ライオット・ガール 歴史

ライオット・ガール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/11 09:19 UTC 版)

歴史

起源

ビキニ・キル(1991年)
ブラットモービル(1994年)

1970年代後半から1980年代半ばにかけて、スージー・スー英語版ポリー・スタイリン英語版など、後にライオット・ガールの精神に影響を与えた画期的なパンク・ロックやメインストリームロックの女性ミュージシャンが多数存在した。1980年代にはニューヨーク出身の多くの女性フォークシンガーが登場し、その歌詞は現実的・社会政治的であると同時に近しい印象も与えた[7]

1980年代半ばには、ジーン・スミス英語版が率いるカナダバンクーバーの音楽ユニット、メッカ・ノーマル英語版が結成されて影響力を示し、サンフランシスコの女性ハードコアバンド、シュガーベイビードールがこれに続いた[8]。その後、1988年に創刊され10代女子向けとしては難解な題材を扱っていた雑誌「Sassy英語版」において1989年に「Women, sex and rock and roll(女性、セックス、ロックンロール)」と題する記事が掲載され、流行の先鞭をつけた[8]

1990年代初頭のワシントン州オリンピアとシアトルでは、インディーズのアンダーグラウンドミュージックに携わる女性がパンク・ロックのファンジンを制作したりパンクバンドを結成したりすることでフェミニストの考えや欲求を明確に表現する基盤があった[7]。1991年には、アメリカキリスト教連合英語版による法的中絶反対運動や弁護士アニタ・ヒル最高裁判事クラレンス・トーマスセクシャル・ハラスメントで告発した問題といった女性にまつわる出来事が社会的な話題となり[9]、若いフェミニストたちは、音楽イベントのInternational Pop Underground Convention英語版などを通じて抗議の声を上げた[10]

1990年より、ライオット・ガール運動の旗手とされるバンド、ビキニ・キルがオリンピアで活動を開始する。ビキニ・キルは「Revolution Girl Style Now(さあ革命の少女のスタイルを)」と呼びかけ、デモアルバム『Revolution Girl Style Now!英語版』を1991年にリリースした[11]。また、1991年には、ビキニ・キルとともに運動の牽引役となるバンド、ブラットモービル英語版が同じワシントン州で結成される。ワシントンD.C.で暴動が発生していた1991年春、ブラットモービルのメンバーであるジェン・スミス英語版は、同じくメンバーのアリソン・ウルフ英語版への手紙の中で「girl riot(少女の暴動)」というフレーズを用いた[9][12][13]。同年には、活動に参加している女性ミュージシャンのロイス・マフェオ英語版がホスト役のラジオ番組「Your Dream Girl」が、オリンピアのラジオ局KAOS英語版で開始された[8]

衰退

1992年開催のイベント「Riot Grrrl Convention」を告知するファンジン

ライオット・ガール運動に携わる多くのミュージシャンは大手レコードレーベルを敬遠してインディーズレーベルのキル・ロック・スターズ・レコードKレコーズなどと組み、頑なにアンダーグラウンドの現象であり続けた[14]。しかし、雑誌や新聞での扱いが大きくなるにつれて、このまま主流になればライオット・ガールが歪むと考える強硬派とそれほどハードコアではないグループとの間に不和が生じ始める。10代の高校生当時にライオット・ガールの活動に参加していた作家のジェシカ・ホッパー英語版は後者で、1992年にニューズウィークからライオット・ガールに関する取材を受けた[15]後に個人攻撃をされていると感じ、これを機に活動から離脱した[16]

バンドの演奏スタイルは一部のジャーナリストに衝撃を与えたが、それは、しばしば誤った記事や敵対的な記事の執筆に繋がった。ビキニ・キルのボーカルであるキャスリーン・ハンナは、ワシントン・ポストがハンナは父親にレイプされたと主張したという虚偽情報を報じたと語っている[2]。また、イギリスの音楽ジャーナル紙「Melody Maker英語版」は、「ライオット・ガールができる最善のことは、立ち去って読書をすることだ。汚い小さなファンジンではなく」と記している[2]。こうした否定的な報道に対し一部のライオット・ガールの活動家は反メディアのスタンスをとるようになるが、これにより更なる否定的な話の助長に繋がった[2]。その後メディアの関心が薄れ、1995年にはライオット・ガールの終焉の話題が現れ始める[2]。1994年から1995年にかけてブラットモービルなど多くのライオット・ガール・バンドが解散し、ビキニ・キルも1997年に解散した。

こうした中、1995年には、元恋人との別れについて歌ったアラニス・モリセットの楽曲『ユー・オウタ・ノウ』がヒットして大衆の注目を集め、モリセットはフェミニストから新たなヒロインとして歓迎される[2]。また、これまでライオット・ガールと関連付けられていた「ガールパワー」という言葉は、イギリスのアイドルグループ、スパイス・ガールズがスローガンに用いたことで意味合いが変化し、彼女たちを象徴する言葉として若い女子の間に普及した[17]

