大阪府和泉市元社長夫婦殺害事件 事件の概要

大阪府和泉市元社長夫婦殺害事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/02 09:06 UTC 版)

事件の概要

事件に至るまで

Sは2003年(平成15年)9月、大阪府泉南市内の建設会社に入社した[2]。この会社は、大阪府和泉市府中町内の、織物製造・販売会社の元社長である、被害者男性(事件当時74歳)宅の新築工事を、過去に手掛けたことがあった[2]

2003年11月22日頃、Sは夫婦宅敷地内に、新築工事の作業員として出入りしたが、その際、男性の妻(事件当時73歳)が所有していた、約30万円相当の高級腕時計を盗んだ[7][8]

2004年1月から2月にかけ、Sは男性宅の敷地内にある、会社事務所の新築工事を担当し、給水工事の手伝い・土の埋め戻しなど、力仕事を担当した[2]。Sは、被害者夫婦と面識はあったが、親しく話す間柄ではなかった[2]

その一方でSは、集金した工事代金を会社に振り込まないことがあった上、会社事務所・会社社長宅から、高級腕時計・多額の現金がなくなることが頻発したため、建設会社の社長が、Sを問い詰めたことがあった[2]。Sは「絶対に知りません」と否定したが、こうした金銭トラブルを理由に、社長は2004年6月、Sを解雇した[2]

事件発生

2004年12月3日午後7時40分頃から、翌4日8時30分頃までの間に[判決文 1]、当時消費者金融などに数百万円の借金があったSは[3]、男性宅の敷地内にある会社事務所にて[3]、夫婦をそれぞれ、男性は1回、妻は2回、重量のある棒状の鈍器で[判決文 1]、頭を殴って殺害した[判決文 1][3]。Sはその後、同日深夜から翌4日朝頃にかけて、妻名義の乗用車(約100万円相当)・男性の持っていた高級腕時計2個(計約140万円相当)を奪った[判決文 1][4]

事件翌日の12月4日、夫婦宅横にある事務所2階の床に、数か所の血痕があるのを、夫婦の長男が見つけた[9]。夫婦と連絡が取れないことから[9]、長男は大阪府警和泉警察署[10][11]、家出人捜索願を出した[10][11]。これを受け、捜査を開始した大阪府警和泉警察署は、夫婦宅横の会社事務所から、血痕・毛髪を採取した[5]。しかし、部分的にこれらを抽出・鑑定した結果、いずれも夫婦のもので、第三者が失踪に関与したことをうかがわせるような証言などもなかったため、残りは鑑定しないまま、「事件性は低い」と判断し、捜査を中断した[5]。同日昼頃、Sは同府泉佐野市内の質屋を訪れ、夫婦の持っていた高級腕時計を持ち込み、現金50万円を受け取った[12][13]

捜索願が出された12月4日と、さらに12月6日、国道26号上を、和泉市の夫婦宅付近から、同府阪南市方面に走行する、夫婦の乗用車の姿が確認された[14][15]。その間の12月5日には、両市の間に位置する、大阪府泉南市内で、警察官が夫婦の車を発見した[14]。警官は、パトカーで車を追跡したが、逃走され、運転者は確認できなかった[14]。12月7日までにSは、ドラム缶2個をホームセンターで購入したり、過去に高級腕時計を差し入れた質屋に、利息を支払ったりして、4日に得た50万円のうち、数日間でそのほとんどの、約40万円を使った[12]

