家制度 沿革

家制度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 16:35 UTC 版)

沿革

戸主の制度は、最も古くは大化の改新に始まる。孝徳天皇の代における政治体制整備のため、古代から存在した家内の統率者たる家長に戸主の地位を与え、対外的な権利義務の主体としたのが始まりである[1][2]

前近代における「家」は、あたかも莫大な権利義務を有する法人のようなものであった。家長個人は権利義務の主体ではなく、家の代表者として強大な権利を行使するかわりに、家産・家業・祭祀を維持する重い責務を負う存在にすぎなかった。ところが明治維新によって職業選択の自由が確保されると、このような生活モデルは崩壊する。諸外国の例を見ても、家族制度が徐々に崩壊して個人主義へ至ることが歴史の必然と思われたが、かといって未だ慣習として根付いている以上、法律をもって強引に無くすことも憚られた。そこで、近い将来の改正を前提とし、所有権平仄を整え、戸主権の主体を家ではなく戸主個人としたうえで家産を否定し、戸主の権限を従前よりも大幅に縮小する過渡的な暫定規定を置くこととしたのである[3][4]

なお、朝鮮では、日本による朝鮮支配の下で家制度を含む日本民法(1947年12月31日以前のもの)が朝鮮民事令により、依用された。ただし、当初は、民法の親族・相続に関する規定は依用せず、朝鮮の慣習に依るとした。その後、徐々に依用の範囲が拡大されたものの。最後の段階でも、民法のうち依用されたのは、氏、婚姻年齢、裁判上の離婚、認知、婿養子、親権、後見、保佐人、親族会、相続の承認及び財産の分離の規定[5]であり、家制度そのものはなお、朝鮮の慣習によることになっており、従って民法の依用により、日本の家制度が韓国に移植されとは言えない。しかし朝鮮戸籍令が、内地の戸籍法そのまま模倣したものであり、朝鮮戸籍令を通して,日本明治民法の家制度が朝鮮に定着・確定[6]し、1960年の大韓民国民法施行前まで続いた。台湾では、1945年に日本が降伏すると、中国本土で既に公布施行されていた中華民国の民法が適用された。


注釈

  1. ^ 旧民法が効力を持っていた戦前期(及び2021年現在でも各家庭・地域によっては)「家系の祭祀」を継ぐことが名誉ある責務と考えていたため、この規定が定められていた。

出典

  1. ^ 中村清彦「我国の家政と民法(三)」『日本之法律』4巻8号、博文館、1892年
  2. ^ 村上一博「『日本之法律』にみる法典論争関係記事(4)」『法律論叢』第81巻第6号、明治大学法律研究所、2009年3月、289-350頁、ISSN 03895947NAID 120001941063 
  3. ^ 岩田新『親族相続法綱要』(同文館、1926年)59-61頁
  4. ^ 宇野文重「明治民法起草委員の「家」と戸主権理解 : 富井と梅の「親族編」の議論から」『法政研究』第74巻第3号、九州大学法政学会、2007年12月、523-591頁、doi:10.15017/8837ISSN 03872882NAID 120000984402 
  5. ^ 朝鮮民事令第11条
  6. ^ 韓国における戸主制度廃止と家族法改正 - 立命館大学
  7. ^ 梅謙次郎『民法要義 巻之四親族法』和佛法律学校、1902年、50、111頁
  8. ^ 法典調査會『法典調査會民法議事速記録第四拾参巻』174丁
  9. ^ 栗原るみ「ジェンダーの日本近現代史(3)」『行政社会論集』22巻2号、福島大学行政社会学会、2009年、90頁
  10. ^ 平野義太郎『日本資本主義の機構と法律』明善書房、1948年、52-53頁
  11. ^ 梅謙次郎『民法要義 巻之四親族法』和仏法律学校、1902年、35-36頁
  12. ^ 我妻榮『民法研究VII 親族・相続』有斐閣、1969年、131頁、中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』集英社、2021年、125頁
  13. ^ 杉之原舜一『親族法の研究』日本評論社、1940年、3-8頁
  14. ^ 我妻栄遠藤浩川井健補訂)『民法案内1私法の道しるべ』(勁草書房、2005年)103-104頁, isbn 978-4326498444
  15. ^ 山本起世子「民法改正にみる家族制度の変化 : 1920年代~40年代」(PDF)『園田学園女子大学論文集』第47号、園田学園女子大学、2013年1月、119-132頁、NAID 110009534405 
  16. ^ 民法中改正法律(昭和16年3月3日法律第21号)
  17. ^ 我妻榮『民法研究VII 親族・相続』有斐閣、1969年、149頁
  18. ^ 穂積重遠『百萬人の法律学』(思索社、1950年)112頁
  19. ^ 我妻榮編『戦後における民法改正の経過』日本評論新社、1956年、42頁
  20. ^ 「夫婦同姓も中絶禁止もその価値観を他人に強制することではない」、iRonna、2015年12月16日
  21. ^ a b 「時代遅れの戸籍制度」、週刊金曜日、第838号、2011年3月11日





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