嫌がらせ 統計

嫌がらせ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 06:07 UTC 版)

統計

認知度

保険クリニックの2016年の調査では、聞いたことのあるハラスメントとして、1位はセクハラ、パワハラ(69.3%)、3位がマタハラ(58.8%)、4位がモラハラ(56.3%)となっており、全体的に男性よりも女性からの認知の方が高かった[22]

2019年度における都道府県労働局等への相談件数は、87,570件(前年度比5.8%増)であった[40]。労働局等への相談において「いじめ・嫌がらせ」に関するものは最も多く、しかも年々増加傾向にある。そのうち、セクハラは7,323件、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは4,769件、育児休業に係る不利益取扱いは4,124件などとなっている。

厚生労働省の2016年の調査では、パワハラを受けたことがあると回答した者は32.5%、パワハラを見たり相談を受けたことがあると回答した者は30.1%、パワハラをしたと感じたり、したと指摘されたことがあると回答した者は11.7%であった[40]

加害者・被害者

前述の保険クリニックの調査では、加害者の性別は、男性が67.6%、女性が15.0%、両方が17.3%であった[22]。また、立場は上司が最も多く、70.4%であった。

被害者の性別は、女性が29.5%、男性が23.7%であった[22]。被害を受けた場所は職場が最も多く、68.2%であった。具体的な内容としてはパワハラが最も多く、60.1%であった。女性の場合はパワハラとセクハラがほぼ同数であった。

対策

各国政府など

日本

日本政府の政策は、雇用機会における男女格差の均等[41]から性別を問わないハラスメントまで、対応の範囲を広げつつある[15]。厚生労働省が専門家を集め「職場におけるパワーハラスメント防止対策についての検討会」(座長:佐藤博樹中央大学教授)を設けるなど、パワハラの法規定の検討は2017年に入ってからである[42]。セクハラ対策は1997年と2004年に改正された男女雇用機会均等法[注釈 3]により規定[43]し事業主の責任を明文化[注釈 4]、2006年に大臣指針10項目[注釈 5]を定め、労働者を雇用もしくは派遣する事業主に「男女労働者へのセクシュアルハラスメント防止のための雇用管理上の措置」を義務付け責任[44]を明確化。また2012年には労働環境におけるパワハラの意識啓発と解決に向けたポータルサイトを公開した[15]。2017年にはマタハラについても同様の指針が定められ、2019年には、労働施策推進法改正によるパワハラ対策の法制化と、男女雇用機会均等法改正によるセクハラ対策の強化が公布された[45]。2020年には女性活躍・ハラスメント規制法が施行され、大企業にパワハラ相談窓口の設置などが義務付けられたが、禁止規定はなく、就活生やインターンなどは被害者として法律に明記されなかった[46]

ILO

国際労働機関 (ILO)は2019年6月22日、職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する条約を採択した[45]。同条約は、ハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす行為と慣行」などと定義し、それらを「法的に禁止する」と明記。労働者だけでなく、求職中の学生やフリーランスなども保護の対象とした。日本は、この採択には賛成したものの、批准はしていない[46]

フランス

フランスでは、ハラスメント、とりわけセクハラ対策がいち早く進んでおり、1992年に刑法で「セクハラ罪」が定義され、罰則規定が設けられた。その後、法改正を経て、2012年には「セクハラ法」が制定され、セクハラ定義の一層の明確化に加え、刑罰も「最長3年の拘禁刑」「最高4万5千ユーロの罰金」に厳罰化された。また、2001年には、職場におけるモラハラ防止策を盛り込んだ「社会近代化法」が成立した[45]

スウェーデン

スウェーデンでは、1993年に雇用環境法体系の中で、「職場における虐待に対する措置に関する政令」として、世界で初めて職場いじめの予防が法制化された。職場いじめは、被用者に対して行われる直接的で繰り返し行われる非難されるべき、明らかな敵対的行為と定義され、いじめ予防の責務は使用者にあるとも定められており、労使間においてハラスメント行為が禁止されている[45]

韓国

韓国では、2019年、改正労働基準法が施行され、職場でのいじめ行為の禁止が法制化された。ハラスメント対策が不十分な雇用主には最長3年の禁錮刑や最高3千万ウォンの罰金が科せられる可能性があり、ハラスメントによって労働者に健康被害が生じた場合の賠償請求権も保障されている。韓国においては、「カプチル」と呼ばれる職場でのハラスメント被害が深刻な社会問題であり、労働者の7割がいじめ被害に遭っているとの報告もある[45]

アメリカ

アメリカでは、ハラスメント禁止対策法のような法制化はされていない。これは、公民権法703条の、性別を理由として雇用を拒否または解雇する、もしくは報酬や条件などを差別待遇することを禁止する規定に、セクハラの禁止が含まれると解釈されているためである。判例では、職場でセクハラが発生した場合や、しかるべき措置を講じなかった場合について、使用者の責任を認めている。アメリカにおいては、パワハラに相当する行為は「mobbing」「bulling」などと呼ばれ、職場での集団いじめとして認識されており、セクハラや人種差別の4倍も見られる深刻な問題とされている[45]

芸能界

リスペクト・トレーニング

リスペクト・トレーニングは、職場でのハラスメントの防止のための取り組みで、ハラスメントに対しての理解を深めると同時に、「相手にリスペクトを持って接することができているか」と自問し、考える力を養うことを目的としたトレーニングである[47]

セクハラなどの被害体験を共有する#MeToo運動を受けてアメリカで導入が広がり、日本では、『全裸監督』以降に撮影されたすべてのNetflix作品で実施されている[47][48]ほか、NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人』でも導入された[49]

