ユーロクリア ユーロクリアの概要

ユーロクリア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/20 08:17 UTC 版)

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技術のルーツ

ヴィシー政権までフランスには行き届いた証券振替決済制度が存在しなかった。ナチス・ドイツ軍がパリ証券取引所を占領し、ライヒスバンクが理事長を任命した[5]。パリ証券取引所は証券の闇取引を抑制するために、1941年6月18日に根拠法を立てて有価証券預託・振替中央金庫(Caisse Centrale des Dépôts et Virements de Titres, CCDVT)を創設した[5]。CCDVTは市民が保有する証券を強制的に寄託させ、彼らの財産を把握するだけでなく、投資家の引き出しも禁じた[6]。1945年、フランス銀行が国内金融機関の保有する財務省証券を帳簿決済するよう命じられた[7]。1949年3月17日、ドイツなどが所有したフランス企業株式を原資としてフランス国営の投資信託が生まれた(Société Nationale d'Investissement)。1949年8月4日政令でフランス銀行をふくむ多くの国内金融機関が発起人となり、CCDVTはシコバン(Société interprofessionnelle pour la compensation des valeurs mobilières, SICOVAM)に改組され[6]、無記名株式を自由に出し入れさせるようになった。SFIOのアンドレ(BOULLOCHE, André François Roger Jacques)がシコバン初代頭取となった[8]。1955年8月、アンドレはモロッコの公共事業監督を命じられた。

1967年ベルギーの証券集中保管機関CIKが、シコバンをモデルに設立された[9]

ベルギーの庇護

投信に対する米国内の規制は海外に及ばず、ファンド・オブ・ファンズが欧州で流行り出した。

1963年ジョン・F・ケネディが国際収支の赤字是正のために外国企業のアメリカでの起債に課税する利子平衡税を導入し、海外投資家を国内債券市場から締め出した。1965年リンドン・ジョンソンは国内銀行が欧州をふくむ外国の投資家や米系企業子会社へ貸し付ける行為を制限し、モルガン・ギャランティ・トラストがユーロ債を初めて発行するのを断念させた。[10]

そこで1967年ベルギー政府が証券の帳簿決済(book entry)を許可する法律を通過させた。そしてベルギーの証券集中保管機関CIK(Caisse Interprofessionnelle de Dépôts et de Virements de Titres SA.)が創設された。翌1968年、これを母体にしてユーロクリアという世界初の国際証券集中保管機関が設立された。原出資者は50くらいの銀行とブローカーであった。[10]

ユーロクリアがテレックスやファックスを使いDVP決済(Delivery versus payment)を担当し、現物はカストディアンに預託された。1970年からクリアストリームの前身であるセデルが創設された。1972年、ユーロクリアは持株会社(Euroclear Clearance System plc.)に売却された。この持株会社は英国籍で、ユーロクリアの常連客である120以上のメガバンクやブローカーおよびその他の金融機関が出資していた。にもかかわらず、20世紀の間ユーロクリアを経営しつづけたのはモルガン・ギャランティ・トラストであった。オイルショックでユーロ債保証業務が挫折するとユーロカレンシーの決済市場を取り仕切った。[10]

1973年、セデルと共に国際銀行間通信協会を設立した。この年アメリカで証券集中保管機関ができた(DTC)。1978年8月11日、ユーロクリアと日本証券界が、同月25日発行のデンマーク円建債券をユーロクリア取扱銘柄とすることで合意した[11]

ユークリッド・システム

1987年4月10日現在のユーロクリア会長はドイツ銀行のロルフであった(年報に見る取締役員構成)。

1984年ユーロクリアはユークリッド(EUCLID)という電子DVP決済システムを採用した。1986年、ざっと2000ほどのユーザーが出資する形で新会社が生まれた(Euroclear Clearance System Société Coopérative)。持株会社が新会社にユーロクリアの決済システムをライセンスした。ユーロクリアはシステムを改良しながらプライベート・エクイティ・ファンドミューチュアル・ファンドにも投資するようになった。ユークリッドがパソコン対応となり、ユーロクリアは1993年末まで一日の稼働時間を延ばしつづけた。1993年はセデルと合意し(the Bridge agreement)、互いの国際決済口座を双方向で決済するようになった。[10]

それから、クレストなどの証券集中保管機関ができて、ロスチャイルドがパリで変死をとげ、セデルが匿名口座を乱発した。ユーロクリアの研究開発費は1995年の1730万ドルから1998年に5390万ドルとなった[10]

やがて欧州連合各国間の即時グロス決済システムであるターゲット(Trans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer System)が利用されだした。ユーロクリアは各国の証券集中保管機関やターゲットを統合してしまおうと、かねてから動いていた。ユーロクリアの報告書に「ハブ・アンド・スポーク("The Hub and Spokes Clearance and Settlement Model")」という構想が記されている。これはユーロクリアとクリアストリームが欧州の国際決済を統括するというものであった。[10]

