未来派 概要

未来派

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/04 07:25 UTC 版)

概要

1909年イタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティによって「未来派宣言[2]が起草されたことが発端である。よりセンセーショナルにするため前世紀の有名な共産主義者宣言(1848年)に倣い、題名にはマニフェストが使われた。内容は前年に出版されたジョルジュ・ソレルの「暴力論」(1908年)に影響されており、あらゆる破壊的な行動を讚美する非常に過激なものだった。未来派の思想は「未来主義」と呼ばれることもある。

主要な芸術家美術家としては以下のような人物が挙げられる。

未来派の背景と展開

産業革命以降、ヨーロッパでは中世の封建社会から資本主義社会への転換が起こり、それに伴い様々な社会情勢も劇的な変化を遂げた。また、科学技術の進歩により戦争に人間を大量に殺戮する「兵器」が投入され、近代戦争へと変容した。旧来の価値観の変化と、それに伴う社会不安を背景に、19世紀末頃より「表現主義芸術」が興隆し始める。

未来派は、表現主義芸術の影響を受けつつも、もっと純粋に肯定的に、近代文明の産物や、機械の登場によって生まれた新たな視点を、芸術に取り入れようとした。画家達は、今で言う高速度撮影の連続写真のように、主題となる対象物の動きを一枚の絵に同時に描くことで、運動性そのものの美を描こうとした。マリネッティが「動力派」というネーミングも候補にしていたことから、未来派が志向していたところがわかる。ルイジ・ルッソロは、ノイズミュージックの原点とも言えるミュージック・アート「騒音芸術」を創造した。この運動に作曲家のジャチント・シェルシは最年少で加わった。

未来派が礼賛したのは、工業機械文明や都市化に欠かせない速度・運動・雑音(ノイズ)といったテーマであり、それは例えばスポーツ・自動車・飛行機・都市・鉄道・機械などに表象され、究極的には戦争の賛美にも繋がっていった。

未来派の芸術家たちの一部はやがて、好戦的で戦争や破壊を新しい美とする部分の認識で共通していたファシズムの政治運動とも関わりを深めていく。首唱者のマリネッティ自身も、右翼行動団体「戦闘ファッシ」(イタリアファシスト党の前身)の一員だった。しかし、1920年5月、ベニート・ムッソリーニが「国王及び教皇の追放」という未来派の要求を排した事などから、マリネッティを始めとする未来派の多くが党から脱退した。1922年共産主義の文化組織が主催する未来派の展覧会が複数開催、しかしムッソリーニ政権が誕生した1923年、マリネッティは未来派とファシズムの友好関係を謳う声明を発表、1924年、再びマリネッティはファシスト党へ再入党する。その過程において、思想的矛盾やファシズム政党への反発などにより芸術家達の内部離反を招き、後期には未来派は「退廃芸術」とイタリア国家から看做されて活動が制限され、崩壊していく。

未来派の芸術運動は、ロシアでも起こり、その後のロシア構成主義芸術や、ダダイズムの画家達、現代音楽や演劇バレエなどに伝播し、様々なジャンルの前衛芸術家達に影響を及ぼした。一部の芸術家がファシズムと結びついたことで、評価を受けなかった時期もあったが、政治的な立場が異なったアントニオ・グラムシなどからの評価や、現代においては、工業的テクノロジーを芸術に取り入れた先駆性の部分が再評価されている。

未来主義創立宣言より

『……機銃掃射をも圧倒するかのように咆哮する自動車は、《サモトラケのニケ》よりも美しい。……』(未来主義創立宣言(1909年)より引用)

フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティは1909年2月29日、パリの「フィガロ」紙に「未来主義創立宣言」[2]を発表した。全11箇条のうちの第4条に、この有名な言葉が登場する。「速度の美」の華々しい称揚である。それを体現するのが「自動車」、対照的に引き合いに出されるのが「サモトラケのニケ」である。


  1. ^ 福田和也 『イデオロギーズ』新潮社 2004年5月
  2. ^ a b c フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ|未来派宣言|ARCHIVE”. ARCHIVE. 2023年12月14日閲覧。
  3. ^ こうした初期の未来派受容については、大谷省吾「イタリア未来派の紹介と日本近代洋画」(筑波大学芸術学研究誌 9 105-126頁, 1992年03月)を参照
  4. ^ ただし、以上の経緯から、日本においてブルリュークを通じて受容された未来派が「イタリア未来派」ではなく「ロシア未来派ロシア語版英語版」であることに留意する必要がある。





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