細胞周期 静止期(G0期)

細胞周期

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/30 03:58 UTC 版)

静止期(G0期)

G0期は、細胞分裂も分裂の準備も行われていないG1期が延長している状態ととも、細胞周期から分かれた活動停止状態とも捉えられている[要出典]。また、神経細胞や心筋細胞などは、細胞分化の果てに有糸分裂の後分裂を止め、成熟し、残りの寿命期間を本来の機能を発揮し続ける。これらの細胞にとってG0期は細胞周期外の非分裂状態にあることからG0期は「有糸分裂後」とも言われることもある。細胞質分裂をしない多核筋細胞もG0期にあると表現される。「有糸分裂後」という用語は、時折G0期と細胞の老化の両方を示す際に使われる。多細胞真核生物における非増殖性細胞は一般的にG1期からG0期に入り、長期に、時には(神経細胞の場合などは特に)無制限にG0期にとどまることがある。完全に細胞分化した細胞のほとんどはG0期に入る。細胞の老化は、子孫細胞が成長できなくなるようなDNAの損傷や劣化に反応してなる状態である。細胞の老化とは、損傷を受けた細胞を自己破壊するアポトーシスの生化学的代替手段ともいえる。

細胞周期の制御

細胞周期エンジン(Cdk/サイクリン複合体)

細胞周期の進行は、Cdk(cyclin-dependent kinase, サイクリン依存性キナーゼ)とサイクリン(cyclin)の複合体によって制御されている。Cdk/サイクリン複合体は、細胞周期を前に進めることから、細胞周期エンジン(cell cycle engine)と呼ばれる。動物細胞では、複数のCdk/サイクリン複合体が細胞周期の進行に関わっている。G1期からS期へ進むにはCdk2/サイクリンE複合体、S期からG2期への進行にはCdk2/サイクリンA複合体、G2期からM期への移行にはCdk1/サイクリンB複合体の活性が必要である(Cdk1はCdc2とも呼ばれる)。必要なときに必要な複合体のみ活性化するために、細胞内では、各サイクリンの転写の制御やユビキチン依存的な分解、Cdkはリン酸化脱リン酸化などの修飾による活性の制御が行われている。

細胞周期チェックポイント

正常な細胞分裂を保障するために、G1/S期など重要なところで細胞周期の進行を正常に行えるか監視するポイントがあり、これを細胞周期チェックポイント機構という。 細胞周期チェックポイントは、DNA未複製チェックポイント紡錘体集合チェックポイント染色体分離チェックポイントDNA損傷チェックポイントからなる。

  • DNA未複製チェックポイン ト
    DNA未複製チェックポイントは、DNAの複製が完了して分裂期へと進む準備が整っているかを監視している。DNAの複製が未完了であると、ATR-Chk1依存的にM期への移行に必要なCdk/サイクリン複合体の活性化を阻害し、細胞 周期を停止させる。
  • 紡錘体集合チェックポイント
    紡錘体集合チェックポイントは、M期後期で、紡錘体の形成が正常で分裂期の後期に移行できる状況かをチェックしている。紡錘体の形成に失敗していると、Mad2が微小管と結合していない動原体依存的に活性化され、分裂後期開始に必要なCdc20の活性を阻害し、染色体の分裂を停止する。
  • 染色体分離チェックポイント
    染色体分離チェックポイントは、M期終期に、正常な染色体分配がなされたかをチェックしている。染色体分配に失敗していると、Cdc2/Cyclin B複合体が活性を失わず、細胞質分裂に移れない。
  • DNA損傷チェックポイント
    DNA損傷チェックポイントは、G1期、G1/S期、S期、G2/M期で働き、DNAに損傷も変異もない正常なDNA合成を保障している。この機構は、ATM/ATRがそれ自身によってか、あるいはその他の因子によって、DNA損傷を認識することによって活性化され、これが下流のChk1/2p53Baxなどを活性化することによって、DNA修復アポトーシス老化などによって、望まれない遺伝情報の喪失や細胞のがん化を防いでいる。

関連項目


  1. ^ Smith JA, Martin L (April 1973). “Do cells cycle?”. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 70 (4): 1263–7. PMC 433472. PMID 4515625. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC433472/. 
  2. ^ a b Harvey Lodish; Paul Matsudaira; Monty Krieger; Arnold Berk; Chris A. Kaiser (2005). 分子細胞生物学. 石浦章一; 須藤和夫; 丸山工作; 石川統; 野田春彦 (5th ed.). 東京化学同人. ISBN 978-4807906154 
  3. ^ Nelson DM, Ye X, Hall C, Santos H, Ma T, Kao GD, Yen TJ, Harper JW, Adams PD (November 2002). “Coupling of DNA synthesis and histone synthesis in S phase independent of cyclin/cdk2 activity”. Mol. Cell. Biol. 22 (21): 7459–72. PMC 135676. PMID 12370293. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC135676/. 
  4. ^ Wu RS, Bonner WM (December 1981). “Separation of basal histone synthesis from S-phase histone synthesis in dividing cells”. Cell 27 (2 Pt 1): 321–30. doi:10.1016/0092-8674(81)90415-3. PMID 7199388. 
  5. ^ Cameron IL, Greulich RC (July 1963). “Evidence for an essentially constant duration of DNA synthesis in renewing epithelia of the adult mouse”. J. Cell Biol. 18: 31–40. PMC 2106275. PMID 14018040. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2106275/. 
  6. ^ Huang, J. H.; Park, I.; Ellingson, E.; Littlepage, L. E.; Pellman, D, (July 2001). “Activity of the APC Cdh1 form of the anaphase-promoting complex persists until S phase and prevents the premature expression of Cdc20p”. Journal of Cell Biology 154: 85–94. doi:10.1083/jcb.200102007. PMC 2196868. PMID 11448992. http://biosupport.licor.com./docs/odyssey/pubs/TexasChildrensPaper.pdf. 
  7. ^ 名称はMitosis(有糸分裂)に由来するが、M期は有糸分裂と続く細胞質分裂を含めた1個の母細胞が2個の娘細胞に分かれる分裂過程全体を示す。
  8. ^ De Souza CP, Osmani SA (2007). “Mitosis, not just open or closed”. Eukaryotic Cell 6 (9): 1521–7. doi:10.1128/EC.00178-07. PMID 17660363. 
  9. ^ Lilly M, Duronio R (2005). “New insights into cell cycle control from the Drosophila endocycle”. Oncogene 24 (17): 2765–75. doi:10.1038/sj.onc.1208610. PMID 15838513. 


「細胞周期」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「細胞周期」の関連用語

細胞周期のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



細胞周期のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの細胞周期 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS