ヒッグス粒子 実験

ヒッグス粒子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/18 22:33 UTC 版)

実験

素粒子の標準模型がヒッグス機構に拠って立つことを完全に立証する為には、ヒッグス粒子の探索が重要となる[注 2]。ヒッグス粒子は標準模型の中で最後まで未発見のまま残された素粒子であり、実際に捕捉すべく長年に渡って実験が行われてきた。その発見は高エネルギー物理学の加速器実験の最重要目的の一つと位置づけられるようにもなり、ジュネーブ郊外に建設され、2008年より稼働した欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(以下LHC)での発見が期待されていた。その実験はたやすいものではなく、LHCを用いた衝突実験でも、理論計算によるとおよそ10兆回に1回しか生成されないとされている。つまり理論が正しい場合でも、それによって予測される粒子は、巨大・巨額の装置および大量の人員を長年に渡って用いる手法で実験を行っても、生成自体が大きな困難だとされている。

2011年12月のこと、「ヒッグス粒子」が「垣間見られた」と発表され[2][3][4][5][6][7][8][9][10]、そのニュースが世界を駆け巡った。

2011年12月、CERNは、2つの研究グループが示したLHCの10月末までの実験データの中に、ヒッグス粒子の存在を示唆するデータがあることを見つけ、12日、ヒッグス粒子は 「glimpse(垣間見えた)」と発表した。これは、「発見」の発表ではない。発表の最後にCERNの所長は、「ヒッグス粒子が発見されたかどうかを決定するにはより多くのデータが必要である。次の稼働期間(2012年11月のデータ収集期間)が終われば決定されるであろう」と語った。

翌日の13日に、ATLAS実験グループとCMS実験グループはそれぞれ、ヒッグス粒子が存在するとして95%の信頼性区間に対応する質量領域が 115–130 GeV/c2 (ATLAS)、115–127 GeV/c2 (CMS) と発表した。最も可能性の高い範囲は、3.6σσ は1標準偏差)の統計レベルで 125-126 GeV/c2 (ATLAS)、2.6σ124 GeV/c2 (CMS) である[2][3][4][5][6][7][8][9][10]

その後、2012年7月4日、同施設で「新たな粒子を発見した」と発表された。質量はCMS:125.3 GeV/c2(統計誤差は±0.4、系統誤差は±0.5、標準偏差は5.8)[11]、ATLAS:126.0 GeV/c2(統計誤差は±0.4、系統誤差は±0.4、標準偏差は5.9)[12]である。だが、この「新しい粒子」が、捜し求めていたヒッグス粒子であるのかそうではないのか、ということについては確定的には表現されず、さらに精度を高めて確かめるために実験が続けられる、とされた[13][14]

2013年3月14日にCERNは、2012年7月31日の時よりも2.5倍も多いデータを分析した結果、新たな粒子はヒッグス粒子である事を強く示唆していると発表した。例えば、ヒッグス粒子は理論的にはスピン角運動量が0であるとされているが、データ解析の結果それと一致することが確かめられた。

ヒッグス粒子を大量に生成しうる加速器施設を「ヒッグスファクトリー」と呼ぶ。計画・構想として、日本が候補地の一つである「国際リニアコライダー(ILC)」のほか、中華人民共和国の「CEPC」、欧州の「FCC」「CLIC」がある[15]


注釈

  1. ^ 場の量子論素粒子物理学)においては、粒子とはに生じる素励起と理解され、場が存在すれば対応する粒子も存在すると考える。
  2. ^ 仮に標準模型のヒッグス粒子が存在しなかったとしても、近似理論としての意味は否定されない。

