ニュー・ホライズンズ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 17:08 UTC 版)
概要
ニュー・ホライズンズの打ち上げ費用は、ロケット製造費、施設利用費、装置開発経費及びミッション全体の人件費を含み、約7億ドル(日本円で約800億円)である。ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所のミッションチームが管制を行っている。
地球での打ち上げ時の探査機本体の質量は、推進剤77 kg含めて、465 kgだった。本体を軽量にして、生じたロケットの推力の余裕は、探査機の航行速度の向上に充てられた。打ち上げ直後の対地球速度は約16 (km/s)を超え、これは歴代の探査機の中で最高速度である[1]。発射後9時間で月の軌道(地球から約38万 km)を通過し、13ヵ月後に木星をスイングバイした。月軌道および木星までの所要期間は、史上最短である。
太陽系外縁天体近傍は太陽から遠いために、光が弱くて太陽電池を使えないため、原子力電池を搭載している[2]。また、冥王星軌道からの通信速度は、僅か800 bps弱に過ぎないため、64 Gbit(8 GB)相当のフラッシュメモリを搭載し[注 2]、冥王星探査で取得したデータはメモリに蓄積してから、長期間かけて地球へと送信する[注 3]。
ミッション用機器の他に、星条旗、公募した43万人の名前が記録されたCD-ROM、史上初の民間宇宙船スペースシップワンの機体の一部だったカーボンファイバーの破片、冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰が搭載された。遺灰の搭載については、打上げ後に公表された。また、2014年には「New Horizons Message Initiative」が結成された。人類からエイリアンへ向けたデジタル・メッセージを公募して、全ての任務完了後のニュー・ホライズンズに送信する計画である[3]。
当初、打ち上げは2006年1月11日(EST)の予定だったが、ロケット本体の点検や天候不順などで再三延期された[注 4]。
この探査機の打上げ機のアトラスVは、初段に固体ロケットブースターのAJ-60Aを5基付けた、同機によって実施された打ち上げとしては最大の構成である「551」による打ち上げの最初の事例である[注 5]。
前述のような多数のブースターと軽いペイロードのために、第2段のセントールすら地球の重力圏から脱出して、小惑星帯に遠日点を持つ人工惑星となった。更に、最終段である第3段のスター48ロケットモーターは、冥王星軌道の外側へと飛んでゆく軌道に入った。
冥王星軌道を通過後のニュー・ホライズンズにより、さらにエッジワース・カイパーベルト内の別の太陽系外縁天体を探査することが計画されている。目標にでき得る天体は、日本のすばる望遠鏡も参加して打ち上げ後も捜索が行われ[4]、複数の候補が挙げられた。2015年8月28日に、観測候補として2014 MU69が選ばれたと発表された[5]。
2014 MU69はウルティマ・トゥーレと言う愛称が付けられ、ニュー・ホライズンズは2019年1月1日に最接近し、近接探査した[6]。これにより同天体は赤い雪ダルマのような形状が確認され、接触二重小惑星であることを明らかにした。 その後、2019年11月8日になって国際天文学連合(IAU)の小惑星センターが「2014 MU69」の固有名を「アロコス」(Arrokoth)に決定した旨を公表した。
注釈
- ^ ただし、打ち上げ時点では冥王星は惑星とされていた(惑星#太陽系の惑星の定義参照)。
- ^ 64 Gbitsなので、記録容量は8 GBであり、8 GBは一般的なUSBメモリにも用いられている容量であるため、記録容量が少ないように思うかもしれない。しかし、単にフラッシュメモリと言っても、地球上で使用する一般の市販品と異なり、宇宙線に耐えられなければならないなど、使用環境が全く異なる。一般に記録密度が高くなればなる程、宇宙線などの影響には弱くなる傾向にあるため、宇宙用のフラッシュメモリの記録容量を増やすのは、21世紀初頭の技術においてもなお容易ではない。
- ^ 仮に800 (bit/秒)の速度でデータを受け取り続けたとしても、もしも64 Gbitsのデータを受信しようとすると、925日間を超える時間を必要とする。
- ^ アトラスロケットの燃料タンクに亀裂が生じる可能性が有ると判明し、点検のため現地時間11日から17日に延期した。さらに天候状態の悪化により18日に、管制施設の停電により19日に延期した。打ち上げが2月3日以降まで遅れた場合は、木星スイングバイによる増速が不可能となり、冥王星到達が3年から5年遅れる可能性があった。打上げウィンドウの記事も参照の事。
- ^ 2018年末の時点で、この構成による打ち上げは、その後8回の合計9回が実施され、いずれも成功した。これより大きな構成である、CCBを3本にした構成(デルタIVヘヴィーやファルコン9ヘヴィーに類似)は開発が中止された。
- ^ 近接遭遇すると判明したのは打ち上げ後。当時は仮符号のみで2002 JF56と呼ばれていたが、通過後にAPLと命名された。
