概型 概型の概要

概型

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 20:45 UTC 版)

スキームを通じて圏論的に定義される様々な概念は、大きな威力を発揮するが、その一方で、古典的な代数幾何においては点とみなされなかった既約部分多様体のようなものまでがスペクトルの「点」になってしまう。このためヴェイユザリスキ流の代数幾何学(これ自体大幅な形式化によって前の世代の牧歌的なイタリア流代数幾何に引導を渡すものだったのだが)を習得して研究していた同時代の学者たちからは戸惑いのこもった反発を受けた。

定義

環のスペクトル

可換環 A に対して、 A素イデアルの全体の集合 Spec(A) は Aスペクトルとよばれる。A の部分集合 M に対し

とおくと、{V(M) : MA } は Spec(A) 上の閉集合系の公理を満たす。これによって定まる位相はザリスキー位相とよばれる。A の元 f に対して

とおくと、{D(f) : fA} は Spec(A) の開集合の生成基となる。fの形式的逆を付け加えて局所化した環 A[1/f] のスペクトルは D(f) と同相になる。

アフィンスキーム

A のスペクトル Spec(A) は以下のようにして局所環付き空間の構造を持ち、その構造も込めてアフィンスキームまたはアフィン概型とよばれる。Spec(A) の開集合 U に対し、

A の空でない積閉集合である。開集合 U に対してSUに関するAの局所化 SU−1A を与える対応は Spec(A) 上の局所環の層になり、OSpec A と書かれる[要出典]。この構造層OSpec A は、スペクトルの開集合の生成基 D(f) (fA) に対し A[1/f] を与える層として特徴づけられる。

A の素イデアル p に対して OSpec(A)p におけるを考えることができるが、これはp における A局所化 Ap と同型である。また、A の元 f に対して、環 OSpec(A)(D(f)) は Af についての局所化 A[1/f] と同型になっている。

環の準同型 f: AB が与えられたとき、局所環付き空間の射 Spec B → Spec A が次のようにして自然に定まる。底空間の間の連続写像は Spec Bpf−1p ∈ Spec Aによって与えられ、「構造層の間の射」 OAf*OBSU−1Af(SU)−1B によって与えられる。

逆に、アフィン概型間の射 g: XY が与えられると、環の準同型 Γ(g): Γ(OY) = OY(Y) → Γ(OX) が導かれ、この対応 A → Spec(A) と X → Γ(OX) によって、環の圏と、アフィン概型の圏は圏同値となる。

スキーム

アフィンスキームの張り合わせとしてえられるような局所環付き空間は前スキームまたは概型スキーム)とよばれる。グロタンディークのEGAやマンフォードの「Red Book」など初期の文献には概型/スキームという用語で前スキームのうちで特に点の分離性を満たすものをさしているものもある。

スキームについての諸概念

スキーム間の射の中で、位相空間に対応するものとして、分離射と固有射の二つがある。スキーム間の射については、構造層や加群の層を考える必要がある。スキームの内在的な幾何については因子の概念が重要な役割を果たす。スキームから射影空間への射では、可逆層やその大域切断で特徴付けられる。


注釈

  1. ^ Schappacher (2007, p. 10) によれば、ザリスキーは1938年から自分流の代数幾何学の基礎を考え始めている。
  2. ^ ただし、Chevalley (1955)Nagata (1956) でこの講演が参考文献としてあげられているわけではない。また Chevalley (1955) で考察されているのは体上の代数幾何学だけである。
  3. ^ Kk 上の自己同型群の意と思われる。
  4. ^ グロタンディークは永田の論文を知っていた。Dieudonné (1989, p. 305) 参照。
  5. ^ アンドレ・マルティノー英語版のことと思われる。

出典

  1. ^ Schappacher 2007, p. 248.
  2. ^ a b c McLarty 2003, p. 13.
  3. ^ Schappacher 2007, pp. 252–253.
  4. ^ Weil 1962.
  5. ^ Weil 1962, p. vii.
  6. ^ Serre, Jean-Pierre (1999). “André Weil. 6 May 1906 — 6 August 1998”. Biographical Memoirs of Fellows of the Royal Society 45: 524. doi:10.1098/rsbm.1999.0034. https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbm.1999.0034. 
  7. ^ 新訂版 数学用語 英和辞典, p. 90, - Google ブックス
  8. ^ Weil 1962, p. 68.
  9. ^ Dieudonné 1985, p. 65.
  10. ^ Weil 1962, p. xi.
  11. ^ Schappacher 2007, p. 276.
  12. ^ Weil 1949.
  13. ^ Weil 1949, p. 507.
  14. ^ The Grothendieck Festschrift, Volume I, p. 7, - Google ブックス
  15. ^ Serre 1955.
  16. ^ Dieudonné 1985, p. 102.
  17. ^ Serre 1955, p. 197.
  18. ^ Serre 1955, p. 233.
  19. ^ McLarty 2016, pp. 259–260.
  20. ^ Chevalley 1955.
  21. ^ Chevalley 1955, p. 3.
  22. ^ Nagata 1956.
  23. ^ Cartier 1956a, p. 1.
  24. ^ Cartier 1956a, p. 9.
  25. ^ McLarty 2003, p. 16.
  26. ^ Cartier 1956b.
  27. ^ Cartier 1956b, p. 18.
  28. ^ Grothendieck-Serre Correspondence, p. 25, - Google ブックス
  29. ^ Grothendieck 1960.
  30. ^ Grothendieck 1960, p. 106.
  31. ^ a b c McLarty 2003, p. 14.
  32. ^ McLarty 2003, p. 17.
  33. ^ Serre, Jean-Pierre (1989) (PDF), Rapport au comité Fields sur les travaux de A. Grothendieck (1965), p. 4, https://agrothendieck.github.io/divers/rapportserre.pdf 
  34. ^ Mumford, David (2009) (PDF), My Introduction to Schemes and Functors, p. 4, https://www.dam.brown.edu/people/mumford/beyond/papers/2014b--Recollections-AGroth.pdf 
  35. ^ Dieudonné 1989, p. 306.
  36. ^ Kleiman, Misconceptions about KX, L'Enseignement Mathematique.





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