Sは、当初はのこぎりを用い、夫婦の遺体をバラバラに切断した上で、ドラム缶詰めにして遺棄しようとしていたため、現場のガレージは、一時的な隠匿・作業場所として考えていた[判決文 1]。しかしその後、遺体の腐敗が進行するなどしたため、妻の遺体のみ、右脚部を切断しただけで、バラバラに切断することを断念し[判決文 1]、ドラム缶2個に夫婦の遺体を詰めた上で[3]、事件から4日後の12月7日[4]、夫婦宅から直線約20kmの距離にある[10]、阪南市新町の、シャッター付き貸しガレージを借りる契約を結び[4]、賃料1か月分[1]・保証金合計6万2000円を支払うと[12]、ガレージまで運転してきた夫婦の乗用車を駐車[2]、遺体入りのドラム缶をガレージ内に放置し、シャッターの鍵を返却しないまま、ガレージの管理者との連絡を絶った[1]。Sがガレージを借りたのと同日の12月7日、親族の携帯電話に、男性の携帯電話から「しばらく休むが、心配しないで」という内容の電子メールが届いた[14][15]。これに前後して、失踪当日の12月3日から、Sがガレージを借りた7日までに、男性の携帯電話から「温泉でゆっくりする。心配しないで」「会社事務所の血痕は妻の鼻血だ」など、数通のメールが届いた[16]。親族は、男性に電話を掛け直したが、12月下旬までドライブモードに設定された状態で、連絡は取れないまま、電源が切れた[14][15]。当時、メールを受け取っていた親族は、『朝日新聞』の取材に対し、「事件の数日後、自分の携帯電話に、しばらくしたら帰るから、という内容のメールが届いていた。警察からの連絡で、車があちこち移動していることもわかったので、最初は安心していた」と語った[15]

Sは、事件から1年後となる2005年(平成17年)12月、逮捕まで勤めていた堺市内の建設会社に入社し、会社の借り上げマンションで1人暮らしをしていた[2]。この建設会社の経営者は、『読売新聞』の取材に対し「ギャンブルや他の従業員とのトラブル、無断欠勤などはなく、真面目な印象だった」と語った[2]


判決文出典

  1. ^ a b c d e f 大阪地方裁判所堺支部第2刑事部判決 2013年(平成25年)6月26日 事件番号:平成22年(わ)第5号,平成22年(わ)第1209号,平成22年(わ)第1574号,平成23年(わ)第90号