- ^ 2006年12月、ミッションチームのメンバーがロンドンを訪問し、88歳のヴェネチア・バーニーと対面した。
出典
- ^ New Horizons Successfully Performs First Post-Launch Maneuvers 2012年11月23日閲覧
- ^ 小谷 太郎 『宇宙の謎に迫れ! 探査機・観測機器61』 p.84、p.88 ベレ出版 2020年3月25日発行 ISBN 978-4-86064-611-0
- ^ “2020年、任務を終えた探査機に送信される人類からのメッセージ”. Wired.jp. (2014年6月30日) 2014年7月6日閲覧。
- ^ “Pluto-bound probe faces crisis” (英語). Nature News. pp. 407–408 (2014年5月20日). doi:10.1038/509407a. 2015年9月6日閲覧。
- ^ “NASA’s New Horizons Team Selects Potential Kuiper Belt Flyby Target”. ジョンズ・ホプキンス大学. (2015年8月28日) 2015年8月30日閲覧。
- ^ a b 塚本直樹 (2019年1月3日). “ウルティマ・トゥーレは赤い雪だるま型か。ニュー・ホライズンズから新撮影画像”. sorae.jp 2019年1月7日閲覧。
- ^ NASA Spacecraft Gets Boost From Jupiter for Pluto Encounter 2012年11月23日閲覧
- ^ “ニューホライズンズ、旅の中間点に到達”. AstroArts. (2010年1月6日) 2010年1月12日閲覧。
- ^ “On Pluto’s Doorstep, NASA’s New Horizons Spacecraft Awakens for Encounter”. NASA. (2014年12月6日) 2014年12月26日閲覧。
- ^ “探査機「ニューホライズンズ」が冥王星の観測を開始!”. JAXA. (2015年1月28日) 2015年3月19日閲覧。
- ^ “最接近まであと半年 「ニューホライズンズ」がとらえた冥王星”. アストロアーツ. (2015年2月5日) 2015年3月19日閲覧。
- ^ “冥王星に迫るNASA探査機「ニューホライズンズ」、7日にセーフモードから復帰へ”. ITmediaニュース. (2015年7月6日) 2015年8月22日閲覧。
- ^ “米探査機、冥王星に最接近 「歓喜の瞬間」”. AFPBB News (2015年7月15日). 2020年10月3日閲覧。
- ^ “New Horizons”. ジョンズ・ホプキンス大学 応用物理学研究所. 2015年9月26日閲覧。 Timeline 欄を参照。
- ^ KENNETH CHANG (2016年10月28日). “No More Data From Pluto”. New York Times 2017年2月1日閲覧。
- ^ a b c “ニューホライズンズ、65億km彼方のウルティマ・トゥーレをフライバイ探査” (2019年1月7日). 2019年1月22日閲覧。
- ^ 小谷 太郎 『宇宙の謎に迫れ! 探査機・観測機器61』 p.88 ベレ出版 2020年3月25日発行 ISBN 978-4-86064-611-0
- ^ 小谷 太郎 『宇宙の謎に迫れ! 探査機・観測機器61』 p.88、p.89 ベレ出版 2020年3月25日発行 ISBN 978-4-86064-611-0
- ^ “New Horizons Mission — Spacecraft Systems and Components”. pluto.jhuapl.edu. 2024年4月30日閲覧。
- ^ “New Horizons Kids”. The Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory LLC.. 2019年9月12日閲覧。
- ^ “惑星地質ニュース 第17巻 第1号(ニューホライゾンズ計画に問題点)”. 惑星地質研究会. 2009年12月30日閲覧。
- ^ “New Horizons 2”. Lunar and Planetary Institute Outer Planets Assessment Group. 2010年1月12日閲覧。
固有名詞の分類
NASAの宇宙探査機 |
パイオニア11号 マリナー10号 ニュー・ホライズンズ エウロパ・オービター WMAP |
木星探査機 |
ボイジャー2号 パイオニア11号 ニュー・ホライズンズ エウロパ・オービター EJSM |
小惑星探査機 |
ディープ・スペース1号 ニュー・ホライズンズ はやぶさ2 NEARシューメーカー |
太陽系外縁天体 |
惑星X オールトの雲 エッジワース・カイパーベルト エッジワース・カイパーベルト天体 ニュー・ホライズンズ |
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