焼夷弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/23 18:08 UTC 版)
不発弾事故
黄燐焼夷弾の不発弾が地中に埋まり、それを含んだ土や岩が掘り起こされたりなどして空気に触れ発火する、という事故が沖縄やフィリピンで起こり、新種の鉱物か、と騒がれたことがある。
日本でも、2008年9月24日に青森県青森市栄町二丁目の住宅新築工事現場で、ショベルカーで掘削作業をしていたところ、中から掘り当てられたM47六角焼夷弾の破片に残っていた黄燐が酸化し一時炎や煙が上がった。陸上自衛隊第9師団が出動して同日15時ごろ不発弾を回収した。
規制
特定通常兵器使用禁止制限条約の附属議定書3において、民間人や人口密集地付近の目標に対して使用することは禁止された。ただし、イスラエル、韓国、トルコなどは未締約である[1]。
第二次世界大戦に投入されたアメリカ軍の焼夷弾
- M47A2
- 4ポンド(約 1.8kg)のナパーム弾。外形は六角柱。6発ずつ束ねてT19集束機に搭載された。
- M50
- 4ポンド(約 1.8kg)のテルミット・マグネシウム弾。外形は六角柱。110発を束ね、M17集束焼夷弾(公称重量500ポンド)として投下された。
- M76
- 公称重量500ポンド、実重量約480ポンド(約 218kg)の、大型のナパーム・マグネシウム弾。
M69
6ポンド(約 2.7kg)のナパーム弾。外形は六角柱。
木造の日本家屋を効率よく焼き払うため、第二次世界大戦時に米軍が開発した焼夷弾。M69焼夷弾1発あたりの大きさは、直径8cm・全長50cm・重量2.4kg程度。
M69は単独では用いられず、1基当たり38発のM69を子弾として内蔵するクラスター爆弾(E28・E36・E46・E48集束焼夷弾、いずれも公称重量500ポンド)として投下された。投下後上空700m程度でこれらが分離し、一斉に地上へ降り注ぐ。
M74
従来型に黄燐を入れ威力を高めた新型焼夷弾。
M74六角焼夷弾38本を束ねた「E48集束焼夷弾」として投下された。青森大空襲(1945年7月28日)が、その実験場となり83,000本ものM74六角焼夷弾が降り注ぎ東北地方最大の被害を青森市に与えた。米国戦略爆撃調査団は「M74は青森のような可燃性の都市に使用された場合有効な兵器である」と結論している。
「火の雨」に見える理由
焼夷弾の発火は、対象への激突後である。しかし『火垂るの墓』をはじめとする戦時中を題材にした映画などでは、焼夷弾が「火の雨」となって落下する描写がある(多くの空襲被災者の証言にも見られる)。そのため、空中で発火して焼夷剤に引火させると誤解されていることがある。しかしこのときの火は、焼夷剤によるものではない。
焼夷弾には、目標(木造家屋の瓦屋根など)への貫通力を高めるため、姿勢を垂直に保つ目的のストリーマーと呼ばれるリボン(青く細長い布)が取り付けられている。上空での分離時に使用されている火薬によって、このリボンに着火し、それがあたかも火の帯のようになり一斉に降り注ぎ、火の雨が降るように見えたと言われている[2]。なお、親爆弾の開裂には爆薬を用いず、従ってストリーマーにも火がつくことはなく、風圧ではためくストリーマーに、地上の火災が反映して、「火の雨」に見えたのではないかと示唆する説もある[3]。
“モロトフのパン籠”
E46収束焼夷弾には「モロトフのパン籠」という異名がついた。この異名はもともとは冬戦争(第一次ソ芬戦争)時のソ連の外務大臣、ヴャチェスラフ・モロトフの発言に基づき、構造がパン籠を連想させる収束焼夷弾コンテナに対してフィンランド国民が名付けたものである。
フィンランドの都市への空爆を非難されたモロトフ外相は「爆撃ではなく、(フィンランドの)人民にパンなどを投下している」と言い張ったとされ、その発言に対し、フィンランド国民はソ連の小型焼夷弾60発を収納するコンテナを"モロトフのパン籠"と呼ぶ事で応じた。また、フィンランド兵は"お返し"として対戦車用の火炎瓶を「モロトフに捧げるカクテル」と呼んだ。
なお、この逸話から火炎瓶の代名詞として"モロトフ・カクテル"という呼称が用いられるようになった[4]。
脚注・出典
- ^ Where global solutions are shaped for you | Disarmament | States parties and signatories
- ^ 平塚柾緒 『日本空襲の全貌』洋泉社、2015年、32頁。ISBN 978-4800305954。
- ^ “【動画】終戦の日まで続いた空襲…街を焼き尽くした焼夷弾とは。CGや資料映像で解説”. 朝日新聞 (2019年8月15日). 2019年9月22日閲覧。
- ^ “How the Molotov Cocktail Got Its Name”. NYTimes.com. 2018年10月22日閲覧。
焼夷弾と同じ種類の言葉
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