肖像権 パブリシティ権

肖像権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 14:54 UTC 版)

パブリシティ権

著名性を有する肖像が生む財産的価値を保護する権利。著名性を有するということから、おのずとタレントなどの有名人に認められることになる。有名人の場合は、その性質上個人のプライバシーが制限される反面、一般人には認められない経済的価値があると考えられている。

例えば、有名人を起用したテレビコマーシャルや広告・ポスター・看板などを使って宣伝を行うと、より多くの人が関心・興味を持つようになるなど効果が期待され、結果的に有名人には集客力・顧客吸引力があると言える。この経済的価値を「パブリシティ権」(あるいはパブリシティー価値)と呼ぶこともある。アイドル歌手などの写真を勝手に販売したり、インターネットで配布するなどして問題になる。

民法に定められている権利が、日本国憲法に定められている権利に負ける恐れがあるため、近年、芸能事務所が芸能人と契約を結ぶ際には、契約書の中に「事前の承諾なしには画像の修正等は認めない」「過度の修正は認めない」「加工物の権利は、芸能プロダクション側に譲渡するものとする」などを、事細かに明記するのが通例となっている。

肖像権に関する問題の例

  • スター・ウォーズ・キッド - 私人の動画が本人の許可を得ず流出し、インターネット上で流行した事例。
  • 映画靖国 YASUKUNI問題 - 映画制作者が靖国神社の許可を取らずに施設内を撮影したとされる。
    • 特に参拝している自衛官の許可を取らないまま出演させ、映画宣伝のメイン映像にまで使用した点が問題とされている。また、主な出演者の一人であった刀匠は、作品内容が自身が想定していたものと異なっていたため、肖像権を根拠に自身を撮影した映像を削除するように要求した(ただし、これは肖像権というよりは期待権の侵害に近い)。
    • 映画監督は少なくとも刀匠に関しては事前の許諾があったと主張している。この口頭契約において不実告知が適用できるかどうかが論点となっている。ただし、主に問題となっているのは刀匠の配偶者の発言シーン(事前に許諾を取らなかったとされているため)。
    • この件に関してドキュメンタリー作家の森達也は、ドキュメンタリーにおいて全ての被写体から撮影許諾を取ることは事実上不可能であり、どんな内容であろうと全被写体の撮影許可を取るという慣行もないとしている[25]
  • 大日本スクリーン製造の関連会社である『マイザ』が製作・販売したCD『百人の顔』は、一般人約100人の顔写真を収録しているが、これについて、広告など商業目的利用への十分な説明が無いまま撮影し販売し、CDに収録の写真を使用した業者と被撮影者との間で、トラブルが頻発している。CDの販売は中止されたものの、既に販売されたCDは回収不能状態である[26]
  • 東京温泉事件(1956年)
  • 歯科大学教授全裸写真掲載事件(東京地裁1987年) ‐ 城西歯科大学補綴学教授がフィリピンで連日多数の女性と性行為にふけり、うち2名を日本のスナックで働かせるために観光ビザで入国させたという『週刊サンケイ』の記事中に、女性らと戯れる教授の顔と全裸写真などを掲載、教授が名誉毀損と肖像権侵害で訴えたが、東京地裁は報道の自由、公共の利害などの観点から棄却した[27][28]

パブリシティ権

  • ジョン・レノン事件 - 帝都高速度交通営団が遺族のオノ・ヨーコらに無断で、アンディ・ウォーホル作のジョン・レノンをコラージュした肖像画のプリペイドカードを発売した問題。交通営団は後に販売を自粛した。
  • ジャニーズ事務所など、所属タレントの写真を一部例外を除いて、ウェブサイトでの公開を許可していない芸能事務所がある[注 1]
  • スティーブ・マックイーン事件 - 映画栄光のル・マンの主演俳優の映像を、日本公開時のタイアップ企業宣伝に本人の許可を得ずに使用した事例。当時の日本では肖像権についてあまり知られておらず、裁判所も「日本の慣行上問題はない」として、不法行為成立のために、必要とされる過失は認められないとして、損害賠償請求を否定する判断をした[29]
  • ピンク・レディ事件 - 光文社女性自身』に掲載された記事「ピンク・レディーdeダイエット」において、被写体を無断使用されたとして、光文社に370万円の損害賠償を求めた訴訟事案。最高裁判所は2012年(平成24年)2月2日判決で、顧客吸引力を有する者の肖像等の無断使用であっても、正当な表現行為等として受忍されるべき場合もあると判示した上で、具体的には「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に」違法なパブリシティ権侵害となるとの判断基準を判示し、訴えはパブリシティ権侵害には当たらないとして、損害賠償請求を棄却する確定判決となった。
  • 下記のケースでは大衆との接触を職業とする者としての著名人に対する肖像権の侵害は認めなかったが、財産的権利の侵害として訴えの一部が認められた。