その後の展開

ザ・リグレッツ(2016年)
プッシー・ライオット(2012年)

流行の衰退後も一部のライオット・ガール関連のミュージシャンは活動を続けている。ビキニ・キルのキャスリーン・ハンナは1998年にエレクトロニック・ロック・バンドのル・ティグラ英語版を結成し2010年からは別のバンド、ザ・ジュリー・ルイン英語版でも活動、2019年にはビキニ・キルを再結成しツアーを行っている[18]。また、ブラットモービルは1998年から2003の期間に活動を一時再開した。一方で新興のバンドも登場し、2015年結成のザ・リグレッツ英語版は、ライオット・ガールとドゥーワップなどの要素を融合させたスタイルをとっている[19]

ライオット・ガール運動はアジアヨーロッパ南アメリカでも広がりを見せている[20]。運動のグローバル化から生まれた最も有名なバンドの一つは、2011年にロシアで結成されたプッシー・ライオットである[20]。プッシー・ライオットは、2012年にモスクワ救世主ハリストス大聖堂の祭壇で無許可演奏を行いメンバーが逮捕されたことでメディアの注目を集め、フェミニズム、LGBTの権利、そしてグループが独裁者と見なしているロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政策への反対をテーマとした音楽を演奏している[21]


  1. ^ the Riot Grrrl Movement”. New York Public Library (2013年6月19日). 2021年1月27日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Kristen Schilt. “The History of Riot Grrls” (英語). The Feminist eZine. 2021年1月27日閲覧。
  3. ^ Garrison, Ednie-Kach (2000). “U.S. Feminism-Grrrl Style! Youth (Sub)Cultures and the Technologics of the Third Wave”. Feminist Studies 26 (1): 142. doi:10.2307/3178596. JSTOR 3178596. 
  4. ^ Marion Leonard. "Riot grrrl." Grove Music Online. Oxford Music Online. Oxford University Press. Web. 20 Jul. 2014.
  5. ^ When punk went feminist: the history of riot grrl” (英語). Gen Rise Media (2020年5月12日). 2021年1月27日閲覧。
  6. ^ Grrrl | Definition of Grrrl by Oxford Dictionary on Lexico.com also meaning of Grrrl” (英語). Lexico. 2021年1月27日閲覧。
  7. ^ a b R. Sabin, Punk Rock: So What?: The Cultural Legacy of Punk, (Routledge, 1999), ISBN 0415170303
  8. ^ a b c E. McDonnell, Rock She Wrote (Cooper Square Press, 1999), ISBN 0815410182
  9. ^ a b Marcus, Sara (2010). Girls to the Front. Harper. p. 146. ISBN 9780061806360 
  10. ^ Marcus, Sara (2010). Girls to the Front: The true story of the riot grrrl revolution. HarperCollins. p. 94. ISBN 9780061806360 
  11. ^ Bikini Kill | Biography & History” (英語). AllMusic. 2021年1月27日閲覧。
  12. ^ Andersen, Mark (2001). Dance of Days: Two Decades of Punk in the Nation's Capital. Soft Skull Press. ISBN 978-1887128490 
  13. ^ Leonard, Marion (1998). “Paper Planes: Travelling the New Grrrl Geographies”. Cool Places: Geographies of Youth Cultures. Routledge. pp. 101-118 
  14. ^ a b Darms, Lisa (June 11, 2013). The Riot Grrrl Collection. Feminist Press (CUNY). p. 168. ISBN 978-1558618220 
  15. ^ REVOLUTION, GIRL STYLE” (英語). Newsweek (1992年11月22日). 2021年1月27日閲覧。
  16. ^ (TwelveLittleGrrrls) - Articles”. Seventeen. 2020年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月27日閲覧。
  17. ^ Girl power | You've come a long way baby...” (英語). BBC News (1997年12月30日). 2021年1月27日閲覧。
  18. ^ Riot grrrl pioneers Bikini Kill: 'We're back. It's intense'” (英語). The Guardian (2019年1月9日). 2021年1月27日閲覧。
  19. ^ Steve Janes (2017年1月13日). “The Regrettes: "Feel Your Feelings, Fool" | riot grrrl resurgence - like Bikini Kill, Taco Cat” (英語). WithGuitars. 2021年1月27日閲覧。
  20. ^ a b Dunn, Kevin C. (2014-06-16). “Pussy Rioting”. International Feminist Journal of Politics 16 (2): 317-334. doi:10.1080/14616742.2014.919103. ISSN 1461-6742. 
  21. ^ Cadwalladr, Carole (2012年7月28日). “Pussy Riot: will Vladimir Putin regret taking on Russia's cool punks?” (英語). The Observer. ISSN 0029-7712. https://www.theguardian.com/world/2012/jul/29/pussy-riot-protest-vladimir-putin-russia 2021年1月27日閲覧。 
  22. ^ Laina Dawes (2013年5月15日). “Why I Was Never a Riot Grrrl” (英語). Bitch Media. 2021年1月27日閲覧。


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