報道出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 読売新聞』2009年11月27日大阪朝刊第一社会面39面「ドラム缶遺体 ガレージ元借り主を夫婦の車窃盗容疑で逮捕 /大阪府警」
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 『読売新聞』2009年11月27日大阪夕刊第一社会面17面「ドラム缶夫婦遺体 ガレージ車内から血痕 42歳建築作業員を窃盗容疑で逮捕」
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 『読売新聞』2010年12月4日大阪朝刊第一社会面39面「阪南ドラム缶遺体 夫婦強殺容疑 男を再逮捕 借金数百万円、車など奪う」
  4. ^ a b c d e f g h i j 『読売新聞』2009年11月27日東京夕刊第一社会面19面「ドラム缶遺体 駐車場借り主を逮捕 夫婦の車内に血痕/大阪府警」
  5. ^ a b c d e 『読売新聞』2010年3月9日大阪夕刊第一社会面15面「阪南ドラム缶遺体 大阪府警、証拠の血痕・毛髪紛失 夫婦失跡時に採取」
  6. ^ a b “強殺容疑で男を再逮捕 大阪ドラム缶遺体事件”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年12月8日). オリジナルの2017年12月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171208124320/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG03056_T01C10A2CC1000/ 2017年12月8日閲覧。 
  7. ^ a b c 『読売新聞』2009年12月18日大阪朝刊第二社会面34面「大阪・阪南のドラム缶遺体 別の窃盗容疑で元作業員再逮捕」
  8. ^ a b c 『読売新聞』2010年1月9日大阪朝刊第一社会面35面「腕時計窃盗で元作業員を起訴 ドラム缶の夫婦遺体 遺棄あいまい供述/大阪地検」
  9. ^ a b c d e f g h i j 『朝日新聞』2009年11月26日朝刊第一社会面35面「遺体そばに夫婦の車 5年空きの車庫内で 大阪・阪南のドラム缶遺棄【大阪】」
  10. ^ a b c d e f g h i j k 『朝日新聞』2009年11月26日朝刊1面「ドラム缶に2遺体 04年不明夫婦か 阪南【大阪】」
  11. ^ a b c d e f g h i j k 『中日新聞』2009年11月26日朝刊第二社会面32面「ドラム缶に男女2遺体 大阪・阪南の駐車場」
  12. ^ a b c d e f 『読売新聞』2010年12月4日大阪夕刊第一社会面13面「阪南夫婦強殺 逮捕の男 入手金大半1人で使う 『第三者存在』と矛盾?」
  13. ^ a b c 『読売新聞』2010年12月4日東京夕刊第一社会面15面「大阪ドラム缶殺人 入手金大半1人で使う 『第三者』存在せず?」
  14. ^ a b c d e f g 『読売新聞』2009年11月28日大阪朝刊第一社会面39面「大阪・ドラム缶遺体 失跡4日後、親族に『休む』 夫携帯から偽装?メール」
  15. ^ a b c d e f g h i j 『朝日新聞』2009年11月26日夕刊第一社会面15面「夫婦の車、阪南方面へ 『心配するな』メール 大阪ドラム缶遺体で府警捜査【大阪】」
  16. ^ a b c d e 『読売新聞』2010年12月5日大阪朝刊第二社会面34面「阪南ドラム缶遺体 生存装い親族にメール 逮捕男、夫の携帯で」
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m 『読売新聞』2009年11月26日大阪朝刊第一社会面39面「ドラム缶から男女の遺体 5年前不明 元経営者夫婦か/大阪・阪南」
  18. ^ 『読売新聞』2009年11月26日東京朝刊第一社会面39面「ドラム缶に2遺体 5年前に不明の夫婦か/大阪・阪南」
  19. ^ a b c d e f 『読売新聞』2009年11月26日大阪夕刊1面「ドラム缶遺体 ガレージ元借り主聴取へ カギ返却せず/大阪府警」
  20. ^ a b c d e f 『読売新聞』2009年11月26日東京夕刊第一社会面17面「駐車場でドラム缶に遺体詰めか 開封の砂袋残る 事務所に血痕も/大阪府警調べ」
  21. ^ 『読売新聞』2009年11月26日大阪夕刊第一社会面13面「阪南2遺体 車庫内でドラム缶詰めか 開いた砂袋発見/大阪府警」
  22. ^ a b c d e f 『読売新聞』2009年11月27日東京朝刊第一社会面39面「ドラム缶遺体 駐車場契約の男に逮捕状 元社長夫婦の車窃盗容疑/大阪府警」
  23. ^ a b c d e f g h i 『読売新聞』2009年12月18日大阪朝刊第一社会面37面「ドラム缶遺体 窃盗容疑者宅に夫婦のカード 入手の経緯追及/大阪府警」
  24. ^ a b c d 『読売新聞』2009年12月18日東京夕刊第一社会面11面「ドラム缶遺体 窃盗容疑者宅から夫婦のカード押収/大阪府警」
  25. ^ a b c d 『読売新聞』2010年1月7日大阪朝刊第一社会面33面「ドラム缶事件 『車庫に夫婦遺体運んだ』 窃盗容疑者が供述/大阪府警」