出典

  1. ^ a b c d 『改訂 物理学事典』培風館、1992
  2. ^ a b “ATLAS experiment presents latest Higgs search status”. CERN. (2011年12月13日). オリジナルの2012年1月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120106070159/http://www.atlas.ch/news/2011/status-report-dec-2011.html 2011年12月13日閲覧。 
  3. ^ a b “CMS search for the Standard Model Higgs Boson in LHC data from 2010 and 2011”. CERN. (2011年12月13日). http://cms.web.cern.ch/news/cms-search-standard-model-higgs-boson-lhc-data-2010-and-2011 2011年12月13日閲覧。 
  4. ^ a b “Detectors home in on Higgs boson”. Nature News. (2011年12月13日). http://www.nature.com/news/detectors-home-in-on-higgs-boson-1.9632 2011年12月13日閲覧。 
  5. ^ a b “LHC: Higgs boson 'may have been glimpsed'”. BBC. (2011年12月13日). http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-16158374 2011年12月13日閲覧。 
  6. ^ a b “Higgs boson: LHC scientists to release best evidence (Updated)”. BBC. (2011-12-13 (Updated)). http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-16116230 2011年12月13日閲覧。 
  7. ^ a b “Have scientists at the LHC found the Higgs or not?”. BBC. (2011年12月12日). http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-16111562 2011年12月12日閲覧。 
  8. ^ a b “Cern scientist expects 'first glimpse' of Higgs boson”. BBC. (2011年12月7日). http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-16074411 2011年12月8日閲覧。 
  9. ^ a b “'Moment of truth' approaching in Higgs boson hunt”. BBC. (2011年12月1日). http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-15991392 2011年12月8日閲覧。 
  10. ^ a b “Higgs particle could be found by Christmas”. BBC. (2011年9月1日). http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-14731690 2011年9月2日閲覧。 
  11. ^ CMS Collaboration (31 July 2012), Observation of a new boson at a mass of 125 GeV with the CMS experiment at the LHC, http://arxiv.org/pdf/1207.7235 2012年8月15日閲覧。 
  12. ^ ATLAS Collaboration (31 July 2012), Observation of a new particle in the search for the Standard Model Higgs boson with the ATLAS detector at the LHC, http://arxiv.org/abs/1207.7214 2012年8月15日閲覧。 
  13. ^ 長年探索してきたヒッグスボソンとみられる粒子を CERN の実験で観測 LHC アトラス実験
  14. ^ “Latest update in the search for the Higgs boson”. CERN. (2012年7月4日). http://indico.cern.ch/conferenceDisplay.py?confId=197461 2012年7月4日閲覧。 
  15. ^ 「ヒッグス粒子 量産工場/日本難航 横目に中国で計画/宇宙解明 けん引役に」日経産業新聞』2019年4月9日(16面)2019年4月11日閲覧。
  16. ^ “Rochester's Hagen Sakurai Prize Announcement” (プレスリリース), University of Rochester, (2010), オリジナルの2012年7月8日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20120708010234/http://www.pas.rochester.edu/urpas/news/Hagen_030708 
  17. ^ “Anything but the God particle”. The Guardian. (2009年). http://www.guardian.co.uk/science/blog/2009/may/29/why-call-it-the-god-particle-higgs-boson-cern-lhc 
  18. ^ Leon M. Lederman and Dick Teresi (1993) (英語). The God Particle: If the Universe is the Answer, What is the Question. Houghton Mifflin Company 
  19. ^ Ian Sample (2009年3月3日). “Father of the God particle: Portrait of Peter Higgs unveiled”. London: The Guardian. http://www.guardian.co.uk/science/blog/2009/mar/02/god-particle-peter-higgs-portrait-lhc 2009年6月24日閲覧。 
  20. ^ a b c d e f Ian Sample (2009年5月29日). “Anything but the God particle”. London: The Guardian. http://www.guardian.co.uk/science/blog/2009/may/29/why-call-it-the-god-particle-higgs-boson-cern-lhc 2009年6月24日閲覧。 
  21. ^ The Higgs boson: Why scientists hate that you call it the ‘God particle’”. National Post (2011年12月14日). 2011年1月6日閲覧。
  22. ^ Ian Sample (2009年6月12日). “Higgs competition: Crack open the bubbly, the God particle is dead”. The Guardian (London). http://www.guardian.co.uk/science/blog/2009/jun/05/cern-lhc-god-particle-higgs-boson 2010年5月4日閲覧。 






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