注釈

  1. ^ このほか、肖像権・関連著作権に厳格とされる事務所は研音グループオフィス・トゥー・ワンイザワオフィスなど。また、一部の音楽事務所・声優事務所でも肖像権等に厳格な会社がある。

出典

  1. ^ 以上の節は公益社団法人日本写真家協会 | 写真著作権と肖像権 | 著作権法のあらまし - 「著作権研究「肖像権・撮る側の問題点(公益社団法人日本写真家協会会報)」」より引用
  2. ^ 以上の節は「知っておくべき肖像権判例集(講演)」村上重俊(村上法律事務所)より引用
  3. ^ "「肖像権」は、自己の氏名や肖像をみだりに他人に公開されない権利" 文化庁. (2023). 令和5年度著作権テキスト. より引用.
  4. ^ "人の氏名,肖像等 ... は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される" 最高裁. ピンク・レディー事件判決文. より引用
  5. ^ "我が国では法律で「肖像権」... を規定したものはなく、これらの権利は判例によって確立された権利です。" 文化庁. (2023). 令和5年度著作権テキスト. より引用.
  6. ^ "「肖像権」は ... プライバシー権の一種とされています。" 文化庁. (2023). 令和5年度著作権テキスト. より引用.
  7. ^ 最高裁平成15(受)281号 損害賠償請求事件(肖像権侵害)
  8. ^ 東京高裁平成13年(ネ)第4931号 製作販売等差止等請求控訴事件
  9. ^ 知っておくべき肖像権判例集(講演)」村上重俊(村上法律事務所)
  10. ^ 山本桂一『著作権法』(有斐閣、昭和44年)248-250頁
  11. ^ (旧)著作権法 | 国内法令 | 著作権データベース | 公益社団法人著作権情報センター CRIC
  12. ^ 最高裁判例 昭和40(あ)1187 公務執行妨害、傷害事件 昭和44年12月24日 最高裁判所大法廷 判決
  13. ^ 最高裁昭和40(あ)1187号 公務執行妨害、傷害被告事件
  14. ^ 東京地裁平成16年(ワ)第18202号
  15. ^ “街でパシャ、サイトに無断掲載 肖像権侵害で35万円支払い命令/東京地裁”. 読売新聞. (2005年9月28日). "判決は、「ファッションを紹介する公益性は認められるが、本人が特定できる全身写真を掲載する必要はない」と述べた。" 
  16. ^ [1] 裁判所
  17. ^ a b c 日本大百科全書(ニッポニカ)「肖像権」
  18. ^ 公務員の肖像権
  19. ^ みずほ中央法律事務所
  20. ^ 平成17年11月10日最高裁判例(肖像権侵害)
  21. ^ 肖像権と著作権をちょっとだけ解説
  22. ^ マークレスター事件判決
  23. ^ 日本中学校体育連盟
  24. ^ 札幌高裁平成19(う)73号 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
  25. ^ 言論の自由を宝の持ち腐れにしないために - マル激トーク・オン・ディマンド - ビデオニュース・ドットコム
  26. ^ 顔写真:無断で広告に CD販売、回収不能--東京の業者 毎日新聞 2009年1月4日
  27. ^ 東京地方裁判所 昭和57年(ワ)14244号 判決大凡例
  28. ^ 『政界往来』第49巻、財界往来社、p88
  29. ^ NMRC:スティーブ・マックィーン事件 | ネットワーク音楽著作権連絡協議会
  30. ^ NMRC:おニャン子クラブ事件 | ネットワーク音楽著作権連絡協議会
  31. ^ NMRC:マーク・レスター事件 | ネットワーク音楽著作権連絡協議会


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