インティマシー・コーディネーター

アメリカでは、リスペクト・トレーニングのほかに「インティマシー・コーディネーター」の導入が広がっている。インティマシー・コーディネーターは、肌を露出する場面やベッドシーンなどの撮影で、役者と演出側との間に入って調整をするための専門家のことであり、事前に演出側と撮影の詳細についてすり合わせることで、台本に書かれていないキスシーンなど、役者が不本意な演技を強いられることを防止するためのものである[47][50]

2017年にアメリカで導入が始まり[48]、日本では、2021年のNetflix作品『彼女』で、水原希子の提案により初めて導入された[47]。アメリカでの専門の講習やトレーニングを受けた日本の公式のインティマシー・コーディネーターは、2022年時点で浅田智穂と西山ももこの2人である[51]

2022ユーキャン新語・流行語大賞の候補にノミネートされた[51]

脚注

注釈

  1. ^ 嫌がらせやハラスメントの内容に事件性や違法性があるかどうかは別の問題である。
  2. ^ 例えば、実名のSNSであるFacebookがその1つである。
  3. ^

    <男女雇用機会均等法> 第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため に必要な指針を定めるものとする。

  4. ^ 男女雇用機会均等法におけるセクシュアルハラスメント対策は、1997年と2004年に法改正を見ている。
    1. 平成9年均等法改正(平成11年4月施行) 女性労働者に対するセクシュアルハラスメント防止のための配慮を事業主に義務付け
    2. 平成18年均等法改正(平成19年4月施行) 男女労働者へのセクシュアルハラスメント防止のための雇用管理上の措置を事業主に義務付け
  5. ^ 均等法改正前の9項目から、被害者に対する措置と行為者に対する措置を個別に規定し、10項目としている。

出典

  1. ^ ハラスメントとは? 大阪医科薬科大学ハラスメント等防止委員会
  2. ^ ハラスメントとは 一橋大学
  3. ^ ハラスメント基本情報”. あかるい職場応援団. 厚生労働省. 2022年5月26日閲覧。
  4. ^ 職場で問題となる主なハラスメント行為とは?”. AGI損保. 2022年5月26日閲覧。
  5. ^ a b 古田典子 "講演「学生から社会人へ―ハラスメントの理解・予防・対応―」"『人権』22巻、立教大学2013年度春季人権週間プログラム 講演 (2014年3月31日)pp.19-38。
  6. ^ 石川 洋行「ハラスメントに変貌する「善意」 : 教育現象における贈与と暴力の社会哲学的理解に向けて」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第59巻、東京大学大学院教育学研究科、2020年、541-551頁、doi:10.15083/00079225 
  7. ^ パワー・ハラスメント防止ハンドブック”. 人事院. 2022年7月5日閲覧。
  8. ^ 「介護職へのセクハラ被害が深刻 暴言、暴力も多発 我慢強いられる風潮」東京新聞』2018年10月10日(2018年10月14日閲覧)
  9. ^ 裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のパワーハラスメント(パワハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-”. あかるい職場応援団 -職場のパワーハラスメント(パワハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-. 2019年5月15日閲覧。
  10. ^ 「ハラスメント」で検索 >”. 中央労働委員会命令・裁判例データベース. 厚生労働省中央労働委員会. 2019年5月15日閲覧。
  11. ^ 「嫌がらせ行為」で検索した結果”. 中央労働委員会命令・裁判例データベース. 厚生労働省中央労働委員会. 2019年5月15日閲覧。
  12. ^ 人権身の上相談(いじめ、差別、いやがらせなど人権問題) 武蔵野市
  13. ^ 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ審議会資料 厚生労働省(2012年(平成24年)1月31日)
  14. ^ 入江正洋「職場のパワーハラスメント : 現状と対応」『健康科学』第37巻、2015年、23-35頁、doi:10.15017/1515750NAID 120005607689 
  15. ^ a b c 職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けたポータルサイト「あかるい職場応援団」をオープンしました|報道発表資料”. www.mhlw.go.jp. 厚生労働省労働局. 2019年5月15日閲覧。
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  20. ^ a b c d SOGIハラ!エアハラ!他、最近聞くことが増えたハラスメント【41~50】”. en人事のミカタ. 2022年12月31日閲覧。
  21. ^ Ruth Evans (2012年11月5日). “Japan and blood types: Does it determine personality?”. BBC. https://www.bbc.com/news/magazine-20170787 2019年2月6日閲覧。 
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  23. ^ 「音響兵器・マイクロ波兵器攻撃?の報道を受けて」『世論時報』世論時報社、2019年3月1日。p. 6-8.
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  29. ^ 内定者に就活終了求める「おわハラ」の最新手口を専門家解説 NEWSポストセブン(2015年3月22日)
  30. ^ セカハラとは?ハラスメントへの対応を間違えると連鎖的に発生する問題”. ミツカリ (2020年10月31日). 2022年1月30日閲覧。
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  48. ^ a b 白河桃子. “セクハラ、パワハラが横行する業界を変えるか? Netflixのリスペクト・トレーニング”. ハフポスト. 2021年9月28日閲覧。
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  50. ^ 石原真樹「撮影の不安 俳優サポート 「インティマシー・コーディネーター」浅田智恵」『東京新聞』中日新聞東京本社、2022年10月22日、朝刊、15面。2022年12月18日閲覧。
  51. ^ a b "「濡れ場で女優を守る仕事」ではない!ドラマ『エルピス』でインティマシー・コーディネーターが果たした重要な役割". FRaU. 講談社. 29 November 2022. 2022年11月29日閲覧



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