井原西鶴 森銑三説

井原西鶴

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 23:20 UTC 版)

森銑三説

森銑三は、浮世草子の中で西鶴作品として扱われているもののうち実際に西鶴が書いたのは『好色一代男』ただひとつであり、それ以外は西鶴が関与したに過ぎない作品、または西鶴に擬して書かれただけで関与もしていない作品だと主張した。西鶴作品とされるもの総てを俎上に載せ、主に使用語句の検討から『好色一代男』以外を西鶴作品として認められないとしている[12]。古くは幸田露伴が『本朝桜陰比事』に、明治時代の国文学者である藤岡東圃が『万の文反古』に疑いを挟んでいた。

森が西鶴関与作品とするのは以下の21作品である。

また定本西鶴全集収録のうち摸擬西鶴作品と考えるのは以下の作品である。

21作品に共通する語句が『一代男』には見出されないことを端緒として疑いを持ち、それらの語句が西鶴門下の北条団水の作品である『昼夜用心記』や『日本新永代蔵』には次々と見出されることから、それらは団水が主に関わった作品として、文の質も『一代男』は俳諧趣味に基づく詩趣のある散文詩だと絶賛するが、その余の作品は悪文で詩の精神を欠いていると罵倒した[12]

森銑三説は近世文学研究者の間ではほとんど無視されており[13]、『新編 西鶴全集』『決定版 対訳西鶴全集』でも採用されていない。

西鶴作品を7品詞および5種類の助動詞で主成分分析した結果、「西鶴本浮世草子と模擬西鶴作品を明確に区別することはできず、『好色一代男』だけを西鶴の作品とする森説は計量的には裏付けられない」との指摘があり[14]、遺稿集についても『万の文反古』以外は西鶴によって執筆された可能性が高いとされる[15]など、統計学に基づく森説への反証が為されている。


注釈

  1. ^ 没年と没年齢からの逆算。
  2. ^ 大坂難波生まれとされていたが、現在では西鶴文学会でも、西鶴の出自は紀州井原家であることが解明されている[要出典]
  3. ^ 『西鶴大矢数』(1681年)の自跋に「予俳諧正風初道に入て二十五年」とあり、これは『誹諧石車』(1691年)の「西鵬誹道に入て三十餘年の執行」とも矛盾しない。
  4. ^ 『誹諧石車』に「西鵬詞に、俳諧程の事なれども、我三十年点をいたせしに」とある。
  5. ^ 翌年出版された『誹諧大坂歳旦』の西鶴句の詞書に「法躰をして」とある。またその句につけた鶴爪の「自由にあそばせ誹諧は花」から、この時に西鶴が隠居したという考えもある[要出典]
  6. ^ 「けんかずき」とよむ、つまり「喧嘩好き」

出典

  1. ^ 岡本勝, 雲英末雄編『新版近世文学研究事典』おうふう、2006年2月、30-31頁。 
  2. ^ a b c d e f 岡本勝, 雲英末雄編『新版近世文学研究事典』おうふう、2006年2月、74-77頁。 
  3. ^ a b c d e f g 中嶋隆編『21世紀日本文学ガイドブック4 井原西鶴』ひつじ書房、2012年5月、142-152頁。 
  4. ^ 『浮世草子目録』(『新群書類従』第七)貞享三丙寅年「西鶴が超凡雄健の筆になりし好色本は、流行其極に達し、翁が最得意の全盛期なりしに、本年遂に好色本差止の令は當路の有司より下されぬ」
  5. ^ 『土橋宗静日記』
  6. ^ (竹内玄々一 1892, pp. 48–49) 27コマ
  7. ^ 上之巻 井原西鶴「近代戯作者の逸なる近松門左衛門は此門にいづるといひ伝ふ」
  8. ^ 江本 裕, 谷脇 理史 (編)『西鶴事典』おうふう、1996年12月5日、27頁。ISBN 9784273029180 
  9. ^ 青空文庫、また『梵雲庵雑話』に収録されている。
  10. ^ 島村抱月、淡島寒月、水谷不倒、徳田秋声「五人女合評」、『早稲田文学』明治39年12月号。
  11. ^ 田山花袋「西鶴について」 『インキツボ』(1909年(明治42年))所収
  12. ^ a b 『西鶴と西鶴本』(元々社、1955年)、『井原西鶴』(吉川弘文館、1958年)
  13. ^ 谷沢永一『執筆論』(東洋経済新報社、2006年)
  14. ^ 上阪彩香 , 村上征勝「西鶴作品の文章分析―先行研究の計量文献学的検証」『研究報告人文科学とコンピュータ(CH)』第2巻第2011号、情報処理学会、1999年4月、1-7頁。 
  15. ^ 西鶴浮世草子の文章に関する数量的研究 ─遺稿集を中心とした著者の検討─-情報処理学会”. www.ipsj.or.jp. 2020年10月29日閲覧。






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