2000年5月ユーロクリアバンクが設立された。9月に各証券集中保管機関で著しい開発が行われた。そしてユーロクリアバンクが下半期に機関投資家専用プラットフォームを立ち上げた(FundSettle International)。同年末にモルガン・ギャランティ・トラストがユーロクリアの経営権を交代することになった。[10]


注釈

  1. ^ 原初Euro-Clearとハイフンをつけていたが、1990年からつけなくなった。
  2. ^ シコバンは1998年フランス銀行から国債などの証券決済業務を引き継いでいた。
  3. ^ 1996年7月にイングランド銀行が中心となって設立された。イギリスでは、日本と同様、商品毎に決済システムが分立していたが、国債、短期金融商品についても1999年にCRESTに統合された。
  4. ^ バンク・オブ・ニューヨーク・メロンはユーロクリアから複数の人材を登用している[16]
  5. ^ RUFO条項は、ホールドアウト債権者に過去の債務再編時よりも良い条件を提示することを禁じている。[19]

出典

  1. ^ a b 金融先物取引業協会 会報 No.96 平成25年3月
  2. ^ Reuters, "Kazakhstan working with Euroclear on securities link", January 24, 2018
  3. ^ Reuters, "Euroclear to offer dollar settlement in central bank money for first time", October 1, 2018
  4. ^ Times, "Euroclear connects to US Federal Reserve settlement service", October 2 2018
  5. ^ a b 富田俊基 『国債の歴史 金利に凝縮された過去と未来』 東洋経済新報社 2006年 463頁
  6. ^ a b 河本一郎 「株券振替決済制度に関する諸問題」 証券研究 第41巻 1975年2月 76頁
  7. ^ Peter Norman, Plumbers and Visionaries: Securities Settlement and Europe's Financial Market, John Wiley & Sons, 2008, p.40.
  8. ^ 河本一郎 「株券振替決済制度に関する諸問題」 証券研究 第41巻 1975年2月 77頁
  9. ^ 河本一郎 「株券振替決済制度に関する諸問題」 証券研究 第41巻 1975年2月 37頁
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r International Directory of Company Histories, Vol.188. pp.156-160.
  11. ^ 『日本証券史資料 戦後編 別巻二 証券年表(明治・大正・昭和)』 日本証券経済研究所 1989年
  12. ^ 野村総合研究所 ユーロクリア・フランスがプラットフォームを一本化 (PDF) 2007年12月
  13. ^ 野村総合研究所 2015年に延期された欧州T2Sの実現 2011年12月号
  14. ^ “ECBの決済プラットフォーム、ユーロ圏の大半の決済機関が参加表明”. ロイター. (2012年7月4日). http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE86303C20120704 
  15. ^ “アルゼンチンのユーロ建て債保有者がユーロクリアなどを提訴”. Bloomberg. (2014年7月7日). http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N8BJ9L6JTSES01.html 
  16. ^ “BNY Mellon taps another Euroclear veteran for European business”. GlobalCustodian. (2018年6月14日). https://www.globalcustodian.com/bny-mellon-taps-another-euroclear-veteran-european-business/ 
  17. ^ 国際通貨研究所 蓄積した歪みの是正を迫られるアルゼンチン (PDF) p.8.
  18. ^ 外務省 アルゼンチン共和国基礎データ 13.経済概要
  19. ^ “アルゼンチン債務問題で協議、一部債権者は支払命令停止要請”. ロイター. (2014年7月30日). http://jp.reuters.com/article/arg-idJPKBN0FY2EA20140730 
  20. ^ a b 在アルゼンチン日本国大使館 2014年7月アルゼンチンの経済情勢 2014年8月作成
  21. ^ “アルゼンチン債務問題、米地裁が銀行などからの申立を22日審理へ”. ロイター. (2014年7月17日). http://jp.reuters.com/article/idJPL4N0PR5XC20140716 
  22. ^ 在アルゼンチン日本国大使館 2014年8月アルゼンチンの経済情勢 2014年9月作成
  23. ^ “アルゼンチン、ホールドアウト債権者からの協議再開要請を検討”. ロイター. (2015年2月20日). http://jp.reuters.com/article/argentina-holdoutw-idJPKBN0LO0BE20150220 
  24. ^ 在アルゼンチン日本国大使館 2015年3月アルゼンチンの経済情勢 2015年4月作成
  25. ^ 日銀 決済インフラを巡る国際的な潮流とわが国への含意 2012年5月 HKMA/Euroclear(汎アジアCSDアライアンス)
  26. ^ エルネスト・バックス ドゥニ・ロベール 『マネーロンダリングの代理人 暴かれた巨大決済会社の暗部』 徳間書店 2002年 pp.179-180.





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