  26. ^ a b c d 『読売新聞』2010年1月7日東京朝刊第一社会面33面「大阪・ドラム缶事件 『夫婦の遺体運んだ』 窃盗容疑の男が供述」
  27. ^ 『読売新聞』2010年12月4日東京朝刊第二社会面38面「大阪のドラム缶遺体事件 夫婦強殺容疑 43歳再逮捕」
  28. ^ 『読売新聞』2010年12月6日大阪朝刊第一社会面33面「ドラム缶夫婦遺体 強殺容疑で男送検」
  29. ^ a b 『読売新聞』2010年12月25日大阪朝刊第一社会面33面「ドラム缶遺体 夫婦強殺で起訴」
  30. ^ a b c 『読売新聞』2011年1月15日大阪朝刊大阪市内版33面「ドラム缶遺体事件 元作業員を再逮捕 元同僚方で窃盗容疑=大阪」
  31. ^ a b c d 『読売新聞』2013年4月26日大阪朝刊大阪市内版31面「ドラム缶遺体事件 公判前手続き終了=大阪」
  32. ^ a b c d 『読売新聞』2013年5月7日大阪夕刊第一社会面13面「阪南ドラム缶遺体『区分審理』 被告、窃盗罪など否認 初公判」
  33. ^ a b c d 『読売新聞』2013年5月11日大阪朝刊大阪市内版33面「『裁判員』対象外 3事件結審 地裁堺支部 阪南ドラム缶遺体=大阪」
  34. ^ 『読売新聞』2013年5月16日大阪朝刊第二社会面30面「ドラム缶遺体 窃盗など有罪 地裁堺支部 部分判決」
  35. ^ a b c d 『読売新聞』2013年5月20日大阪夕刊第二社会面12面「元社長夫妻殺害 被告が無罪主張 ドラム缶事件初公判」
  36. ^ a b c 『読売新聞』2013年6月6日大阪朝刊大阪市内版31面「阪南ドラム缶遺体 遺族ら極刑求める 裁判員裁判=大阪」
  37. ^ a b 『読売新聞』2013年6月10日大阪夕刊第二社会面12面「ドラム缶遺体 死刑求刑 大阪地裁堺支部 元建築作業員に」
  38. ^ a b 『読売新聞』2013年6月11日大阪朝刊第一社会面39面「『殺害してない』無罪主張し結審 ドラム缶遺体事件」
  39. ^ a b c 『読売新聞』2013年6月26日東京夕刊第二社会面12面「ドラム缶遺体 死刑判決 大阪地裁支部 夫婦殺害『非人間的で残虐』」
  40. ^ a b c d e f 『読売新聞』2013年6月26日大阪夕刊第一社会面11面「ドラム缶殺人 死刑判決 地裁堺支部 夫婦強殺『被告が犯人』」
  41. ^ a b c 『読売新聞』2014年7月31日大阪朝刊大阪市内版27面「強殺、改めて無罪主張=大阪」
  42. ^ a b c 『読売新聞』2014年12月19日東京夕刊第二社会面18面「ドラム缶遺体 2審も死刑 大阪高裁」
  43. ^ a b c 『読売新聞』2014年12月19日大阪夕刊第二社会面14面「ドラム缶遺体 2審も死刑 阪南事件 『非人間的で冷酷』 大阪高裁判決」
  44. ^ 『読売新聞』2017年8月4日大阪朝刊第二社会面32面「ドラム缶遺体 11月弁論」
  45. ^ a b c 『読売新聞』2017年11月8日東京朝刊第二社会面32面「ドラム缶遺体 上告審が結審」
  46. ^ “大阪ドラム缶遺体 上告審弁論で無罪主張”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年11月7日). オリジナルの2017年12月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171208124247/https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23200510X01C17A1CC1000/ 2017年12月8日閲覧。 
  47. ^ 『読売新聞』2017年11月16日東京朝刊第三社会面33面「ドラム缶遺体 来月8日判決」
  48. ^ a b “被告の死刑確定へ 大阪のドラム缶遺体事件 強盗殺人罪、最高裁が上告棄却”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2017年12月8日). オリジナルの2017年12月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171208101326/http://www.sankei.com/affairs/news/171208/afr1712080044-n1.html 2017年12月8日閲覧。 
  49. ^ a b “夫婦強殺:50歳男の死刑確定へ 最高裁が上告棄却”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2017年12月8日). オリジナルの2017年12月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171208101441/https://mainichi.jp/articles/20171209/k00/00m/040/046000c 2017年12月8日閲覧。 
  50. ^ a b インパクト出版会 2017, pp. 205
  51. ^ インパクト出版会 2017.





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