月5日初版第1刷発行、ISBN 488629619X
  3. ^ 池田良穂著 「船の科学」 BLUE BACKS 講談社 ISBN 978-4-06-257579-9
  4. ^ a b c ガスタービンの歴史”. 日刊工業新聞社. 2019年2月17日閲覧。
  5. ^ a b 角田哲也、斉藤朗『蒸気タービン要論』成山堂書店、2005年、1-2頁。 
  6. ^ a b c 角田哲也、斉藤朗『蒸気タービン要論』成山堂書店、2005年、2頁。 
  7. ^ a b c d e f g 刑部真弘著 『ターボ動力工学』 海文堂 2001年3月30日初版発行 ISBN 4303329118






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