偏光
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/05 16:02 UTC 版)
生物の眼と偏光の認識
人間の眼は光の強度と色を識別することはできるが、偏光はほとんど識別することができない。わずかに網膜の中心部に偏光特性があり、注意深く見ればハイディンガーのブラシとして知られるかすかな黄色と青色の筋が見えるが、これには個人差がある。 そのため一般には人間が偏光を識別するためには偏光子を通して見なければならない。
一方、昆虫は偏光を識別できる。昆虫の複眼の中には、特定の偏光方向に敏感な視細胞が色々な方位に規則正しく集合しているからである。昆虫は自然界の偏光をうまく利用している。例えば、ハチは天空の光の偏極を元にして太陽の見えない曇空であっても方向を間違えずに長距離を飛ぶことができる。また、ある種のカゲロウは生殖期になると水溜まりの反射光の偏光を頼りに集合する。カメムシやタマムシなどの一部の昆虫の体は液晶のような構造色を持っており、片方の円偏光のみを選択的に反射する。さらにシャコにいたっては、円偏光の回転方向を識別できる[2]。また、カマキリに寄生したハリガネムシは、偏光を識別できるカマキリの視覚を利用して、宿主を水辺へと誘導している[3]。
ポアンカレ球
任意の偏極状態は球上の点で表現できる。左円偏光は+z極、右円偏光は−z極である。水平偏極を+xとすると鉛直偏極は−xであり、+yと−yは対角方位の偏極となる。赤道上の他の全ての点は他の方位の直線偏光である。二色性の波長板を通ることは球を回転することに等しい。偏極子のy軸を横切る偏極 xの振幅の大きさはx軸とy軸の鏡面との距離の1/2となり、すなわち強度はとなる。
球による表現はアンリ・ポアンカレによって考えられたものであり、ウィリアム・シュルクリフ(William A. Shurcliff)によって英語で拡張されて論じられた。
反射と偏光
偏光に関係する概念として、以上のような「光それ自体」に関するものとは別に、異なる物質間の境界面で光が反射するときの「入射面」と「電場または磁場の振動方向」によって定義される概念がある。光学では、s波(s偏光)とp波(p偏光)とに区別される。定義や他の呼称については下記の「偏光の呼称」の表を参照のこと。光が境界面に入射するときには、その光をs波成分とp波成分とに分けることができ、全体としての反射率は(s波成分の割合×s波の反射率)+(p波成分の割合×p波の反射率)で表される。円偏光の場合には常に、s波成分の割合が50%、p波成分の割合が50%となる。p波の反射率は、どの入射角でもs波よりも以下である。ブリュースター角において反射率が0になるのはp波のみである。
注意が必要なのは、s波p波の概念は、入射面が存在するときしたがって光が異なる物質間の境界に入射するときにのみ定義される概念だということである。空気中を進む直線偏光を、その電場の振動方向(重力に対して水平か垂直か)によってs波あるいはp波と呼ぶことがあるが、誤りである。また、境界面に対して光が垂直に入射するときには、s偏光とp偏光との区別はない。
s偏光とp偏光は、それぞれ垂直・平行な偏光という意味であるが、何を基準に垂直・平行と考えているのか注意する必要がある。回折格子に光を入射して分光する系では、格子の方向を基準とする定義が一般的であるため、入射面を基準とする定義とは、反対になり、しばしば混乱される。
- ^ 光の百科事典、pp.577,580-593(著者: 柴田清孝)
- ^ Tsyr-Huei Chiou et. al., Curr. Biol., 18, 429-434 (2008)
- ^ (日本語) ハリガネムシは寄生したカマキリを操作し水平偏光に引き寄せて水に飛び込ませる 2021年7月9日閲覧。
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