ヒッグス粒子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/18 22:33 UTC 版)
さまざまな呼称
まずはじめにベンジャミン・W・リーらによって「ヒッグス粒子」と命名された[16][17]。
その後、レオン・レーダーマンらの著書"The God Particle"(邦訳題『神がつくった究極の素粒子』)[18]の書名が元となって[19]「God particle(神の粒子)」という呼称でマスメディアに紹介されるようになった[20]。ただし、この本の中では、レーダーマン自身はこの粒子を 「goddamn particle(いまいましい粒子)」という呼称で紹介しようとしていたが、編集者の意向で却下された、と説明されている。
「神の粒子」という呼称は、素粒子物理学やLHCについてジャーナリストらに興味もたせるのには役に立ったようである[21]。だが、物理学者の多くはこの呼称を好ましいものと思っていない。たとえばマンチェスターのある物理学者などはこの呼称について感想を求められたところ、ため息をついて、「この呼称は、本当に本当に好ましくない」と言ったという。この呼称が間違ったメッセージを発しているからだという[20]。「神の粒子」という異名には、レーダーマンが自著で行った、この粒子が特別に重要だとする主張が込められているが[20]、実際には、この粒子が見つかったとしてもそれは量子色力学、電弱相互作用と重力の統一理論の解答にはならないし、また宇宙の究極の起源について解答を与えてくれるものでもなく、つまり、物理学的に見てさほど究極のものというわけではない[20]。またピーター・ヒッグスも、インタビューされた時に、この「神の粒子」という呼称は避けたいと述べたという。この呼称は宗教的な人々に対する攻撃になってしまうのではないか、と気にしているという[20]。
なおヒッグス自身は、自分自身とこの粒子との間にしっかり距離を置いた見方をしており、「ヒッグス粒子」とは呼ばず、「so-called Higgs boson(いわゆる ヒッグス粒子と呼ばれているもの)」といった言い回しを使う[20]。
イギリスの新聞『ガーディアン』の科学担当記者が他の呼称を募集したが、応募された多くの候補の中から選ばれた最も妥当な名前は「シャンパン・ボトル・ボソン」である。ヒッグス・ポテンシャルの形がシャンパン・ボトルの底(パント)の形状に似ているためで、物理の講義でもよく説明に使われる。「シャンパン・ボトル・ボソン」という呼称は「神の粒子」という呼称ほどにはインパクトはないが、覚えやすく、多くの物理学的議論に関連がある[22]。シャンパン・ボトルの底の形は、例えば、ハドロンに質量を与える南部理論(カイラル対称性の自発的破れ)に現れる。また、カイラル対称性の自発的破れのアイディアは、南部が超伝導の理論であるBCS理論に触発されたものだが、BCS理論に出てくるポテンシャルもシャンパン・ボトルの形である。
注釈
出典
- ^ a b c d 『改訂 物理学事典』培風館、1992
- ^ a b “ATLAS experiment presents latest Higgs search status”. CERN. (2011年12月13日). オリジナルの2012年1月6日時点におけるアーカイブ。 2011年12月13日閲覧。
- ^ a b “CMS search for the Standard Model Higgs Boson in LHC data from 2010 and 2011”. CERN. (2011年12月13日) 2011年12月13日閲覧。
- ^ a b “Detectors home in on Higgs boson”. Nature News. (2011年12月13日) 2011年12月13日閲覧。
- ^ a b “LHC: Higgs boson 'may have been glimpsed'”. BBC. (2011年12月13日) 2011年12月13日閲覧。
- ^ a b “Higgs boson: LHC scientists to release best evidence (Updated)”. BBC. (2011-12-13 (Updated)) 2011年12月13日閲覧。
- ^ a b “Have scientists at the LHC found the Higgs or not?”. BBC. (2011年12月12日) 2011年12月12日閲覧。
- ^ a b “Cern scientist expects 'first glimpse' of Higgs boson”. BBC. (2011年12月7日) 2011年12月8日閲覧。
- ^ a b “'Moment of truth' approaching in Higgs boson hunt”. BBC. (2011年12月1日) 2011年12月8日閲覧。
- ^ a b “Higgs particle could be found by Christmas”. BBC. (2011年9月1日) 2011年9月2日閲覧。
- ^ CMS Collaboration (31 July 2012), Observation of a new boson at a mass of 125 GeV with the CMS experiment at the LHC 2012年8月15日閲覧。
- ^ ATLAS Collaboration (31 July 2012), Observation of a new particle in the search for the Standard Model Higgs boson with the ATLAS detector at the LHC 2012年8月15日閲覧。
- ^ 長年探索してきたヒッグスボソンとみられる粒子を CERN の実験で観測 LHC アトラス実験
- ^ “Latest update in the search for the Higgs boson”. CERN. (2012年7月4日) 2012年7月4日閲覧。
- ^ 「ヒッグス粒子 量産工場/日本難航 横目に中国で計画/宇宙解明 けん引役に」『日経産業新聞』2019年4月9日(16面)2019年4月11日閲覧。
- ^ “Rochester's Hagen Sakurai Prize Announcement” (プレスリリース), University of Rochester, (2010), オリジナルの2012年7月8日時点におけるアーカイブ。
- ^ “Anything but the God particle”. The Guardian. (2009年)
- ^ Leon M. Lederman and Dick Teresi (1993) (英語). The God Particle: If the Universe is the Answer, What is the Question. Houghton Mifflin Company
- ^ Ian Sample (2009年3月3日). “Father of the God particle: Portrait of Peter Higgs unveiled”. London: The Guardian 2009年6月24日閲覧。
- ^ a b c d e f Ian Sample (2009年5月29日). “Anything but the God particle”. London: The Guardian 2009年6月24日閲覧。
- ^ “The Higgs boson: Why scientists hate that you call it the ‘God particle’”. National Post (2011年12月14日). 2011年1月6日閲覧。
- ^ Ian Sample (2009年6月12日). “Higgs competition: Crack open the bubbly, the God particle is dead”. The Guardian (London) 2010年5月4日閲覧。
- 1 ヒッグス粒子とは
- 2 ヒッグス粒子の概要
- 3 実験
- 4 さまざまな呼称
- 5 脚注
- 6 外部リンク
ヒッグス粒子と同じ種類の言葉
- ヒッグス粒子のページへのリンク